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第14話 「白紙に戻して」

 藤堂君は、立ち止まりじっと私を見ている。どうしよう。

「あ、えっと」

 何て言おう。このまま帰りたくはない。まだ、藤堂君と話がしたい。

「お、お腹、やっぱり空いてる」


 それだけ、どうにか私は口にした。

「じゃ…、一緒に食べて帰る?」

 藤堂君が、少し言葉に詰まりながら聞いてきた。

「うん…」

 私がうなずくと、藤堂君は私の横に来て、一緒にまた歩幅を合わせて歩き出した。


 引き留めたはいいけど、私、藤堂君と2人でご飯食べれるかな。

 ちゃんと話できるのかな。

 ああ、なんだかいきなり緊張してきた。


 お店に着くまでも、2人とも何も話さず、

「あ、ここなの」

と私が言うと、藤堂君はちょっとほっとした顔をした。

 だんまりになってて、悪かったかな。ああ、私、ちゃんと話しないとだめだよね。


「あのね、いつもたらこのパスタを頼むんだけど、美味しいよ」

 必死で席に着いてすぐに私はそう言った。

「そう?じゃ、それにしようかな」

 藤堂君はそう言うと、注文を聞きに来た店員にたらこのパスタを二つ注文した。


「…」

 私は水をゴクンと飲んだ。ああ、目の前に藤堂君がいる。なんだか、顔を合わせるのも恥ずかしい。

 チラ。ほんのちょっと藤堂君を見ると、藤堂君は店を見まわしたり、メニューを広げたりしている。

「あ、もしかして、他に食べたいパスタあった?」

 私がそう聞くと、

「え?いや、別に」

と藤堂君は、ぶっきらぼうに答えた。


「……」

 やばい。まただんまりだ。

「あの…」

 うわ。今度は同時に話し出しちゃった。

「あ、結城さん、話していいよ」


「ううん。藤堂君こそ、なに?」

「たいしたことないから、結城さんこそ、なにか聞きたかったとか?」

「ううん。そういうわけじゃ…」

 だんまり。

 駄目だ。なんなんだ。この展開は…。


「ごめんね」

「え?何が?!」

 藤堂君がびっくりしている。

「私、ほんと、男子と話すの苦手で…。会話も続かないし、藤堂君も困るよね」


「いや、こっちこそ。何も気の利いたこと言えないし…」

 そう言うと藤堂君は小さくため息をついた。

 ため息?つまらないって思ってるのか、それとも?

「沼田とは、どんな話してたの?この前」

「え?!」


 沼田君?それは藤堂君のことが好きで、協力してくれるって話だけど、そんなこと言えないっ。

「なんだっけ?多分、なんでもないたわいない話…。あ、麻衣のこととか、美枝ぽんのこととか?」

「そっか…」

 ゴクン。あ、生唾が出た。


 そこにパスタが運ばれてきた。よかった。美味しいねとか言って、話題ができるかも。

 でも、藤堂君はただ、黙々と食べてて、私は緊張でパスタがのどを通っていかなかった。

 セットのサラダも食べ終わり、アイスコーヒーを藤堂君は飲むと、

「うまかったよ」

と一言言った。


「そう?よかった」

 私はまだ、パスタが食べきれないでいた。困った。もう胸がいっぱいで、食べれそうもない。

「ゆっくり食べていいよ。俺、いつも食べるの早いんだよね」

「そうなの?」


「まあ、弓道部の連中がみんな早いからな…」

「みんな、仲いいよね」

「…うん。でも…」

 でも?

「結城さんには、迷惑かけたよね。ごめん」


「え?私?なんで?見学もさせてもらったし、まったくそんな…迷惑なんて」

「…でもさ、あいつらやたらと見学に来てとか、結城さんに話しかけて、ちょっとうっとおしかったでしょ?」

「ううん。見学行きやすくなって、ありがたかったけど…」

「…ほんと?」


「うん」

 もしかして、私が困ってるって思ったのかな。藤堂君。

「だったら、よかったけど…」

「き、気にしてくれてたの?」


「え?ああ、うん。弓道部の今の2年、みんな俺が結城さんを好きだったのも知ってたし、だからあれこれ、気を回すつもりであんなふうにやたらと声かけてたけど、それが結城さんには、うっとおしかったんじゃないかなって、ちょっと気になってたんだよね…」

「そんなことないよ。みんな声かけてくれたの、嬉しかったって言うか…」

「え?」

「本当に、うっとおしいなんて思ったことないから」


「……そっか」

 藤堂君は静かにそう言うと、水を一口飲んだ。私は少しだけパスタを口にして、それからアイスティーを飲んだ。

 迷惑だって部員のみんなに怒ったのは、私のことを気遣ってのことだったのかな。


 もしかして、もしかすると、藤堂君はすごく優しい人なんじゃないかな。今だって、目の前にいて、確かに私は緊張してるけど、でも、藤堂君といると、沼田君や柏木君といる時とは違う、優しい穏やかな空気が流れてるのを感じる。

 チラ。藤堂君を見た。ちょっと目が合って、藤堂君は視線を外した。


 …。今、なんだか、すんごい優しい目で見てなかった?!

 ドキドキドキドキ~~。わ、いきなり鼓動が…。


 話なんかできなくなった。話なんかできなくてもいい。今、目の前に藤堂君がいて、胸がときめいていて、それだけで私、すごく満たされちゃってる。

 ああ、時間が止まってくれたらいいのに。なんて、思っちゃってる。


「もう、お腹いっぱい?」

 藤堂君が聞いてきた。

「え?う、うん」

「小食なんだね?」

「ううん、いつもはこのくらい簡単に食べてる…」


 はっ!今、変なこと言ったかな。

「俺が一緒で、緊張して食べれないとか?」

「え?」

 うわ。うなずくところ?これ。でも、そんなこと言ったら、私が藤堂君を好きなのばれる?

「男子と一緒にご飯食べるのは、やっぱ、緊張するのかな」


 あ、そっか。そういう解釈か。いや、この前は沼田君といてもぺろりとたいらげたけど。

「そ、そうなのかも…」

 一応、そういうことにしておこう。

「…部の奴が言ってた」

「え?なんて?」


「結城さん、お前が言ってた通りの子だよねって」

「言ってた通り?ってど、どんな?」

 どんなこと言ってたの?藤堂君。

「今っぽくないっていうか、奥ゆかしいっていうか」

「え?!」


「きっと、貴重な存在?」

「私が?!」

「うん」

 グルグル。首を横にふった。絶対に知らなすぎるよ、私のこと。

「でも、ずっと見てて、そう思ったけどな、俺」


 ドキン。ずっと見てて?!

「たださ、同じクラスになったら、前の結城さんと違っちゃってたから」

「え?ど、どんなふうに?」

「笑わなくなってた」

「…」


「それも、俺が原因だったんだよね?」

 ドキン。そ、そうだ。最初はそうだった。藤堂君が同じクラスで、本当に気が重くって。でも、今は違うよ。と、今言いたい、けど言えない。

「…だけど、こうやってご飯食べるの、ついてきてくれたってことはさ、もう俺のこと避けてないってことかな」


「え?」

「その…」

 藤堂君の顔が…、赤い?!

 藤堂君は横を向いて、しばらく黙り込んだ。それからまた、こっちを見た。

「…こんな時、どういって言いか、よくわかんないんだけど、笑顔がなくなったのが俺のせいだったとしたら、笑顔取り戻してほしいって思ってたんだ」


「え?」

「だから、その…。結城さん、沼田と話してても楽しそうにしてたし、明るくなってたし、だから、本当によかったなってそう思って…」

 そんなこと思ってたの?!

「聖先輩とも話せて、喜んでたし、もとの結城さんに戻れたみたいで、俺、ちょっと今安心してるって言うか」


「まさか、すごく責任感じてたの?」

「いや、えっと。責任っていうより、ただ、笑ってほしいなって思ってた…」

「…」

「だからよかった」

「…」


「絵もスランプって言ってたから、気になってた。でも、描く気になってよかったなって…」

 な、なにそれ。じゃ、ずっと私のこと気遣ってくれたり、気にしててくれたってこと?

 ふられた相手だよ?

 じゃあ、じゃあ、もしかして、もう何とも思ってないとか、重たく考えないでとか、そういうのも全部、私のことを思って言ってくれてた、とか?


 か~~~~。顔が一気にほてっていく。藤堂君の優しさがどんどん伝わってくる。

「…今、困ってる?俺、また変なこと言ったかな」

 グルグル!思い切り首を横に振った。


 ドキン。ああ、どうしよう。こんなこと今言うの変かな。でも、でも、言いたいし、もしかすると藤堂君はちゃんと、いいよって言ってくれるかも。

「あの、藤堂君」

「え?」

「あの…」

 私は顔をあげ、藤堂君を見た。藤堂君はやっぱり、優しい目をしている。


「と、友達に、なれるかな」

「え?」

「藤堂君と私、友達になれるかな?」

「…うん。結城さんさえよければ、いつでも…」


 う~~~~わ~~~~~~~~。

 友達に進展だ~~~~。


 嬉しい!!!!!

 私は嬉しくて、もっと顔がほてった。それを隠すように、顔を思い切り下げた。

「……」

 ドキンドキン。よかった。思い切って言ってみてよかった。


「結城さん」

「え?」

 ドキン。ちょっとだけ顔をあげた。藤堂君はじっと私の顔を見ていた。

「?」

「あ、よかった。表情が見えなくて、どんな顔してるのかわからなかったから」


「え?」

「もしかして、無理してるのかなとも思っちゃって」

「む、無理って?」

「友達。俺に気遣って、そう言ってくれたのかなって思ってさ」

 え?


「前に、友達でも駄目かって、聞いちゃってたから。なんか、そのこと気にして、そう言ってくれたのかなって思っちゃって」

 グルグル。私はまた、首を横に振った。

「…じゃ、いいのかな」

「え?」


 いいって、何が?

「…こんなこと言って、困らせないかな」

 え?何?

 藤堂君は一回、小さく深呼吸をした。

「半年前の告白。あれ、情けないけど白紙にしてほしい」

「え?!」

 なななな、なんで?!なんで?どういうこと?


 やっぱり、私のことは好きでもなんでもなかったってこと?

 だから、あれはなかったことにしてくれってこと?!

 私は顔面蒼白になった。


 友達になってくれるんだよね?

 でも、告白はなかったことにしてってこと?


 だめだ。思考回路ゼロだ。何も考えられない。

 そのあと、二人でどんな会話をしたのかも、覚えてないくらい、私はショックを受けている。


 家に帰って、真っ白のままずっとベッドに座り込んだ。麻衣や芳美にメールをする気にすらなれなかった。

 白紙?


 告白をなかったことに? ってことだよね…。


 私はその日の夜、ずっと頭ががんがんしていて、一睡もできないでいた。

 


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