第1話 告白と失恋
新しい恋のお話を書き出しました。ちょっとだけ、聖&桃子も特別出演します。
それは、突然の出来事だった。
「結城さん。話があるので、ちょっと来てもらっていいですか?」
高校1年の秋、文化祭の日。私は友達と体育館にいた。軽音学部のライブで盛り上がり、目をハートにさせて、そのライブを見ていたときだ。
きゃ~~~~!女生徒のものすごい歓声の中、私はいきなり声をかけられた。
振り向くと、知らない男子生徒が立っていた。いや、見かけたことはある。何部だったっけ?ああ、そうだ。弓道部だ。大人しい感じの、男子生徒だ。
「え?私?」
声をかけられたことも、隣にいた友達は気づいていない。私たち3人組は、みんな聖先輩のファンで、このライブをものすごく楽しみにしていたから、友達は聖先輩にくぎ付け状態だ。
「ちょっと来てもらえますか?」
ええ?今?なんで今?聖先輩が歌っているのに、なんで今なの?
でも、その人は私の手を取り、どんどん人ごみの中を歩いていく。
「あ、あの?」
何?なんの用なの?
ああ、先輩のライブ、最後まで見たいよ。
体育館を出て、その人は体育館の裏へと私を連れて行った。そこでも、体育館の中のざわめきは聞こえていた。
そわ…。できたら早くに話を終えて、体育館に戻りたい。
私がそわそわしているからか、その人が、
「あ、いきなりで驚いたよね」
と言ってきた。いや、そんなことよりも、早く…。と思いながら、その人の顔を見ると、真っ赤だった。
あ、あれ?なんで真っ赤?
もしかして、このシチュエーションって、まさかとは思うけど、こ、告白されちゃったりして。
まさかね。
だって、私、この人の名前も知らないし、なんの接点もないよ?たとえば、遠くで見ていて好きになりましたとか言うんなら、もっと美人の子やかわいい子を好きになるよね。
私なんて、そんじょそこらにいる、平々凡々な高校生で、どっから見ても、遠くから見て好きになるような容姿をしていない…。
「あ…。俺のこと知ってるかな?」
その人が、顔を赤くしたまま、聞いてきた。
「えっと、名前は知らないけど、1年生だよね?弓道部の」
「あ、知っててくれてたんだ」
いや、ほとんど知らないけど。
「…名前は、藤堂司…」
「とうどう、つかさ…君」
「あ、一回で覚えてくれた?」
「え?うん」
藤堂君はそう言ってから、しばらく黙ってしまった。どうしよう。ライブ終わっちゃうよ。
私が体育館の出口あたりを気にしているからか、藤堂君は、
「あ、誰かに見られると困る?」
と聞いてきた。
「え?ううん、そうじゃなくて」
っていうか、なんでよりにもよって、聖先輩のライブの最中に声をかけてきたんだろう。それも、すんごい人ごみの中で私を見つけ出し、なんで人ごみの中から、ここに連れてきたの?
「ゆ、結城さん」
「え?」
「今日の後夜祭で、ダンスパーティあるよね」
「うん」
「その、誰かと一緒に踊る約束、してるのかな」
「私?!」
声が裏返った。ここの高校のダンスパーティは、参加が自由だ。最後の1曲だけチークで踊ることになっていて、カップルが踊るらしい。もちろん、彼氏もいない私たち3人組は、パーティに参加もせず、とっとと帰るつもりでいたのだ。
「で、出ないよ。彼氏もいないし」
そう言うと、藤堂君はほっと溜息をついて、
「もし、良かったら一緒に出ない?」
と聞いてきた。
「え?チークダンスに?む、無理」
私は首を横に振った。
「そういうの、恥ずかしいし、苦手だから」
そう困りながら言うと、
「あ、じゃ、ダンスはいい。っていうか、俺もあまり得意じゃなかったし」
と藤堂君は言った。
じゃあ、なんで誘ったの?
「えっと。その…。ほ、本当は昨日、声をかけようと思ってた。でも、どうしても勇気が出なくって、こんな時間に声をかけることになっちゃって。昨日のうちに、文化祭を一緒に回らないかって誘うつもりでいたんだ」
「え?」
「その…。俺、いや、僕と、つ、付き合ってもらえませんか?」
「…」
「それで、こんな時間からなんなんだけど、文化祭が終わるまでのあとの時間を、一緒に回りませんか?」
「…」
や、やっぱり、告白~~~~~~?!!!
頭、真っ白だ。そうかなとも思ったけど、思ったけど、なんで、私~~?
「あ、え?」
私はまた、聞き返した。
「えっと…」
藤堂君は下を向いて、困っている。
「あ、あの。ど、どうして私の名前とか知っているの?」
「あ、それは、夏休みに知って」
「え?」
「部活、出てたよね」
「うん」
「俺も出てたから」
「…弓道部と美術部、接点あったかな」
「部室行くとき、美術室の前通るんだ」
「あ、そうか。それで、藤堂君のこと、私見かけたことあったんだ」
「うん。それで…、その…。絵を描いてるところを何度か見かけて」
「私が?」
「うん。すごく真剣に描いていて、一回、絵を見せてもらったことがあって」
「私の?いつ?」
「結城さんが休んでた日、あったよね。あ、今日いないんだって、美術室の前でちょっと、結城さんを探しちゃってたら、美術部の顧問の先生に見つかって、絵、見ていっていいぞって言われて」
「…」
「それで、ちょっとだけ、みんなが絵を描いてるところに、お邪魔させてもらっちゃって、結城さんの絵も見させてもらった」
嘘。先生勝手に、見ていいなんて言ったの?
「それで、すごく綺麗な絵を描くんだなって思って。桜の絵だったよね」
「季節はずれでしょ?」
「今日も美術室に飾ってあった。あれ、文化祭に展示するために描いてたの?」
「うん…」
「完成した絵も、綺麗だった」
なんだか、褒められるのは嬉しいけど、恥ずかしいな。
「…きっと、結城さんもあの絵のように、優しい人なんだろうなって思って」
「そ、そんなことない、私、たいした人間じゃないし」
「でも、それから結城さんのこと、ずっと見てて」
「え?」
「友達といるところとか…。いつも笑顔でいいなって思って」
「…」
どこが?どこがいいの?わかんないよ。
「それで、文化祭までには、付き合えるようになれたらいいなとか、思ってたんだけど、なかなか声もかけられなくて」
「…」
わ~~~~!!!!体育館から歓声があがった。あ、もしかしてライブが終わったとか?
「私、ごめんなさい。す、好きな人がいるから」
「…え?!」
「ごめんなさい」
「か、彼氏?」
「ううん、片思い」
「誰?」
誰って聞くの?聞いてどうするの?
私が黙っていると、
「あ、ごめん。詮索して…」
と藤堂君は謝った。
「じゃ、私はこれで」
今なら、もしかしてアンコールがあるかも。
「結城さん!」
「え?」
「と、友達でも駄目かな」
「友達?」
「うん」
友達って、何?どうしたらいいの?
「わ、私、男の友達っていなくって。そういうの、苦手…」
「そ、そうなんだ」
「ごめんなさい」
「ううん。時間取らせて、ごめんね」
「じゃ、じゃあ」
私は走って、体育館の中に戻った。
「アンコール!アンコール!」
体育館の中では、みんながアンコールと叫んでいる。そしてまた、舞台に聖先輩が現れた。
「きゃ~~~~~!」
すごい歓声があがった。よかった。まだ、聖先輩のライブ見れて…。
だけど、頭の中で、さっきの藤堂君のセリフや、顔が何度も浮かんできて、ライブに集中できなくなった。
「穂乃香!」
ライブが終わり、体育館から校舎へと続く渡り廊下を歩いていると、友達の芳美と、麻衣がやってきた。
「どこ行ってたの?」
「うん、実は…」
私は2人に、藤堂君の話をした。
「こ、コクられてたの?」
「うん」
「で、OKしたの?」
「まさか。私は聖先輩が」
「あほ~~~!聖先輩なんて、雲の上の人だよ。絶対に手に届かない人なんだから、彼氏にするならもっと、身近な人で手を打たなくちゃ」
「でも、芳美だって前に、ふってたよね?」
「あれは、思い切り好みじゃなかったから」
「私も知ってるよ、弓道部の藤堂」
麻衣が小声でそう言った。
「私、わかんないんだけど、どんな人?」
芳美が聞くと、
「知らないで、OKしたかどうかを聞いたの?」
と麻衣がちょっと呆れて聞いた。
「うん。で、どんな人?もしかしてまったく冴えないとか?」
「う~~~ん、可もなく、不可もなくって感じ?おとなしい真面目な雰囲気で、弓道が似合ってそうな、そんな男子だよね」
「…なんだ。そうなんだ。冴えないんじゃ、しょうがないね」
「だけど、そんなに悪くないと思うよ?私は」
「妥協するかどうかだよね。聖先輩みたいな人を狙っても、無理だと思うしさ」
芳美がそう言った。
「それに、聖先輩、今日彼女連れて来てたっていうしね」
「え?」
麻衣の言葉に驚いて、聞き返した。
「あれ?知らないの?多分、体育館にもいたよ。きっと、今頃一緒にいるんじゃない?なんだか、あのクールな先輩とは不釣り合いな、かわいらしい女の子だってさ」
「…」
嘘。嘘だ、嘘。
「は~~~あ。絶対に彼女は作らないと思ってたのに、他校の生徒と付き合ってたとはね」
「芳美、ここらで、その辺の男子で手を打たない?私たちも」
「そうだね、麻衣。クラスでだったら誰がいいかな」
「うちのクラス?いない、いない」
「だよね~~~~」
2人はそんな話をしながら、どんどん歩いていく。なんで?なんで聖先輩に彼女がいても、落ち込まないの?
ガク~~。私の足取りは重たかった。
3人で、カバンを持って教室を出た。それから、廊下を歩いていると、前から聖先輩が友達と女の子3人とやってきた。
うわ~~~。あの中に彼女がいるんだ。どの子?どの子が彼女?
そして、昇降口のあたりで、聖先輩は友達と別れた。でも、一人女の子が聖先輩の隣に残っている。
そしてこっちに向かって歩いてきた。私たちの前を歩いていた芳美と麻衣は先輩に、
「ライブよかったです。お疲れ様でした」
と声をかけた。うわ!すごい勇気だ。声をかけちゃえるなんて。
聖先輩は、
「どうも…」
とだけ、無愛想に言って、そのまま私たちの横を通って行った。
「クールだね」
麻衣が聖先輩の後姿を見ながらそう言った。そして、芳美と昇降口のほうに行ってしまった。
私はまだ、先輩の後姿を見ていた。聖先輩が隣に並んで歩いている女の子に、声をかけた。女の子は赤くなっている。すると、聖先輩はものすごく嬉しそうに、その子を見て笑った。
「…」
あんな笑顔、初めて見た。
女の子はもっと、顔を赤らめた。聖先輩が、その子を優しく見ているのがわかる。そしてそのまま、廊下を曲がって行ってしまい、2人の姿は見えなくなった。
「は~~~~~~」
重いため息をついて、私は昇降口に行った。すると、昇降口の先に、藤堂君が友達といるのが見えた。
「う…」
会いたくないかも。
グイ!いきなり腕を麻衣につかまれ、下駄箱の影に連れて行かれた。
「今、出て行かないほうがいいよ」
「え?」
「藤堂君が穂乃香にふられたこと、友達に慰められてるところみたいだから」
「え?」
「藤堂君、めちゃくちゃ、暗いみたい」
「…」
まるで、今の私?
「けっこういい男じゃない?なんでふっちゃったの?」
後ろから、芳美がそう言ってきた。
「…だって、聖先輩のこと…」
「先輩に告白する勇気もなかったのに?」
「…だって、ことごとく断られるって聞いてたし」
「あ~~~あ。彼女見たけどさ、ほんと、聖先輩に不釣り合いな、かわいらしい子だったね」
「うん、色白で、小さくて、ふわふわした感じの…」
「男ってああいうタイプが好きなのかね」
芳美がそう言うと、
「私らとはまったく違うよね」
と麻衣が言った。
本当だ。私も全く違うよ。なんで、藤堂君が告白して来たかが、いまだにわかんないよ。
あの絵を見てって言ってたっけ。それって、どう受け取ったらいいのかなあ?
「は~~~~~~」
私はまた重いため息をついた。
そのうえ、クリスマスまでに、麻衣と芳美は彼氏を作り、私一人で悲しいクリスマスになってしまい、もっと私は寂しい思いをするはめになってしまった。
「だから言ったのに。藤堂君で手を打ってたらよかったのにって」
と、何度も2人に言われた。
藤堂君のことは、何回か見かけた。男友達と笑っていて、もう私がふったことなんか、どうでもよくなってるみたいだった。
それはそれで、複雑。いや、変に暗くなっていられるよりもいいかな。
高校1年の冬、クリスマスもバレンタインも、寂しいだけの何もないイベントとなり、春がやってきた。
春は好きだ。特に桜が好きだ。高校の校門の横に、大きな桜があり、見事な花を毎年咲かせるらしい。それを私は絵に描いた。
今年もまた、見事に咲いている。その桜の木の下を、高校2年になった私は、少しだけ期待で胸を膨らませ歩いていた。
2年のクラスには、好きになれる人がいるんだろうか。私にも彼氏ができるんだろうか。
校舎の入り口に、学年別にクラスと名前が貼り出されていた。そこには人がいっぱいで、なかなか見に行くことができないでいると、
「穂乃花。またクラス一緒だよ」
と、麻衣が私を見つけ、言ってきた。
「え?何組?」
「C組だよ」
「芳美は?」
「芳美はB組になっちゃった」
そうなんだ。クラス違うんだ。
「それとね、穂乃香。彼も同じクラスだよ」
「麻衣の彼?」
「違うよ。私は彼氏と同じクラスになれなかったよ」
「じゃ、誰?」
「彼だよ、君にふられちゃった、藤堂司」
「…え?!」
2年は、どんな人が同じクラスになるだろう。彼氏ができたらいいな。そんな期待を胸に抱き、桜の下を通ってきたのに、いきなり、気持ちが沈んでしまった。
ど、どんな顔をして会ったらいいんだろう。
どんな1年になっちゃうんだろう。あ~~~~~~。
大好きな春だって言うのに、いきなり私は憂鬱になってしまった…。