一本目
プロットも考えずに、とりあえずキーボードに指を這わせて書きました。果たして完結するのでしょうか。もしも読んでくれる人がいたら生温かく見守ってやってください。
一本目
花粉症の季節、私のような「室内では煙草を吸いたくない」人間が陥るものといえば、室内で一服するか、あるいは花粉が吹きすさぶ外で一服するかというジレンマである。禁煙するべきか、という考えはどうかというと、私には毛頭ない。
最近は最早諦めて室内で吸うようにしている。流しの所にある換気扇の前で吸うのだが、そんな自分を客観視すると大変みすぼらしい。解放感溢れる外で吸いたいものだ。そんな事を考えながら私は煙草の封を切り、愛用のシガレットケースに入れると換気扇の前へ向かった。
「ひゃあああああああ 切ってください! 換気扇切ってください!」
煙草に火を付けた途端に、そんな女性の声がしたものだから驚いた。周りを見ても、そこにはやもめ暮らしに蛆が湧いたいつもの私の部屋が広がるのみ、誰もいる様子はない。私は訝しみながらも換気扇を消すことにする。すると、私が吸っていた煙草の煙が人の形を成してきたではないか。すぐに輪郭がはっきりしてきた。上半身は渋いレザージャケットを着用しているが、あどけない顔立ちのせいでいまいち着こなせていない。下半身は煙草の先に直結しており、人の形を成していない。まるで某ランプの魔人だな、と私は思った。
「おめでとうございます! 魔法の煙草を吸うことにより、一本につき一つ、あなたの願い事を叶えちゃいます! 私、煙草の精(見習い)と申します」
外で喫煙出来ないストレスで幻覚でも見るようになったのだろうか。気味が悪いので煙草を消そうとすると
「わーっ! 消さないで! 最後まで聞いてください!」
「……色々と聞きたいことはあるが、とりあえずその(見習い)というのは何だ?」
「私はまだ精霊として半人前なので、一人前になるまでは修行として対価の支払い無しに人間の願いを叶えて回るのです。ささ、願い事を」
「外で煙草が吸いたいんだ。とりあえず私の花粉症を治してくれ」
「申し訳ありません。それはできません」
「じゃあ杉花粉の存在そのものを消してくれ」
「申し訳ありません。それもできません」
「ならこの室内にこもっている煙草の臭いをなんとかしてくれ」
「……申し訳ありません。私はまだ見習いなんで大したことは出来ないんです」彼女はどんどん小さくなっていく。
「じゃあいいや」
「わーっ! 待って! だから消さないで!」
「ならどんな願いごとなら叶えることが出来るんだ」
「この煙をある程度自由に動かせたりできます」
「それだけ?」
「申し訳ありません」少し責め過ぎたのか、彼女は暗い面持ちでそう答える。彼女に対する後ろめたさも無いわけでは無いので、私は話題を逸らすことにした。
「やはり最後の願いは“煙草の精を自由……」
「わーっ! それは止めてください! 私達はあなたがた人間と違って、存在理由自体が生存に関わってくるのです。意味もなく生きる事が可能なあなたがたと一緒にしないでください。それにですね……あ!」
煙草が燃え尽きると同時に、煙草の精と名乗る奇怪な少女も消えた。願い事は叶わないうえに最後の方はなんだか人間を馬鹿にされたような気もする。幻覚を見るのならもっと楽しいものでも良いではないか。