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「え?出会えた??私と???」

いきなりの事で私は混乱してしまった。

「えぇ・・・あなたと出会えたことを祝いたいのです。」

「いやいやいやいやいや・・・・え?」

会話がちゃんと成立しない。

『と・・・とりあえず落ち着かないとだな』

私はテーブルに置かれた水に手を伸ばし一気に飲み干す。

そして深い深呼吸をして・・・もう一度マスターを見る。


マスターは白いシャツに黒いベスト・・・ネイビーのネクタイを身につけている。

背は・・・180cm近くはありそうだ。

背筋を伸ばしキリッとした顔で私を見続けている。

なんというか、普通「あなたと出会えた記念日」なんて言われたら

「なにキザなこと言ってるの!」なんて爆笑してしまいそうだが

マスターが言うと不思議と笑いは出てこない。

小さめのジャズ、薄暗い照明、マスターの優しい声・・・

このお店とマスターの雰囲気に似合ったセリフのような気もしてくる。


そして、私の心臓は再び早い鼓動を早める・・・


「なんで・・・私と出会えた事をお・・・お祝いしたいのですか?」

緊張のため声が裏返る


マスターは私の目を見つめ、ふふっと微笑んだが・・・どこか寂しそうだ。

「誰かと別れた事を祝うなんて寂しいじゃないですか。」


ズキン・・・胸が痛む。


「寂しい事を無理に祝ってもむなしいだけですよ・・・?」


マスターが優しく言う

私の目を見つめながら・・・


私はもう出てこないと思っていたのに・・・涙が出てきた・・・

マスターが近付いてきて私の頬に手を添える・・・


「あなたも・・・むなしいとわかっていたのでしょう?

 私の前では無理をなさらないで下さい。

 泣きたいのなら泣いていい・・・」


『・・・!!今日初めて会ったのに・・・なんで私の気持ちを察しているんだろう。

今までもこういうお客さんが来たりしていたのかな?』


なんて冷静に考えつつも涙は止まらない

マスターは細く綺麗な指で私の涙を拭う


そしてマスターがまた話し始めた

「出会いがあれば別れもあるもの・・・ですが、あなたは今日私と出会った」


そうに言いながら私の頬から手を離し、ポケットから白いハンカチをそっと取り出す。

そして再びやさしい手つきで私の涙を拭ってくれる。


「別れを祝うより・・・出会ったことをお祝いしませんか?」


・・・

不思議だ・・・

マスターの声が私の頭の中でぐるぐる回る

とても心地よいメロディーのような・・・


涙は止まらないものの私はコクリと頷く・・


マスターが優しく笑う


「ずいぶんキザなことを言ってしまいましたね。

 もし、あなたに頷いていただけなかったらどうしようかと思いましたよ」


今まで、キザな台詞をスラスラと言っていたマスターもそんなこと考えていたのか

くすっ・・・・

なんだか笑える・・・

「・・・なぜ笑われたのかよくわかりませんが・・・笑顔のほうが素敵ですよ?」

優しく微笑みながらマスターが言う。


「・・・泣くよりは笑顔のほうがいいですよね」

「そうですね」


今日初めて会ったばかり・・・しかも出会ってからそんなに時間はたっていないのに

マスターは私の気持ちをわかっているようだ・・・

なんだか不思議・・・


「私と出会えたこと、一緒にお祝いしてくれますか?」

笑顔でマスターに尋ねる

「もちろんです、是非一緒にお祝いしてください」

マスターが軽く会釈をする・・・


「そういえば、出会ったことをお祝いするのにお互いの名前を知らないのはおかしいですね」

顔をあげ私の目を見つめながらいう・・・


「私は、時任(ときとう) (ゆう)と申します。

 是非、あなたのお名前も教えていただけませんか・・・?」

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