第2話:真の勇者は使命を捨てた
睡眠勇者をお手に取って頂きありがとうございます!本作品は基本的に1日3話投稿で7:10、11:10、18:10になっております。それでは、睡眠勇者夢一郎もといはレイズの冒険を読んで頂ければ幸いです!
第2話:真の勇者は使命を捨てた
僕は勇者なんてなりたくなかった。本来なら僕は真の勇者の候補になるはずがなかった。だがこの世界に神がいるなら相当な意地悪な性格な持ち主に違いない。だが1年前からは僕の右眼には十字架のような模様ができ始めて大賢者様から勇者の天命が授けられたのだと。お父様もお兄様も大喜びだったが僕にとってはいい迷惑だった。文武両道のお兄様と違い、僕はここまで必死に剣技を覚えてこのパラグレス王国の王国式剣術をマスターできたくらいだ。聞いた話だと同じ大陸の国のセングラード帝国の勇者は剣に魔力をまとわせるとか……考えただけで絶望だ。
「あぁ、神様。どうか僕をこの使命から解放してください……」
蒼き月が昇る中で僕の苦悶はただそっと響くだけ。明日は15歳の誕生日で旅立ちの儀の日でもある。自然と僕用の綺麗な装飾が施され、なおかつ希少な金属で出来たこの王剣を手に取る。
「僕は……自分すら殺せないのか……」
震える手がそう教えてくれる。こんな勇者なんて精々街の武器屋か道具屋程度がお似合いだろう。
王剣をしまい、瞳を閉じて最後の足掻きとも言えるお祈りをする。
「神様、僕のこの使命が消えるなら命も差し出します。どうか代わりの勇者を……」
祈り終わる頃には意識は完全に消えていた。
お兄様との記憶が走馬灯のように、パラノマ風に映し出され、直観的だが勇者の使命から解放されたと直感する。あぁ……死んだんだ……そう思いながら、無気力と共に降り立った場所は……
「魔界……?」
僕の人生は180°回転した。
そして猿投川会総合病院では……
「夢一郎君!夢一郎君!」
心肺停止かつ痛覚拒否反応はない。意識レベルはJCSで300と断定し、至急検査を行う。
「小柳先生!激しい痙攣を起こしてます!不随運動もあり!」
「頭部MRIだけをして緊急で病変を確認する!急性脳炎を考慮し、集中治療室準備!」
僕は今15年間ずっと診てきた絶対に失いたくない命の危機に直面し、全力を尽くしていた。とにかく頭を動かせ、手を動かせ!そう脳内で叫び散らしながら、心臓マッサージを行う。
「AED持ってきました!」
「カウンターショック準備!全員離れて!……クリア!」
夢一郎君の体がびくんと跳ねる。だがAEDは心室細動の数値を示している。
「2分間心臓マッサージを実施、その後もう一度AEDを試す!」
この2分間は人生で最も緊迫し、長いと感じた2分間だった。幸いなことに夢一郎君の心臓は安定を取り戻したが、MRIの結果は急性脳炎だった。ご両親の泣く姿は自分でも耐えられなくなりそうになり、ただ全力を尽くしますという医者としては安い言葉しか思いつかなかった。
医師としての自信が揺らぐ中で今夜は夜勤当直ではないが今夜は、今夜だけはずっと夢一郎君を診ていた。
「夢一郎君……君は勇者になって、冒険譚を書くんだろう?こんな所で死ぬ器じゃないのは、僕がよく知ってるよ」
夢一郎君の瞳は開かない。手を握っても氷の冷たさが返されるだけ。
心肺停止から2時間後には夢一郎君の容態は安定し、ナースセンターでコーヒーを飲みながら映像と心電図等にはリアルタイムで目を通しながら休憩していた。
コンコンと靴音が鳴るのことに気がつくと同時に女性が話しかけてくる。
「小柳先生、夢一郎君の事で相談が……」
振り返ると脳神経内科の世界的権威の1人と名高い黒咲湊先生が来ていた。黒咲先生は基本的に日本の関東圏を中心に呼ばれたらすぐにどこでも駆けつける言わば機動部隊のような役割を日本医学機動会から指定されており、特に脳波の研究と知識は彼女の右に出る者は居ないとさえ言われている。
「黒咲先生、夢一郎君の為にありがとうございます」
僕は世界的権威を前にコーヒーを入れて話し合う事にすると決めた。
多分向こうも話し合いをするつもりで、来たのだろうがそこまで考えられるほど脳のリソースは残っていなかったのも事実。
「我々は医師ですよ。教授と生徒なのは医大の時だけです。あと砂糖お願いします」
シュガーブラックのコーヒーを淹れ直し目の前に置く。
黒咲先生は1口飲むと、深呼吸をする。黒咲先生もかなりお疲れだと僕の目にもハッキリとわかった。
「単刀直入に言います。小柳先生。脳波を見るに脳の神経細胞は活発化し、電気信号を放ってます。つまり意識不明なのに起きてる状況と変わりありません」
僕は小児科が専門でそこそこのレベルの医師だが全く分からない。意識不明なのに覚醒状態は普通じゃない。夢でも見ているのか?
「それって夢を見ているという事ですか?」
「多少異なります。P波、シータ波は覚醒状態で、θ波は覚醒時を示してます。PGO波も正常。ですが不思議なことに明晰夢を見ている状態と同じ波長にあたる30〜40ヘルツの波を観測しました。これは私独自の研究と経験なのですが世界中に同じ症例を持つ人が20名ほど診てきました。患者の大半は子供で共通しているのが1日に数時間しか起きられないという事と半永久的な障害が残るという事。私はこれを『覚醒不明症』と名付けて他の医師の方と共同で研究してます」
そんな……夢一郎君の人生はこれからなのに……
どうして、夢一郎君はこんなにも試練が与えられなくてはならないんだ。やり場のない怒りと無力感が脳内を走る。
「僕はどうすれば……」
「小柳先生には夢一郎君の脳波リアルモニタリングを最優先して記録してください。もし、目が覚めたら覚醒時の記録もお願いします。私は明後日にはアメリカで同じ症例の子を見るので」
今は天にも知識を授かりたい思いで、黒咲先生に感謝の言葉を返す。
「突然なのにありがとうございます。仰られた通りの医療行為を実施します」
「不安かもしれませんがこの病気は必ずしも致死性があるとは限りません。なのでゆっくり診ていきましょう。それでは」
僕と黒咲先生はナースセンターから出ていき、玄関まで見送り、事前に手配したタクシーに乗ってもらい、もう一度感謝を伝え、僕も仮眠を取る。
ご拝読ありがとうございます!黒井冥斗です!ご拝読お疲れ様です!1日3話というスケジューリングなので前書きも後書きもテンプレートなのをご容赦ください。
これからも睡眠勇者をよろしくお願いいたします!レビューや評価も面白ければお気軽にして頂けると励みになります!




