思ってもみなかった理由で婚約破棄されてしまいましたが、輝かしい未来を掴むことができました!
「君との婚約だけど、破棄とすることとしたよ」
婚約者デヴィジャンからそんな風に宣言されたのは初夏のある晴れた日であった。
「前から思ってたんだけどさ、君って……汗かいてるよね? そういうところが嫌なんだよ。無理なんだ、生理的に。女性ならもうちょっと頭使ってほしいっていうか……どんなに暑くても汗なんて一滴も見せないようにするのが当然だよね? そんな当たり前のことすらできない、気遣いのない人間なんだよ君は」
どんなに暑くても汗なんて一滴も見せないようにするのが当然、か……まったくもって意味が分からない!!
汗はかくだろう、誰だって。女性とか男性とか関係なく。運動したり暑かったりした時に汗が出るのは人間という生き物として当たり前のことではないか。それを隠すなんて不可能だし、一滴も見せないようにするなんて意味不明すぎて呆れた笑いが出てくるくらいの話だ。
「女性はさ、常に清潔でなくてはならないんだ。だから汗を見せるなんてあり得ないことなんだよ。汗の粒を少しでも見せた君はもう女性ではないよ。ああ、もちろん、だからといって男性というわけでもない。君は男性でも女性でもないし何ならそれら以下の存在なんだ。分かったかな? ってことで、婚約破棄は決まったから。絶対的な決定事項だから。……じゃ、そういうことで。バイバイ」
彼はそう言って私という存在をばっさり切り捨てると去っていった。
正直意味が分からなかった。
彼が発する言葉そのすべてが。
何だったのだろう、一体……。
まず、なぜ汗がうんぬんという話になったのか? それが大きな謎。だってそうだろう? これまでそんな話が出てきたことは一度もなかったのに。それなのに、そんなことを理由として婚約破棄するとまで言ってくるなんて。不自然ではないか。明らかにおかしな話だろう?
だがこうなってしまった以上もうどうしようもない。
仕方がないのだ。
決まってしまったから。
一度決まってしまったことを変えるほどの力は私にはない。
◆
あれから数年が経った。
私は今、偉大なる聖女と呼ばれ、この国の頂に立っている。
何があったか? ……はじめから説明しよう。
私が婚約破棄されたという話を聞いた同性の親友が「聖女探しコンテストとかあるんだって! 出てみない?」と誘ってくれた。
こちらとしては乗り気ではなかったのだけれど、はっきり断れないうちに、張り切っていた彼女にこっそり応募されてしまっていて――思わぬ形で聖女探しコンテストなるものに参加することとなってしまった。
だがそこで私の才能が認められた。
深く考えず出場したものの、まさかの大賞受賞。
それによって私は『偉大なる聖女』という位を手に入れた。
以降、人生は大きく変わった。
今や私は国王にですら丁寧に対応してもらえる立場。
誰よりも貴い存在として、王族や貴族はもちろん一般の民らからでさえ愛されている。
私を悪く言う者はこの国にはほとんど存在しない。
そして、恐らく、もし私のことを理不尽に批判してくるような人がいたとしたら皆がその者を黙らせるだろう。
ちなみに、かつて私を傷つけたデヴィジャンはというと、既にこの世を去っている。
彼はある時王城前で数時間にわたって「あんな女のどこがいいんだ!」「あんなやつが聖女なわけがないだろ! 皆、騙されている!」などと叫び続ける迷惑行為を行った。
その結果拘束され、そのまま北の山に住む魔王に差し出されることとなる。
差し出された先で彼は研究対象として色々な方面から酷い目に遭わされることとなったようだ。
ある時は、短時間にどれだけの納豆を食べさせると体調を崩すかの実験。
ある時は、何日もお湯に浸け続けたらどうなるかの実験。
などなど……。
そういった中での出来事だが。長時間熱波を浴びせて汗を出し続けたらどうなるか、という実験の途中、脱水によって意識不明に。そしてそのまま落命してしまったそうだ。
彼の最期は呆気ないものだった。
だが苦痛の中で消えていったことは事実だろう。
それが良いことだったと敢えて言うことはしないが……ま、自業自得だな、と思いはする。
◆終わり◆




