表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/42

残金を貰いに来た佐藤克己

 外もだいぶ暗くなって来た。


閉店まぎわの散らかった店内にドアーチャイムが鳴る。


 「ピンポ~ン」


素足に運動靴を履いた、『みすぼらしい男』が店の出入り口に立っていた。

静子はレジカウンターの床に這いつくばり、下に落し物が無いかとノゾいている。

するとカウンターの下から覗く運動靴を見て、


 「・・・あッ、すいません。今日はお店、お休みなんですよ」


静子はカウンターから顔を出す。

と、佐藤が立っている。

静子は驚いて、


 「あッ、サトウくん! 佐藤くんじゃないの」

 「店長、ご無沙汰しています」

 「そうよ。本当に、ご無沙汰よ。あッ、ちょっと待って。今、オーナーを呼んで来るから」


 事務所では石田が名前を懐かしみながら、辞めて行ったアルバイト達のネームプレートを机の上に並べている。


 「杉浦、野口、伊藤、富田、村瀬、斎藤、高橋・・・」


静子が事務所を覗く。


 「あら? オーナーは」


石田が、


 「トイレっス」

 「そう。あ、佐藤くんが来てるわよ」


石田は驚いて、


 「えッ! マジっスか?」


急いで売り場に出て行く石田。

静子はトイレの私に、


 「アンタ! 佐藤くんが来てるわよ」


トイレの水を流す音が。

私は通路に出て来て、


 「ええ? 佐藤くんが? 」


ハンカチで手を拭きながら売り場に出て行く。

久しぶりの佐藤を見て、


 「よ~お、佐藤くん」

 「オーナー、お久しぶりです」

 「久しぶりじゃないよ。みんな心配してたんだぞ」


静子が、


 「そうよ、まったく~。突然居なくなっちゃって。元気でやってるの?」

 「このとおり! 元気です」


石田はえない姿の佐藤を見て、


 「佐藤さん、今、何やってんスか?」

 「池袋のパチンコ屋で働いているんだ」


私はアルバイト達の噂で、何となく佐藤の居場所は分かっていた。


 「やっぱりパチンコ屋か。おフクロさん心配してたぞ」


静子は心配そうに、


 「そうよ、まったく」


佐藤は、


 「おフクロには時々連絡してます」

 「本当?」


私は佐藤の身体を見て、


 「君、少し痩せたね」

 「そうですか? そう言えば四キロ位痩せたかな」


石田は昔、佐藤くんのスロット仲間だった吉村の事を思い出し、


 「あ、吉村さんが会いたがってたっスよ」

 「吉村? 懐かしいなあ。でも、もう居ないんでしょう。就職したって聞きましたよ」


静子が、


 「そうよ。吉村くん、地下鉄の運転手やってるわよ。あの頃の人達みんな立派に成っちゃったわ」


佐藤は淋しげに、


 「だろうなあ・・・」


私は、


 「あッ! そうだ。オマエの給料! まだ預かっているぞ」


佐藤の顔色が変わる。


 「ですよね。実は、それを貰いに来たんです」

 「なんだ、そうだったのか。連絡が取れたなら僕が持って行ってやったのに。キミがどうしてるか心配でね。ちょっと待ってな。今、持って来るから」


私は事務所に戻って行く。

静子が、


 「で、佐藤くんは今、どこに住んでるの?」

 「パチンコ屋の寮です」

 「パチンコ屋の寮? ずっとそんな生活するつもり?」

 「そんなあ。もうそろそろ辞めます。就職も決まったし」


佐藤は強がっている。

静子は佐藤の性格は知り尽くしている。

私は事務所から給料袋を持って出て来る。


 「お待たせ! 三日分と残業代。二万九千六百五十円。はい!」


私は佐藤に袋を渡す。


 「開けて確かめてごらん」

 「あ、はい。じゃ、失礼して・・・」


佐藤が渡された袋を開け、明細を見て札と小銭を確かめる。


 「・・・はい。確かに」


佐藤は袋を二つ折りにし、汚れたズボンの尻ポケットに仕舞った。


 「・・・オーナー、何か手伝う事は有りませんか?」

 「残念だけどもう無いな。この店は、閉店なんだ」

 「みたいですね。入り口のドアーの貼り紙を見ました」


私は佐藤の顔を見て、


 「オマエ、頑張れよ。立派な経歴なんだから」


佐藤のはその一言で急に俯き、唇を噛みしめて涙をこらえる。


 「・・・すいません」

 「いいよ。もう昔の事だ。キミが辞めてからいろんなヤツが入って来たぞ」

 「でしょうね」

 「本当に良い思い出だったわ。佐藤くんもこの店の思い出、大切にしてね。もう無くなっちゃうんだから」

 「えッ! 無くなっちゃうって?」

 「壊して、ホテルにしちゃうんですって」

 「そうですか・・・。はい、大切にします。有り難う御座いました。ジャッ」


佐藤が店を出ようとする。 

私は、


 「佐藤くん!」


と、呼び止めた。


 「はい」

 「これ少ないけれど、餞別だ。靴でも買いなさい」


佐藤は私の『気持ち』に驚いて、


 「オーナー、それは貰えません」

 「いいから持って行来なさい。この店で会ったのも何かの縁じゃないか。パチンコなんかで使っちゃうんじゃないぞ」


私はティシュに包んだ餞別を無理やり佐藤の手に握らせる。

佐藤は私と初めて交わしたあの時の、あの暖かい「ユビキリ」を思い出し、小指を差しだす。


 「オーナー・・・」

 「あ~あ、ユビキリ?」


私は懐かしそに小指を立て、シッカリと佐藤の小指にからます。

佐藤が、


 「有り難う御座いました」


私は佐藤の目を見て、


 「良いんだよ」


俯きながら店を出て行く佐藤。

私と静子、石田の三人が表に出て佐藤を見送る。

私は佐藤の痩せた背中に、


 「佐藤くん!」

 「はい」


佐藤が振り向く。

私は、


 「またお越しくださいませーッ!」


と深く頭を下げる。

佐藤は堪えていた涙が溢れ出し、


 「・・・有り難うございました」


佐藤は私と静子、石田に深々と一礼して去って行く。


石田は大粒の涙が止めどなく溢れ、店の中を走って事務所に消えてしまう。


 事務所で荷物を整理して居る石田。

私が机の引き出しを開け、古い書類をシュレッターにかけている。

石田が、


 「・・・オーナーってヤッパ良い男っスね」 


私は、


 「なんだ、突然」

 「すッごく感動しました。最初に会った時からどっか違うなと思っていたんスけど。・・・うん。ヤッパ、尊敬します。オーナーまたこの近くで店やりましょうよ。アタシ、オーナーとならず~とついて行けます」

 「そうか~? でも僕は商売には向いてない様な気がするんだ」

                          つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ