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常連客は『糖尿病の元ヤクザ』

 夜勤の二人が帰った事務所・・・。

私は廃棄のオニギリを頬張りながら防犯モニターを観ていた。

すると、痩せて背が高い女性用サンダル(ミュールのサンダル)を履いた怪しげな中年の男が映っている。

男はポケットに手を入れ、肩を怒らせながら売り場を徘徊している。

私はその男が気に成り「売り場」に出て行った。

男に近づいて品物を陳列する格好で様子をウカガう。

男は私が傍に来た事も気にせずフロアーにしゃがんで必死に『パン』を漁っている。

すると目的のパンが無いのか急に立ち上がり、また売り場を徘徊し始めた。

そしてチルドケースの前まで来ると一点を見詰めて動かない。

私はさりげなくレジカウンターの静子の傍に行き、


 「あの男から目を離すなよ」


静子は男を見て、


 「どうかしたの?」

 「やるかもしれない」

 「ヤル?」

 「万引き!」

 「マ・ン・ビ・キッ?」

 「シッ! 聞こえちゃうだろう。いいから目を離すな!」

 「・・・はい」


そこに歳の頃なら三十歳前後の男が、店に入って来た。

男は冬なのに薄汚れた長袖のポロシャツ一枚に作業ズボン、素足にサンダル履きである。

そしてレジカウンターの前まで来ると静子に、


 「すンません。便所貸して下さい」

 「え? あッ、ハイ! どうぞ、こちらです」


静子はこの街(スラム・下谷警察署管内防犯重点区域)の環境上、男をトイレまで案内する。

バックルームに入ると男は室内をキョロキョロと見回しながら静子の後に続く。


 「こちらです」

 「あッ、ど、どうも・・・」


静子は男の案内を終えてレジカウンターに戻って来る。


 すると店の自転車置き場に自転車が止まった。

ジーパン姿の小柄な女の子はダストボックスの上の猫に何かを話し掛けて、店に入って来た。


 ダストボックスの上の『雉トラ(招き猫)』が女の子の後を追って店に入って来る。


女の子はカウンターの静子を見て、


 「あれ? ・・・おはよう御座いま~す」


静子は女の子を見て、


 「アレ? もしかして石田さん?」


女の子は驚いて、


 「えッ!? もしかして新しいオーナーさん?」

 「いえ、ワタシは店長ですけど・・・」

 「そお~スよねえ。オーナーって普通、男っスよね~え」


私はバックルームから売り場に出て来た。

カウンターの前に立つ女の子を見て、


 「あら? もしかして石田さんですか? 」

 「そおっス」

 「お~お、ご苦労さん」

 「あ~あッ! 新しいオーナーさんスね」


私は『オーナー』と云う言葉に中々なじめない。


 「え? あ、まあ。始めまして百地です。宜しく」

 「モモチッスか。カッコいい名前っスね。こっちらこそ宜しく。今、着替えて来ますから」


石田さんは小柄ながら中々気風(キップ)の良い下町の「オキャン娘」である。

暫くして石田さんが着替えて売り場に出て来た。

静子はフロアーにダンボール箱を置いて、品出しをしている。

私は石田さんに近づいて、


 「石田さん?」


石田さんは元気に返事を返す。


 「ハイ、何スか?」


私は先ほどから気に成っているサンダル履きの男をそっと指差し、


 「あのお客サンだけどね」

 「あ~あ、アンパン男スか?」

 「アンパン男?」

 「木村って云うンです。元ヤクザ」


私は驚いて、


 「もとヤクザ!?」

 「そおっス。結構プライド高いっスよ。今はウチの店の前と、そこの公園のジョバ貸しをやってます」

 「ジョバ貸し?」

 「ハイ。一日、百円。自分じゃ『ジメンシ』って言ってますけどね」

 「百円?!」


私は男を見て、


 「 ジメンシかぁ・・・」


ため息を漏らした。


 「ええ。『常連』スよ。アンパンと豆腐を待ってるんス」

 「アンパンと豆腐?」


私は自分の耳を疑い、首を傾げながら、


 「・・・元ヤクザ。ジメンシでジョバ貸し? ・・・アンパンマンと豆腐かぁ・・・」


更に石田さんは、


 「糖尿っスよ」

 「トウニョウ?」

 「ええ。若い時、ポン(麻薬)を打ち過ぎたンですって」


私は驚いて、


 「ポッ、ポン?」

 「ポン中。ヒロポンんスよ。オーナー知らないんスか? ヒロポン」

 「え? あッ~あ、覚醒剤だろう」

 「アイツ、まともじゃないっスよ。喰いカスは散らかすし。ッたくう~」


石田さんは自分の頭を指差して、


 「完全にイッちゃってますね」

 「いっちゃう?」

 「その内、分かりますよ。ウチの店って変な客ばっかっスよ。オーナーっチってこう云う仕事、初めてっスか?」


突然の石田さんの問いかけに、


 「うん? ああ。僕はね」

 「店長は?」

 「店長は『ナナ』でアルバイトをしてた」

 「ナナすか。渋いッスね。ライバル店じゃないっスか。そう言えば今度、通りの向こうにナナが出来るっツウの知ってますか?」


私は驚いて、


 「えッ、 ホントウ!」


石田さんは私の動揺を鎮めるように、


 「大丈夫っスよ。ここの住民は新し物好きですけど、直ぐもとの味に戻っちゃうから。それに、この店は昔スーパーっスから」


私は驚いて、


 「スーパー?」

 「そおっス。コンビニに成る前は『スーパー吉本』って言ってたんス」

 「スーパー・ヨシモト・・・」


品出し中の静子が石田さんの声が聞こえたらしく、


 「え~えッ! この店、スーパーだったの?」


石田さんは静子を見て、


 「そうスよ。この辺じゃ一番古いンすから」


静子は感心して、


 「へえ~・・・」


私は気分を変えて、


 「石田さん、チョコット良いかな?」

 「何スか?」

 「初めてだから面接でもしましょう」

 「ああ、そおっスね」

 「店長! 石田さんと面接してくる」


品出し中の静子が、


 「はーい、どうぞ~」


私は石田さんと事務所に入って行く。

                               つづく

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