ヒーローに成った男
二月。
外は冷たい雨が降っている。
客足も途絶えた午後の店内・・・。
石田が事務所に戻って来る。
私はいつもの様にストコンに向かい新商品の発注をしていた。
石田は私を見て、
「あの~、すいません」
「うん? あ! ちょうど良い所に来た。石田さん、この商品どう思う?」
私は新商品のファイルを石田に見せる。
「え? あ、いや、今、店に刑事が来てるんスけど」
「ケイジ?」
「この人っス」
石田が名刺を見せ、私に渡す。
私は渡された名刺を見る。
「・・・向島警察署広域捜査課 鮫島隆志。ムコウジマ?」
すると突然、背広の男が事務所に入って来た。
「イヤ~、店長さんすいません。ちょっとお時間、拝借、宜しいですか?」
私は一瞬驚いて、
「えッ! あッ、はい。何か・・・」
「私は向島署の鮫島と申します。実は先週の金曜日にそこの公園で女の子の誘拐未遂事件が有りましてね。犯人は逮捕したんですけれど、その男事を起こす前にこの店でT型の安全カミソリを買ってヒゲを剃ったと言ってるんです」
「ヒゲを剃った? 金曜日の何時頃ですか」
「昼の三時から四時の間って言ってるンですけれどね・・・」
私は石田を見て、
「石田さん、そんな客、覚えがある?」
「アタシ、先週の金曜日は休みっス」
「あ、そうか。誰が出てるンだっけ?」
「三原かな?」
「三原かあ。あの娘、覚えてるかなあ。何しろ変ったお客さんが沢山来ますから髭剃りぐらいじゃ・・・」
「いや、それは別に良いんですけれど。店長、防犯ビデオは回ってますよね」
私はハッっと思い、
「そうか。回ってます! そうだ、それを見れば直ぐ分かる」
「で、保管期間は?」
「一週間です」
「と言う事は、事件がちょうど一週間前だから」
「あッ! 有ります」
私は頭上の『DVDラック』から一本を取り出し、テーブルの上に置いた。
「コレが先週、十三日の金曜日のDVDですね」
「すいませんけど、できたら一週間分全部お借り出来ますか?」
「え? 全部ですか」
「その代わりと言っちゃナンですけど、私の方で新しい物を六本、買わせてもらいます」
「え? いやあ、い~いですよ」
「いやいや、大切なDVDですから」
「そうですか、すいませんねえ。石田さん、カウンターからレジ袋を一枚持って来てくれる」
「はい!」
石田は売り場に出て行く。
鮫島刑事が、
「忙しいのにすいませんねえ」
私は、
「いや~、お役に立てば良いですけどね。この辺は事件が多いんじゃないですか?」
「そうですねえ。でも昔よりは随分減りましたよ」
「私は、ここのお客さん全部が犯罪者に見える時があるんですよ」
鮫島刑事が笑って、
「ハハハハ。まあ、土地柄そう見えても仕方がないかもしれませんね」
石田がレジ袋を持って来る。
「はい、オーナー」
「おッ、ありがとう」
鮫島刑事が怪訝な顔で私を見て、
「オーナーなんですか」
「え? あ、ま~あ」
私はDVDを袋に入れ鮫島刑事に渡す。
「あッ、恐縮です。・・・そうだったんですか。オーナーさんですか・・・」
「まあ。そんな事はどうでも良いです」
「あッ、失礼しました。ハハハ、ジャ、これお預かりします」
「どうぞ、どうぞ。お役に立てば良いですがねえ」
「ありがとうございます。突然お邪魔して申し訳ありません」
鮫島刑事が事務所を出て行く。
私はモニターを見ている。
鮫島刑事が売り場からDVDを数枚取り出し、レジカウンターに持って行く。
静子が丁寧に応対している。
ドアーチャイムが鳴り、鮫島刑事が傘を差して店から出て行った。
-静かに成った店内-
すると一台の古ぼけた自転車が店の前に止まるった。
乗って来た男は紺の作業服上下に黒い野球帽を被り、小柄で痩せた労働者風の男であった。
男は自転車のスタンドを立ててアーケード街の人通りを確認する。
衣服は雨でびしょ濡れである。
「キンコーン」
ドアチャイムが店に響く。
石田は売り場のフロアーをモップで拭きながら、
「いらっしゃいませ~」
男は濡れた野球帽を深く被り直し、さり気無く天井の防犯カメラの位置を確認する。
静子が商品の入った箱を抱え、バックルームから出て来る。
「いらっしゃいませ~」
商品を箱から出して棚に並べ始める静子。
と、突然・・・。
男は静子の背後に回り羽交い絞めにする。
静子は驚いて、
「キャッ! なッ、なんですか?」
「シッ! 静かにしろ」
石田は何も気付かずフロアーを拭きながら、
「店長~、咲子の洗濯物だけど、早く片付けないと、また増えて来ましたよ」
石田が顔を上げる。
と、目の前に静子が立っている。
「! びっくりしたなあも~う。店長、驚かさないでくださないよ」
静子が震えながら、
「イ、イッちゃん。強盗ッ!」
「ゴウトウ?・・・あッ!」
静子の後に包丁をタオルで巻いた、あの男が立っている。
私は新商品のファイルを広げ、事務所から売り場に出て来た。
「店長、この商品・・・?」
三人を見て、
「あッ、ご苦労様です。あれ? 今度は防犯訓練ですか? リアルですね。すいません、僕、奥の事務所に居ますから何か有ったら呼んで下さい」
私は事務所に戻って行った。
静子が私の後ろ姿に、
「バカ! コレが分らないの? 役立たず!」
男は掠れた声で、
「ウルセー、カッ、カネを出せ!」
石田が静子を見て、
「どうします?」
「どうしますって、グリコの看板じゃない」
「グリコの看板?」
「バンザイって事!」
男は焦って、
「ヤカマシイー! バカな事言ってんじゃねー。早くレジ開けてこの袋にカネ入れろ!」
男は石田に布袋を渡す。
静子が、
「石田さん! 言われた通りにしなさい」
男のナイフの先が不気味に光る。
石田が、
「でも~・・・」
「バカ! 強盗よ。早くしないと刺されちゃうでしょ」
「あッ、はい」
石田はカウンターに行き、レジを開けて袋に札を入れ始める。
静子を見て、
「コマカイのも入れますか?」
静子が怒って、
「アタシに聞いても分からないわよ」
男は焦って、
「ゴチャゴチャぬかしてねえで早くみんな入れろ!」
石田はキレそうに、
「うッせーな。ワ・カ・リ・マ・シ・タッ!」
石田は仕方なく、レジの小銭を袋に入れて行く。
男が、
「早くしろ、ハヤクッ! これが見えねえのか」
石田は男をキツイ眼で睨み、
「だから今、入れてンだろう」
男が、
「ウルセー、口答えするな!」
静子が、
「痛い! 刺した。この人、本当に刺した! またやったら警察に言うわよ」
男が、
「バカ野郎。オレは真剣だ!」
石田が、
「・・・ハイ! い・れ・ま・し・た」
男は二番レジを顎で指して、
「そっちもだ!」
石田は男を見て、
「え~え?」
「エ~じゃねーッ! 早くしろ!」
石田は舌打ちをして、
「チッ、は~い」
私はまた状況を確認しに売り場に顔を出した。
「あれ? まだやってるんですか」
男が私の言葉に振り返った瞬間、石田がカウンターの下の「非常ベルボタン」を押す。
けたたましくアーケード内に鳴り響くベルの音。
「リリリリリリ・・・」
私はベルの音を聴き、
「ほう、防犯ベルの確認ですね。そこまでやりますか」
たじろぐ男。
男は急いで静子の腕を掴み、引き寄せ、
「早くベルを止めろッ!」
男の小声が上ずっている。
私はまだ『その空気』が読めなかった。
石田が、
「オーナー! 強盗です。警察ッ!」
私は、
「ああ、やっぱりそう来ますか。分かりました。で、僕が急いで事務所に戻り、警察署に連絡する。そう云う下りですね。ご苦労様です」
私は急いで段取り通りに? 事務所に戻って行った。
静子が、
「あのバカッ!」
男は更に焦り、
「動くなッ! 殺すぞ」
ベルの音を聞いて外に路上生活者達が集まって来る。
暫くすると、誰が知らせたのかパトカーが表通りに停まる。
ドアーが開いて警官達が急いでアーケード内の店に入って来る。
と、カウンター越しに男が叫ぶ。
「来るな、殺すぞ!」
一瞬、たじろぐ警官達。
警官の一人が、
「・・・分かった。出る。で、何人居る?」
石田が大声で、
「人質が三人ッ!」
男が、
「ウッセー、喋るなッ! 一人一人ぶっ殺すからな」
また一台、パトカーが停まる。
暫くするとまた一台、覆面パトカーがやって来る。
そして救急車が。
警官Aがパトカーのトランクを開けて三角コーンとポールを取り出す。
急いで周囲に立ち入り規制のテープを張り巡らす。
覆面パトカーから刑事が二人、通りに出て来る。
店の周りには野次馬達が徐々に増えて来る。
すると野次馬の中から一人、規制テープをくぐって店の中を覗く男が居る。
ブルーテントの吉松である。
吉松は声を殺して店の中に向かって、
「お~い、大丈夫かー?」
すると店の中から甲高い声が。
「ウルセ~ッ! ぶっ殺すぞ」
警官Aは驚いて吉松を店から遠ざける。
「ダメダメ! 店に入れません」
吉松が、
「いや、友達なんだよ。これが最後の見納めかも知れねえしよ」
警官Aが、
「ええ? 犯人の友達ですか」
吉松が怒って、
「バカ言ってんじゃねえ。俺がそんな男に見えるか? この店の社長とだよ」
「社長? ああ、そうですか。とにかく店に近寄らないで下さい。犯人を刺激しますから」
吉松は警官Aを睨んで、
「犯人を刺激? 随分と高待遇だな」
吉松は何気なく店の前に置いてある自転車を見る。
どこか見覚えのある自転車である。
前の泥除けに「坂口勘蔵・血液型O」と書いてある。
「・・・あれ? この自転車は・・・」
警官Aが、
「はい、どいてどいて。立ち入り禁止! 早くどきなさい」
表で若い刑事と老齢の刑事が打ち合わせをしている。
警官Bがパトカーのトランクを開けて「挿す又」を組み立てている。
すると二人の刑事の打ち合わせが終わったのか「老齢の刑事」が店の方に歩み寄る。
その刑事は店の中に入って行った。
店の中から悲鳴の様な怒鳴る声。
「来るな~ッ! オンナをブッ殺すぞ」
暫く騒いでいたが、急に店内が静かに成る。
男は刑事と何か喋っている。
暫くすると刑事が店から出て来る。
刑事は携帯電話で誰かと話している。
吉松は路上生活者に混じって自転車を見詰めている。
そこに常連の糖尿病の元ヤクザ(木村)が吉松の傍に来る。
木村は、
「撮影?」
吉松はいぶった化に、
「ホンモノ!」
木村は驚きもせず無表情に、
「そう」
と言って、店の中に入って行く。
警官Aはそれを見て驚いて、
「あッ! お客さんダメ。立ち入り禁止! 入っちゃダメッ!」
木村は怒って、
「ウンパン(アンパン)を買いに来たンだッ!」
と怒鳴る。
吉松が焦って木村の傍に近付き袖を引く。
「オイ、少し我慢しろよ」
木村は更に大声で、
「ンパンを買いに来た~ぞーッ! 社長~ッ!」
吉松は、
「分かった分かった。俺のハウスに行こう。甘いパンが有るからよ」
木村は店の前でジタンダを踏んでいる。
ロレツの回らない木村の言葉がアーケード内に響く。
「ウルへ~ッ! ブカヤロー。ウンパンだーッ、トーフ~ッ!」
暫くして木村は吉松に諭されるようにして店から離れて行く。
中々進展しないこの事態。
そこにアミーゴのマネージャー(綿引)が大石とアーケード街を駆けて来る。
綿引は強引に刑事達に詰め寄る。
「どない成ってるんですか。お客さんは中に居てはるんでっしゃろう? ケガ人はおまへんやろうな」
若い刑事が、
「大丈夫です。落ち着いて我々にお任せ下さい」
するとあの老齢の刑事が店に入って行く。
静かな店内。
暫くしてあの老齢の刑事が店から出て来る。
若手の刑事に、
「タクシーを呼んでくれないか」
「タクシー? それって条件ですか?」
「条件?・・・うん。まあ、そうとも取れるな。何か、富士山を見たいらしい」
若い刑事は老齢の刑事を鋭い目で睨み、
「フジサン? こんな時に随分ロマンチックな事を言ってるじゃないですか」
老齢の刑事が、
「いや、これは俺の勘だが、富士山の近くに実家が在るんじゃないかな」
吉松は刑事達の傍で聞き耳を立てて居る。
と、突然大声で、
「ああ! やっぱりカンゾウだ!」
二人の刑事が驚いて振り向く。
吉松は興奮した口調で、
「あの野郎、川崎に行ったと思ったら戻って来てたのか。しかし、こんな所で・・・」
老齢の刑事が吉松に近づき、
「お客さん、犯人をご存知なんですか?」
「おお、知ってる。知ってるとも。『坂口勘蔵』、友達だ」
挿す又を持った警官Bが、
「やっぱりそうでしたか」
吉松は警官Bを見て、
「ウルセー! この野郎。冗談いってる場合じゃねえー!」
警官Bは急に丁寧な言葉に改めて、
「あ、失礼しました」
老齢の刑事は吉松を諭す様に、
「すいませんねえ。彼はまだ若いんで、ついあんな事を言ってしまって。・・・そうですか、坂口と云う方ですか。で、どんなモンでしょう。お客さんが坂口さんを説得してもらいませんでしょうか」
「うん?・・・うん。あッ、いやダメだ。ワシには親友を売るような事は出来ん」
老齢の刑事が更に諭す。
「お客サンの気持ちも良く解かります。でも坂口さんもあの歳だ。これ以上の罪を重ねたらもう二度と世間には出て来られません。何とかアンタの力で説得してもらえないでしょうかねえ」
吉松は暫く頭上の破れた店看板を睨んでいる。
若い刑事が、
「お客さん! 親友でしょう?」
吉松はその言葉に天を仰いで目を硬く閉じる。
吉松の瞼に一筋の涙が。
そして、
「・・・ヨシッ! やってみょう。ちょっと待ってろ」
吉松は唇をきつく噛んで店の出入り口に向かう。
「あのバカ野郎が・・・」
独り言を呟く吉松。
自動ドアーが開きドアーチャイムが店内に響く。
するとカウンターの隅から絶叫に似た男の声が。
「来るなーッ! 一歩でも近づいたらこのオンナを殺す。俺は本気だからなッ!」
吉松は手を後ろに組み、外で見守る二人の刑事に「Vサイン」を送る。
店内では落ち着いた表情の吉松が坂口と話している。
「よ~う、カンゾウ・・・」
「?、あッ! オマエ・・・、ヨシマツ?」
刑事達が外から覗いている。
吉松は坂口とカウンター越しに親しげに話をしている。
老齢の刑事が、
「・・・上手くいったようだな」
「ですね。乗り込みますか」
「いや、その内に出て来るだろう」
路上に集まった野次馬がざわめき始める。
酔っ払いの男(野次馬)が大声で、
「ガンバレー! 負けるな~ッ」
警官が挿す又を持って男を睨む。
酔っ払い男は、よどんな眼で警官を睨み、
「何だーッ、文句あんのか。・・・バカ野郎、ポリ功が怖くて酒が飲めるか」
若い刑事が鋭い目線で酔っ払い男を睨む。
酔っ払いの男は、
「あッ、スイマセ~ン。静かにしまーす」
すると、『報道関係のクルマ』が二台、店の前に停まる。
男が車を降りて急いでトランクを開け、ビデオカメラを肩に、店の入り口に向かう。
後をマイクを持った女性のニュースキャスターが続く。
挿す又の警官Bが、
「あ、ダメッ。そこまで!」
これですべての「お膳立て」が整った。
するとガラス越しに坂口が静子の腕を放し、カウンターから出て来る姿が観える。
吉松が優しく坂口の肩を抱いている。
吉松の肩にもたれ掛かる坂口。
坂口は泣いている様である。
店のドアーが開く。
最初に吉松が店から出て来る。
少し遅れて、小柄で痩せこけた坂口が、両手を合わせて腹の前に突き出し堂々と表に出て来る。
その作法はまさに道に入った者しか出せない、渋い爽やかさを感じさせる。
老齢の刑事が坂口の前に進み寄り、
「坂口勘蔵か?」
坂口は観念した様に、
「はい。・・・お騒がせしました」
「コンビニ強盗未遂及び監禁の現行犯で十五時十六分逮捕ッ!」
腹の前に合わせた手首に、黒く冷い手錠が掛けられる。
報道陣のフラッシュが一斉にたかれる。
警官達と救急隊が一斉に店内に入って行く。
挿す又警官Bが、
「皆さん、お怪我は無いですか?」
石田が、
「無事っス」
静子は髪の乱れを整えがら、
「大丈夫です」
「あれ?・・・もう一人は」
石田が警官Bを見て、
「奥の事務所で仕事してます」
「シゴト?」
警官Bが挿す又をカウンターに立て掛け、奥の事務所を見に行く。
私はいつもの様に段ボールを敷いてグッスリと寝ていた。
警官Bが、
「店長さ~ん。店長~ッ! 起きてくださーい」
私はおもむろに目を覚ました。
ムックリと起き上がり、
「あ~、痛ててて。あッ! オマワリサン。すいません。寝ちゃいました。終わりました?」
警官Bが、
「は~?」
表通りでは、坂口が二人の刑事達に深々とお辞儀をして覆面パトカーに乗ろうとしている。
すると坂口が突然振り向く。
集まったドヤ街の野次馬連中に大声で、
「みなさん! お騒がせしました。じゃッ・・・」
野次馬達は熱い拍手と惜しみない声援を坂口に送る。
「よッ、頑張れーッ! よくやったーあ! い~んだよ、適当にやれば。また来いよーッ!」
警官Aが野次馬達を退かす。
「ハイ、開けてー。ほら、そこッ! ジャマ」
「うっせッ!タコ」
坂口は若い刑事に頭を押さえ込まれ、車に押し込まれる。
車内で悪びれず堂々と座っている坂口。
前席に座った老齢の刑事に、
「また、お世話に成ります」
坂口を乗せた覆面パトカーが走り出す。
後に続いてパトカーや救急車も。
吉松は女性ニュースキャスターに囲まれインタビューを受けている。
暫くして吉松は記者達に解放された。
吉松は電柱の後ろに身を潜め泣いている。
「バカ野郎・・・、よりによって『この店』をヤルなんて・・・」
静かになったアーケード街。
綿引マネージャーと大石が、店内で静子と石田に事件の経緯を聞いている。
そこに安部巡査長が大汗をかきながら自転車で現場に到着する。
安部巡査長が店の入り口に自転車を停めて、いつもの様に独り言を言いながら急いで事務所に入って行く。
「いや~、忙しい。引ったくりだの万引きだの、体が幾つあって足りやしない」
事務所内。
安部巡査長が事務所で元気そうな静子を見て、
「おお、奥さんッ! ご無事で。ハハハハ、そうですか。良かった~。じゃ、また後でちょっと署の方へ」
「はい。あの~、店が忙しく成るんで私だけで宜しいですか」
「勿論ですよ。それから・・・」
安部巡査長は携帯ガスコンロをもらいに来た吉松を指差し手招きをする。
「ちょっと、アンタ! 大手柄ッ!」
吉松は右手でウチワを扇ぐような仕草をして俯きながら去って行く。
安部巡査長が吉松の後ろ姿に、
「あ、ちょっとアナタッ! 顎鬚のアナタ、ダメッ! 今日は離しませんよ」
綿引マネージャーが売り場に出て来る。
レジカウンターの隅に呆然と立ち尽くす私を見て、
「オーナー、大丈夫でっかー!」
「あッ、すいません。お騒がせして。本物だとわ・・・。いや~、しかしこの店はいろんなお客さんが来ますねえ。落ち着いて仕事も出来ゃしない」
「すんまへんなー。でもこの店、切り盛り出来るのは百地さんしかおまへんでー。で、オーナーも危ない目に?」
「いや、私は事務所で商品の発注をしてました」
綿引マネージャーが目を丸くして、
「アッラ~! やっぱ、百地ハンは違いまんなあ。ハハハハ」
つづく
*『坂口勘蔵』
犯歴 前科四犯 (窃盗・無銭飲食・詐欺・強盗)




