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死んでた男

 この日ぐらい衝撃的な日はなかった。


その日・・・夏の暑い朝だった。

ドアーチャイムが鳴り、常連の飯田さんが店に入って来る。

と、レジカウンターに立つ静子の前に来て、


 「店長、そこの空き地で人が死んでるみたいよ。イヤーね~」


静子は驚いて、


 「え~えッ! 死んでる?」


客の一人が、


 「ああ、公園の隣の空き地でしょう。あのシト、死んでるの?」


石田が2レジのカウンターから、


 「ヤベッ! またかよ。ちょっと見て来ます」


石田はユニホームを脱いで、走って店を出て行く。

私は事務所で発注を終えて、元気よく売り場に出て来た。


 「いらっしゃいませ~」


静子がレジカウンターから売り場に出て来て私の耳元に、


 「人が死んでるみたいよ」


私は驚いて、


 「死・ん・で・る?」


石田が息を切らせて店に戻って来る。


 「店長ッ! 死ンでます。下半身ハダカで」


静子が驚いて、


 「カハンシン、ハダカ?」

 「暑いからじゃないスか?」

 「そんな~・・・。アンタ、警察に連絡した方が良いんじゃない」

 「そうだなあ。僕もちょっと見て来くる。どこ?」


石田が、


 「公園の隣の空き地っス」

 「ヨシッ! ちょっと行って来る」


静子は私を見て、


 「直ぐに戻って来てよ。忙しいんだから」

 「分ってる」


私は店を出て行った。


 暫くして私が店に戻って来た。

石田に、


 「公園の隣の空き地だよねえ。・・・誰も居ないぞ?」


石田が、


 「居ない? どッかに行ったンじゃないスか」

 「死人が? ンなバカな。寝てたンじゃないの?」

 「あんな草ン中で寝てる人なんかいないっスよ」

 「じゃあ、どこに行ったんだ?」

 「知らないっスよ」


私は何気なく外を見た。

店の前をのんびりと下谷署の『白い警ら用自転車』が通り過ぎて行く。

自転車に乗っているのは、あのメタボの安部巡査長である。

その後をトボトボと一人の男が付いて行く。

この店の周囲の環境からするとごく自然な光景である。

私は目をらそうとした瞬間、視線が固まってしまった。


『男の姿は上半身はアカで汚れた肌着一枚、下半身は無垢(ムク・裸)で素足スアシである』。


私は思わず、


 「あ~ッ!」


と叫んだ。


飯田さんが私の傍に来て、


 「あの人じゃない、空き地で死んでた人」


静子と石田が私の視線を辿タドって行く。

石田が驚いて、


 「ええ~ッ、マジ!」


静子は急いで視線を逸らす。

すると客の一人が、


 「あの人ですよ。やっぱり寝てたんだ」


静子が、


 「でも、良かったじゃないですか。生きてて」


飯田さんは通り過ぎて行く「死んでた男」を見ながら、


 「そうよね~」


・・・すると白い自転車がいつの間にか店の前に戻って来た。

警ら用自転車のスタンドを下げる音が。


 「パタン」


安部巡査長が店の前で男と話している。

暫くすると男が店に入って来た。

客達は蜘蛛の子を散らす様に店から出て行く。

安部巡査長が、


 「店長! すいませんね~。何か欲しい物が有るらしいんですよ」


静子は安部巡査長の問い掛けを無視して、そそくさと事務所へ消えて行く。

石田も売り場の奥へ。

安部巡査長は男に距離を置き背中に向かって、


 「迷惑は掛けるなよ」


男は無言で売り場の中を徘徊する。

下半身の「裸尻」が私の目の前を通り過ぎって行った。

売り場の奥では逃げ遅れた女性客の悲鳴が聞こえる。


 「キャ~ッ!」


安部巡査長の厳しく叱咤シッタする声が聞こえる。


 「ほら、迷惑を掛けるなって言ったじゃないか!」


男はドリンクコーナーの前で来ると固まってしまう。


安部巡査長が優しく、


 「うん? 欲しいのか。コレか?」


安部巡査長はオロナミンCを手に取る。

男はそれを無視してウーロン茶を手に取る。


 「あ~あ、ソレか。じゃあ、それを買って帰ろう」


男はウーロン茶を持って私の立つレジカウンターに来た。


 「いらっしゃいませ」


安部巡査長は男と距離を置き、笑みを浮かべて、


 「オーナーさん、すいませんねえ。それを一つイタダけますか」


制服のポケットから小さなガマグチを取り出し、チャックを開け小銭をカウンターの上に置く。

私が、


 「ありがとう御座います。大変ですね~え」

 「いや~仕事ですから。さッ、もう帰ろう」


男はウーロン茶のペットボトルを持って店を出て行った。

安部巡査長も男の後を追って「警ら用自転車」にまたがる。

と、また男と何か話している。

暫くすると男が店の入り口の柱に寄り掛かり、カウンターの私を見ている。

安部巡査長が、


 「おい、行こう。もう良いだろう。あまり迷惑掛けるな」


すると男はウーロン茶の蓋を開けて飲み始める。

そして私の方に裸尻を向けてお茶のペットボトルを床に置き、入り口に横たわる。

安部巡査長は一瞬、焦って、


 「あッ、おい、コラッ! 立て! 何をしている」


客の一人が店を出ようと試みるが、臭さと気持ち悪さで男をまたぐ勇気が出ない。

安部巡査長は堪忍袋の緒が切れて、


 「おいッ! 営業妨害だぞ。立てッ!」


怒鳴る声を無視して寝たふりをする男。

安部巡査長は汚いものでも触るかのように警棒で男の尻を突っつく。

男は抵抗するかのように寝返りをうつ。

安部巡査長が革靴の先で男の尻をこずく。

男はこれにも抵抗するかのように寝たまま汚れた上半身の肌着を脱ぎ捨てる。


 『素っ裸』である。


そして素っ裸で、母の胎内に居るような形で丸くなる。

安部巡査長が、


 「コイツ! こら、いい加減にせんかッ! 抵抗するな。立てッ!」


男は返事をするかのように放屁オナラをする。


 「プ~ッ・・・」


安部巡査長は怒って、


 「あッ! キサマ、本官をバカにしたな。こら、立てーッ!」


安部巡査長はキレてしまう。

警棒で男の尻を強く叩く。


 「ピシッ!」


丸裸の男はアキラめたのか、ようやく立ち上がる。

安部巡査長はカウンターの私と静子に軽く敬礼して、


 「お騒がせしました。・・・さあ、行くぞ」


放り投げられた垢だらけの肌着をツマんで、警ら用自転車にまたがり男と共に消えて行く。

が暫くして、また安部巡査長の乗る自転車と丸裸の男が店の前を行ったり来たりしている。


 ダストボックスの上で『雉トラ猫(招き猫)』が裸の男を見て居る


飯田さんが、


 「イヤ~ねえ。でも暑くなると裸が一番かも知れないわねえ~」


私と静子は開いた口が塞がらない。

                          つづく

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