サバンナの少年達
出勤入力を終えて杏子と弘美が売り場に出て来た。
異常に背が高いチンボは半袖のユニホームで売り場内をふらついている。
弘美がレジカウンターに入り静子に、
「おはようございま~す」
「おはよう。勉強してる?」
「ハイ」
杏子はカウンターの前を通り過ぎながら、
「おはようございまーす」
静子が、
「は~い、おはよう。今日も頑張りましょう」
「は~い」
静子は杏子の服装を見て、
「杏子さん、名札が上下反対ッ!」
「あッ、すいません」
「ちょっと杏子さんも来て。新人サンを紹介するから」
「は~い」
杏子がカウンターに入って来る。
静子が、
「チンボくん! 来てー」
「ハ~イ」
弘美と杏子が顔を見合わせ、
「チンポくん?」
チンボがカウンターの中に入って来る。
静子が、
「今日からここで働いてもらうアルバイトのモンサ・チンボくんです。で、こちらが杏子さんにこちらが弘美さん」
杏子は異常に背の高いチンボを上目づかいで見て、
「・・・どこの国の人ですか?」
「ケニア デス」
チンボは二人を見て、
「高校生デスカ?」
杏子は消極的に、
「あ、イエスッ!」
「ワオ、可愛イー 」
弘美は何か聞かれる事を怖がって、急いで雑誌コーナーに逃げて行く。
杏子も徐々にチンボから離れて行く。
弘美は雑誌を整理しながら、カウンター内の二人の会話を聞いている。
静子はおでん鍋の前で俯いて居る杏子に、
「杏子さん、いろいろ教えてあげてね」
杏子さんは焦って、
「えッ! え、ええ・・・はい」
弘美が雑誌を持ってカウンターの前に来る。
「店長、チャンピオンの表紙、また破けてますよ」
「ええ! また~あ。ッたくー」
チンボが弘美を見る。
弘美は急いで離れる。
「チョット、アナタモ高校生デスカ?」
弘美は振り向きもせず、距離を取って、
「チンポさんは学生ですか?」
「チンポ デハアリマセン。『チ・ン・ボ』 デス」
「あ、すいません。チンボさん」
「ボクハ、大学生デス。大学 デ マラソン ト 政治 ノベンキョウ ヲ シテマス」
「えッ! アスリートなんですか?」
「箱根駅伝 ノ レギュラー デス」
静子が驚いて、
「え~ッ! そうなの」
そこにドアーチャイムが鳴り続け、外に居た少年達がまた店に入って来る。
杏子は渋い顔で少年達を見て、
「いらっしゃいませ~」
チンボも、
「ラッシャイマセ~。ヤッパリ カラアゲ ヲ カイニ 来マシタネ」
少年達全員がレジカウンターの前に立ち止まり、チンボを見る。
石田が帰り支度を終え、売り場を通り過ぎる。
カウンターの前に立ち尽くす一人の少年の肩にぶつかる。
「イテッ!」
石田が、
「ボーっとつッ立ッてんじゃね~よ。邪魔だ。ドケッ!」
石田の「迫力の啖呵」に驚き、ぶつかった少年が、
「あッ、すいません!」
少年達は通りを開ける。
静子と杏子、弘美は石田の迫力に目が点。
チンボは石田の帰る背中に、
「オツカレサマデス。ボス!」
石田が、
「おう、頑張れよ。チンボ!」
少年達は石田の最後の一言に、
「えッ! チ、チンボ?」
カウンター内のチンボが少年達の一人を見て、
「シヨウガクセイ デスネ?」
少年はムカついた顔でチンボを見上げて、
「お・と・な・ッ!」
「オトナ? 小サイネエ」
少年達は黙って売り場の奥へ行く。
私はバックルームから売り場に出て来た。
少年達の傍にそっと近寄って、
「いらっしゃい、マッセ~~ッ!」
少年達は驚いて、
「ビックリしたなー!」
「何もビックリする事はないだろう。それとも・・・」
少女が、
「何でアタシ達の事を疑うんですか?」
少年Aが、
「お客様だぞ」
「チャントお金払えばな」
少年Aが、
「・・・さっきあの黒いヤツ、踊ってたぞ」
「踊ってた? あ~、アレはトレーニングと言うんだ」
「トレーニング? ・・・オーナー、バイトやらせてよ」
「ダメだ! フラフラして騒いでるヤツにはウチの店では働けない。ジャマだッ! 買わないなら出て行け」
少年の一人が、
「クソジジイ」
「うん? 何か言った?」
「分かったよ」
少年達が店を出て行く。
店の外で一人の少年がチンボを見て『ストリートダンス』を始める。
チンボはソレを見てポケットに両手を突っ込みカウンター内で飛び跳ねる。
少年達はそれを見てチンボに「V」サインを送る。
チンボはポケットから両手を出して、両親指を横に立てガッツで踊る。
杏子はそれを見て、
「カッコイ~!」
弘美もチンボを見て親指を立てて真似をする。
私は店の外があまりにも騒がしいので、外に出て来る。
路上で踊りはしゃぐ、少年達。
酔った路上生活者の一人が壊れた椅子から立って阿波踊りを踊り始める。
するとソレを真似て酔っ払い達が酎ハイの缶を持ちながら踊り出す。
異様に騒がしく成る店の前の路上。
私は堪忍袋の尾が切れて、
「何をしてるッ! カエレ」
と声を張る。
すると少年Aが、カウンターのチンボを指差す。
私が振り向いて店内を見ると、チンボがカウンター内でピョンピョンと跳ねている。
私は急いで店内に戻り、
「ユー、ダメッ! トレーニング ノウ」
チンボが、
「オウ、スイマセン」
「ここは運動場じゃないんだ。カウンター内でトレーニングは絶対ダメッ!」
「分リマシタ。オーナー、オコラナイデ クダサイ」
私は店から出て少年達に、
「ジャマだ! 公共の道路をこんなに汚して・・・掃除して行けッ!」
すると踊っていた酔っ払いの一人が、
「社長、オコルナッ! 呑めッ!」
私は無視して急いで店に入って行く。
少年Aが教授の背中に、
「モモチさん、バイト~」
「ダメ! 絶対に、ダメーッ!」
ダストボックスの上で『雉トラ(招き猫)』が少年達を見ている。
つづく




