金子徹也
ある日、突然あの店のリーダーの佐藤が「蒸発」した。
連絡も無く出勤して来ないのである。
夜、九時三十分。
夜勤の林が出勤して来る。
「ウイ~ス」
私は、
「おッ、ご苦労さん」
林がストコンをタッチして出勤入力をする。
「・・・今夜も一人だなね~・・・」
「ですね」
「林くんさあ、佐藤くんだけど何か知らい?」
林は素っ気なく、
「知らないっス」
「困ったもんだね~え」
林が出勤入力が終わり一言。
「ああ、そう言えば、おとつい寿(寿町)のパチンコ屋の前に佐藤さんのチャリが置いてありましたよ」
私は驚き、
「パチンコ屋? 彼はパチンコやるのか」
「スロットッすよ。スロットのプロ! ここのバイトの二、三倍は稼ぐんじゃないっスか」
「ええ~ッ! スロットのプロ?」
私は急遽、夜勤を募集した。
しかし当店の要望に合う人材は中々来ない。
仕方がなく以前働いていた『金子徹也』と云う男を新人が決まる迄と云う条件で、数日間働いてもらう事にした。
金子は真面目で責任感が有り、「夜の雰囲気」にピッタリな男である。
夜の雰囲気とは、要するに『ブルーボーイ(ジェンダー)』なのである。
朝、金子が久しぶりの夜勤仕事を終え、退勤のために事務所に戻って来る。
静子が、
「お疲れさま! 久々の夜勤じゃ疲れるでしょう」
「ゼンゼン! カマクラでバイトやってますから」
「鎌倉?」
金子はストコンに退勤入力しながら、
「店長~、もうやだ~。まだあの『ナスビ』この店に来てるの。チョーキモー。アタシがお釣り渡す時、顔を見ながら手を握るのよ~。こんな感じー」
静子の手を握る金子。
静子は驚いて思わず、
「あッ!」
金子が、
「ね~え。キモイでしょう」
「・・・でも、アタシはよく握られるわよ」
「そりゃあ、店長は『オンナ』ですもの」
私が事務所に戻って来る。
静子の手を握っている金子を見て、
「あッ、何してる!」
金子は私を見て、
「何を? あッ、コレ? オーナー、妬いているの」
「バカ言ってるんじゃない」
「ウソ、オーナーが店長を愛してる証拠!」
静子は私を見て、
「本当に愛してるの?」
「いや、ま~あ。バカッ! 何を言ってるんだ。ここは職場だぞ」
金子が、
「オーナー、早く入れてよ。じゃないとアタシ気が狂いそう」
「イレテ?」
「夜勤よ。ヤ・キ・ン」
「ああ、夜勤ね。分かった。一週間以内に何とかする。だからくれぐれも、気だけは狂わないでくれ」
静子は席を立ち、
「アンタ。金子くん、新小岩から鎌倉までバイトしに通ってるんですって」
「ええッ! カマクラ? それは大変だ。でも横須賀線で一本じゃないか?」
金子が、
「??」
静子が売り場に出て行く。
入れ替わりに林が退勤のため事務所に入って来る。
私は林を見て、
「ご苦労さま」
「ウイっス」
林はモニターに映し出される時間を見て退勤入力をする。
入力しながら、
「・・・金子さん、良いパンツ穿いてますね」
「ああ、これ? 安物よ。今、このブランドに凝っているの」
「いくらしたんスか?」
「六万位かな?」
私は驚いて、
「パンツ、一枚六万? キミは六万円もするパンツを穿いているか?」
「ええ、変?」
「ヘンて、僕なんて二枚で七百円だぞ。なあ、林くん」
林は私を一瞥して
「? ・・・」
私が、
「昨夜、品出しやってた時、腰からパンツがはみ出てたぞ。あのパンツは金子くんには似合わないな。やっぱりキミの雰囲気だとブリーフかティーバックだろう」
金子が、
「オーナーってイヤらしい! そんな所しか見ていないの?」
「いや、見えちゃったんだよ」
林が、
「教授、話ししない方が良いっスよ」
金子も、
「そ~よ。パンツって『ズボン』の事よ。オーナーってやっぱオジンね」
私は何にも言えなかった。
林は金子を見て、
「金子さん、今朝、キンカンが来てたでしょう」
「ああ、パンスト買いに来たわ。あの男すっかりハゲちゃったわね」
「前からツル頭ですよ。時々、カツラ被って来ますけどね」
「ええ? 前、アタシが居た頃、髪の毛が肩まであったわよ」
「あれもカツラっスよ。あン頃、浅草のゲーバーで働いてたんス。アレが愛用っス」
「あ、そうだったの? そう言えば、ファンデーションの上からヒゲが伸びてて、なんてキモイ客だろうと思ってたけれどゲーバーに。・・・で、まだ行ってるの?」
「今はアイツ、地下鉄工事で働いてるツウことです。ダチが同じ現場でバイトやってんスよ。ソイツが言うには、なんか一ヶ月位前にゲーバーをクビに成ったツう、変なハゲ男が入って来たそうです。そしたらこの間、ハザマ(間組)のメットを被ってアイツが店に来たンす。カツラからメットに変えたみてエ。ハハハハ」
「でも、なんでパンストなんか買いに来たんだろう」
「変態っスよ、変態。けっこう夜は変なヤツが来ますよ。オンナのパンツ買いに来たり、男なのに口紅買いに来たり」
「変態? 成るほどねえ。それじゃ客なんか付きっこないわ。アタシなんて生まれてからず~と、コレよ」
私は金子をシミジミと観て、
「そ~か、金子くんは生まれつきなのか」
金子は私を見て、
「だから、六本木のカマクラでバイトしてんじゃない」
「カマクラ?」
「オカマクラブよ。ヘルプだけど」
「ああ、それでカマクラか。店長、JRの鎌倉と間違えてるぞ」
林は金子をチラッと見て、
「金子さん、まだ前に話してたあのオカマクラブで働いてるんスか?」
私が感心して、
「なるほどねえ。キミにピッタリじゃないか。僕はここのバイト辞めてどうしてるか心配してたんだぞ。でも、良かった」
林が、
「金子さん、飲みに行ったら安くしてくれますか?」
「いいわよ。金持ちの客、いっぱいくるから飲み残しのレミーをジャンジャン飲ませてあげる」
私は、
「林くん! 君はダメだ。未成年じゃないか」
林はニッコリ笑って私を見る。
「ダメっスか?」
金子が、
「オーナーと一緒に来て、ノンアル飲んでれば良いジャン」
私は、
「ダメだ! 僕は、オカマは好かん。本腰を入れて付き合えないからね」
それから五日間で五人面接した。
しかし、やはりろくなヤツしか来なかった。
金子と約束した一週間の最後の日が来た。
つづく




