衝動
だんたん浮上していく。
真っ暗だった空間はもうそこになく、今見えるのは白い光だけだ。白い光といっても眩しいほどではなく、ほんのりと光っている程度だ。
俺は喰われた。
だが、痛みはさほど感じなかった。例えるなら、インフルとかの予防接種で注射されているときの痛みの全身バージョンだ。
あいつは俺を喰った後、俺の中に入ったように感じた。
今あるのは何か異物が自分の中にいるという感覚だ。自分の体の一部ではないから異物と表現したが、それにしては体になじんでいる気がする。
ん・・・意識が戻ったか?
何か柔らかく温かいものに包まれているように感じた。
薄っすらと瞼を開ける。
目に入ってきたのは白い布のようなもの。何やら周りから喧騒が聞こえる。甲高く鳴る金属がぶつかり合う音。人の怒号。
気配は感じるものの、近くにはいないようだったので目を開ける。
・・・・?ここは?
どうやらここはテントのようだ。俺を包んでいる柔らかいものは布団だった。
俺は盗賊に襲われて気絶したはずだ。それなのにこれはいったいどういう状況だろう。
最後に見たのは盗賊がフィシアに取引を持ち掛けているところだ。
ということはフィシアはそれを断ったということだろうか。いや、それだったらカラズの宿か解毒ができる人の場所(魔王のところとか)に運ばれているはずだ。しかしこの状況的に到底そうは考えられない。
となるとここは盗賊の拠点なのか。それにしては扱いが丁重すぎる。相手は盗賊だ。たとえ解毒薬をきちんと渡していたとしても、ここまではしない。
そもそも、俺が回復したのはあいつのおかげであって、解毒薬ではない。それはなんとなくわかる。だから、盗賊がきちんと取引に応じたという選択肢は消去するのが妥当だ。
・・・とりあえず外に出てみるか。テントの中からじゃここがどこなのか全くわからないし。
そう思い、布団から出てテントの出口を探す。
・・・?
出口のあたりには俺の刀があった。気絶したときは手にもっていたため、フィシアが持っているか盗賊に没収されていると思っていたので驚きだ。それと同時に疑問も覚える。どうしてわざわざ?という。
ありがたいことには変わりないので刀を手に取り、テントの出口の隙間からあたりを窺う。
・・・っ。ここは、盗賊の拠点で確定だな。・・・だが、これはどういう状態だ?
辺りにはレ・サーベル盗賊団のシンボルである赤い一本の刀が描かれた服を着ている者たちがいた。
彼らは木の影に身を隠しつつ矢をつがえていた。表情はとても真剣なもので、訓練ではありえない必死さだった。
何かと戦っている?・・・というよりは何かに攻められているのか?それを警戒している?
相変わらず金属同士、おそらく剣と剣がぶつかり合う音が響いている。しかしそれは少し離れたところから聞こえてきていた。
俺はどうし――いや、普通に出ていくか。
盗賊たちは俺を生かしていた。そして丁寧にも布団に寝かせ、手も縛っていなかった。出て行ったらすぐに殺そうとすることはないだろう。俺が毒で気絶していて何もできないと考えていたのかもしれないが。
だが、そう考えるとなぜ丁寧に俺を扱ったのかがより不思議になってくる。
一つ言えるのは、ここで考えていても仕方がないということだ。どうせ答えは出ない。
俺はテントを出た。
「・・・え?お前、生きて・・・?」
「嘘!毒直ったの!?」
「まじかよ。絶対無理だと思ってた。いや、なんかやけにもつなぁとは・・・。まぁとにかく良かった。」
まぁやっぱり驚かれるか。俺も驚いたし。にしても・・・
聞こえてくるのは驚きの声と回復したことを喜ぶ声。敵意は全く感じられない。
「これはどういう状況だ?フィシアをどこにやった?」
「あー、ちょっ、今やばいからあっちの方で聞いて来てくれ。」
そう言って俺がいたテントのさらに向こう側、盗賊の拠点の中央を指さした。
「分かった。じゃあ、一つだけ聞かせろ。お前らは俺の敵か?」
反応からして、暗闇の中で考えていたほど悪い状況ではなさそうだ。だが、これだけは聞いておかなければならない。
でなければ、俺の中のあいつが暴れようとする。
盗賊は暗闇の中では敵の認識だった。だから、盗賊たちを見たときから殺したいという激しい衝動が来ている。痛めつけてなぶり殺しにしたいとあいつが叫んでいる。
あいつは嗜虐心の塊だ。
聞くだけで寒気がする不気味な声と、話の流れ的に分かった。
今は状況からして盗賊が敵ではなさそうだと判断したから抑え込むことができているが、次はわからない。
確実に敵ではないという発言が欲しい。
「ひっ・・・」
「・・・。」
だが、盗賊たちはなぜか黙り込んだ。まるで何かにおびえているかのように小さな悲鳴を上げていた。
自然と刀が盗賊へ持ち上がる。
黙り込んだということは敵だ。
いや、違う。何か他に原因がありそうな黙り込み方だった。
いいや、俺に逆らった時点でそれはもう敵だ。殺せ。
それは違う。俺はそんな暴君になった覚えはない。ただ、敵を殺すだけだ。
敵とは誰のことだ?盗賊だろう?
わからない。まだわからない。それにフィシアがどうなったのかは聞きださなければならない。
じゃあ、拷問するか?
いいや。それは最終手段だ。
そんなまどろっこしいことをしている場合か?
盗賊だとしても俺のプラスになるやつはいるかもしれない。そいつを殺すことは俺が許さない。俺はマイナスを排除するだけだ。
こいつらはマイナスじゃないのか。
・・・ちっ。お前うるさいんだよ。いい加減黙れ。
「・・・もう一度聞こう。お前たちは俺の敵か?」
「・・・ちっ、違う!お前の仲間は俺たちに協力してくれている!!」
ふぅ。危なかった。あいつにのまれるところだった。というかフィシアが協力している?
盗賊にフィシアが協力している。
この言い方からして、無理やりというわけではなさそうだ。
そうだ。レ・サーベルはここで何をしている?まぁ、それを中央で聞いてこいということなんだろうが・・・
「そうか、じゃあ、オレンジ色の兵士は?」
「・・・だから敵じゃ――は?お前今なんて・・・?」
「オレンジ色の兵士だ。すぐそこにいるぞ。」
「なっ!ちがっ、帝国軍だ!」
オレンジ色の兵士。
俺があいつと言い争っているときに近くに来ていた。気配で分かった。今までの俺より圧倒的に感覚が鋭くなっている。これもあいつのおかげだろう。
何故か隠れているままなのだが、それは関係ない。
盗賊が敵でないと分かったことで、盗賊を、殺したいという衝動は減少したが、敵を殺したいという衝動は強まった。
あいつが俺の中にいることで、力が有り余っている。
こいつは敵だ。
こいつは敵だ。殺せ。
「じゃ、殺していいよな。」
刀に膨大な魔力を込め、薙ぎ払った。
次回更新は2/8(日)予定です。




