異常
( )はエミュリアが紙に書いたことを表しています。
〖エミュリア視点〗
「じゃあ、行ってくる。」
「ん。」
⦅いってらっしゃいです。⦆
«いってらっしゃい。»
私はフレア様と一緒に琉斗様とフィシアちゃんが出かけるのを見送りました。
今日は琉斗様はフィシアちゃんと中迷宮で経験値稼ぎをするそうです。
ぼふっ
私は琉斗様の寝ていたベッドに飛び込みました。
琉斗様は床に布団を敷いて寝る方が好きだけど、フィシアちゃんが装飾した部屋の雰囲気を壊さないようベッドで寝ることにしたそうです。
はぁ~、琉斗様のいい匂い。
枕をぎゅっと抱きしめ、顔をうずめ、しばらく琉斗様を堪能します。
琉斗様の匂いに包まれていると、琉斗様に買われた次の日の朝のことが思い出されます。
また琉斗様に抱き枕にしてほしいです。
フレア様が許してくれなさそうですけど。
ちなみに今そのフレア様は体を人の形に近づけようと何やら試行錯誤しています。本来のフレア様は人の見た目らしいです。しかし、黒い炎が人のような形になるだけで、顔とかは全然見えてきません。
それなのに、フレア様はどこか上機嫌です。
不思議に思いましたが好都合です。琉斗様のベッドに私が潜っていても怒られません。
いつまでもこうしていたいのですが、このままだと心地良過ぎて眠ってしまいそうです。なので、起き上がって、改めて部屋を見回しました。
フィシアちゃんの装飾はなんだかとてもかわいらしいもので、琉斗様にとって好ましいものではないと思うのですが、琉斗様はまったく嫌そうにしていませんでした。
たぶん、部屋が一部屋しかとれなかったので男性恐怖症のフィシアちゃんが男の琉斗様と一緒になってしまうのを気遣って、少しでもくつろげるようにしたのでしょう。『フィシアの好きな感じに自由にしてくれたらいい。』と言っていました。
やっぱり琉斗様に買われて良かったと思います。
ですが、琉斗様には他の人がご主人様だとありえない困ったことがあるのです。
・・・今日何しよう?
特にすることがありません。
琉斗様がいるなら、爆弾作りを一緒にするのでしょうが、今は私とフレア様しかいません。
琉斗様からまだ1人でするには危ないからやめておくように言われています。
何をしていたらいいか聞いたのですが、好きなことをしていたらいいといわれました。
困ります。
普通なら私は奴隷なので雑用とかにこき使われるのでしょうが、琉斗様は普通じゃないので奴隷というよりどこかのお嬢様になったかのようです。
昨日来たばかりの部屋なので掃除は必要ないですし、洗濯は洗濯屋に頼んでしまっているので、私ができることがありません。
⦅フレア様ー、私何してたらいいですか?⦆
フレア様の前に移動してそう聞きました。
«ん?ごめん、我が王がいないとエミュの言ってることわからない。»
そういえばそうでした。
琉斗様もフィシアちゃんも私の言いたいことが分かってくれますが、フレア様は琉斗様を通して私の言いたいことを聞いているので琉斗様がいないと伝わりません。
声を出せなくても通じるのが当たり前になっていてすっかり忘れていました。
私は紙に書いて伝えました。
«あ~・・・。好きなことしてたらいいと思うよ。»
琉斗様と同じようなことを言ってきます。
好きなことと言われましても・・・
視線で訴えます。
«特にしたいことない感じ?うーん・・・あっ、そうだ!エミュって料理できるの?»
料理?少しならできると思うけど・・・
«もしできるんだったら我が王とフィシアが帰ってきたときのために何か作ってたらいいんじゃないと思って。»
フレア様は名案が思い付いた、という感じにドヤっとしています。
確かに!琉斗様に私が作った料理を食べてもらう・・・やりたい!・・・あ、でも、
(どこで料理するんですか?)
«へ?・・・あー。»
私たちがいるのは普通の宿で、料理ができるような場所はなく、それに料理をする道具もありません。
«確かに、無理かー。どうする?外に出かける?あ、エミュが気に入ってるお風呂に行ってもいいよ。»
(お風呂行きたいです。)
«即答・・・そんなに?»
(はい!それに今の時間帯だったら空いてるだろうって琉斗様も言ってましたし!)
琉斗様に買われた翌日、琉斗様はキリトにある大浴場に連れて行ってくれました。
あんな大きな街のお風呂は初めてでしたが、私が元々住んでいた里でもシャワーの魔道具はあったのでそこまで期待はしていませんでした。
それがいざ入ってみるとなんてことでしょう!
想像を絶するぐらい広かったです。そして、お湯につかるのは初めてだったのですがとても心地よかったです。すごく落ち着きますし、体の疲れがすべてとれていくような気がしました。
琉斗様のいた世界では毎日入る人も多いようで、それも個室。
個室は羨ましいですが、そこまでの贅沢は言えません。なにせ、毎日行きたかったら行ってきたらいいと言ってくれたのですから。
琉斗様には感謝しかないです。
ちなみにエルフの耳は琉斗様が買ってくれた防水の耳当てを付けることで隠します。
『これで本当にお金が・・・俺ってそんなに金使い荒かった?』
と琉斗様は独り言を言っていました。
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うーん!気持ちよかったー。
«エミュって本当にお風呂好きだねー。»
こくりとうなずく。
予想通り、昼過ぎだと大浴場の人は少なく、のんびり浸かることができました。
フレア様は私がつけたイヤリングの中に入っています。
琉斗様がいつもつけているものです。フレア様は効果がないアクセサリーじゃないと入れないそうで、貸してくれました。
琉斗様とおそろいでうれしいです。厳密には琉斗様は今つけていないのでおそろいとは言えないですけど。
ぽたっ
ん?
ぽたぽたっ
«わー、雨降ってきた。»
雨です。少しづつ強まっていっています。
雨かぁ、この後街を回ろうと思ってたのに・・・。
«エミュ、どうする?帰る?»
そうですね。風邪ひくといけないし。
残念だったけど、宿に戻ることにしました。
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ふぅ、雨すごい。琉斗様とフィシアちゃん大丈夫かな?
«うぅ、めっちゃ濡れたー。雨嫌いなのにー。»
宿と大浴場はそこまで離れているわけではないのですが、瞬く間に雨が強まって、今は土砂降りになっています。かなり濡れてしまいました。
(フレア様って雨嫌いなんですか?)
«すごく嫌。だって私は炎だから。相性最悪。まぁ、雪とかよりはましだけどねー。エミュ腕を広げて。乾かしてあげるから。»
なるほどです。
フレア様が熱を発して、私の服を乾かしてくれました。
«ん、終わり。»
(ありがとうございます。)
«別に気にしなくていいよー。»
(フレア様ってなんだか今日機嫌良さそうですけど、何かあったんですか?)
フレア様はライバルですけどなんだかんだ優しいです。
ですが、今日は特にでした。
私が行きたいところにすぐについて来てくれましたし、私から頼まずとも服を乾かしてくれました。
«エミュ、聞きたい?»
どこか得意げで、嬉しさを隠しきれないという感じでした。
(はい。)
«ふふん!昨日我が王とギルドにご飯買いに行ったときに魔人たちと会ったの。»
はい、それは知っていますが・・・?
«そこで我が王が『俺には超絶可愛くて可憐な美少女の恋人がいるからネーアは違う』って言ってくれたんですよー!»
・・・え。
外でちょうど雷が鳴りました。
«あ、ちなみにネーアっていうのは私と我が王が出会う前に一緒にいた女。その女と我が王が恋仲なんじゃないかって疑われたからそう言ってくれたんだー。ふふ。»
な、なな・・・。
私は衝撃で固まりました。
りゅ、琉斗様・・・、そんな・・・。
琉斗様とフレア様が恋人になったのは、琉斗様が間違って私を抱き枕にしてくれた時にお詫びとして何でもするってなったからです。
ですので、琉斗様がフレア様のことを好きになっているわけではありません。きっとそうです。
そう思ってたのに・・・
公言・・・。琉斗様は、フレア様を・・・?わ、私は・・・
⦅・・・っ!!⦆
琉斗様のベッドに飛び込み、枕をぎゅっと抱きしめます。
«あ・・・え、エミュ?そんな落ち込まなくても。・・・ごめん。言い過ぎた。»
フレア様が私を心配してくれました。
⦅・・・。⦆
«あ、ええーと、我が王ってそっけないこと多いけど結構優しいから・・・その・・・ええと、エミュを捨てるようなことは絶対にないから・・・ええとぉ»
必死にフォローしてくれます。
⦅決めました!⦆
私はガバッと起き上がりました。
«え・・・!?»
フレア様が驚いた様子です。
⦅今まで自分からアピールはしてなかったけど、それ、やめます。⦆
«ど、どういうこと・・・?»
⦅もっと積極的に行こうと思います。⦆
«え・・・なん、で・・・»
⦅だって、そうじゃないと琉斗様を振り向かせることはできませんから!⦆
«我が王・・・»
フレア様が黙り込みました。
琉斗様は優しいからよく頭をなでてくれるけど、それじゃダメです。琉斗様に意識してもらわないといけません。
⦅琉斗様はたぶん鈍感でしょうから、たくさんアタックしないと・・・⦆
そう呟き、フレア様のほうに意識を向けます。
あれ?
フレア様がいなくなっていました。




