妻に寝言で呼ばれたい
第6回なろラジ大賞参加作品
テーマ:寝言
参加するつもりはなかったのに、みなさまの作品を読んでいたら無性に書きたくなりました。
2016年 結婚して妻と一緒に寝るようになった頃のお話
「gぇkrpをいふぁ!!」
突然の言葉に飛び起きる。隣を見ると眠っている妻の眉間にシワがよっていた。ん? 寝言か? 内容はハッキリ聞きとれなかったが、どうやら仕事でトラブルを抱えた夢を見ているらしい。眠りながらも仕事をしているなんて妻め、1日何時間働くつもりなんだ。労働基準監督署が黙っちゃいないぞ。
妻はしばらくもにょもにょ言った後、静かに寝息を立て始めた。
翌朝、起きてきた妻に声をかける。
「夕べも寝ながら仕事してたよ」
「ええっ、何か言ってた?」
いつものことなのでそれだけで意味が通じるようになってしまったようだ。
「いや言葉はハッキリしてたんだけどもう忘れちゃったよ、でもなんか怒ってたよ」
そう、妻の仕事は忙しく、見る夢は大抵が仕事の夢だ。どれだけ神経使ってるんだ。ところが妻はそんな夢の内容を覚えていないらしい。ま、夢だからね。その一方で妻が覚えている夢もある。怖い夢だ。そんなときは目を覚ますなり半べそで助けを求めてくる。
「何で助けに来てくれないの!」
いやそこで怒られても。
妻の見る怖い夢にはなぜか俺は登場せず、というか妻の夢に俺が登場したことはなく、むしろ妻にとって俺の存在は何だと言いたくなる。
「あっ、あっ、あーーーっ!!!」
また妻が怖い夢を見ているようだ。今日も俺は登場していないらしい。おかしいだろそれ。俺、夫なんだけど! むしろ一番に出てきてもいいはずなんだけど!? 妻め、夫を何だと思っているんだ。
いっそ枕の下に写真でも入れておいてやろうか。
「うっ、う~~っ」
今日もまた妻がうなされている。眉間にシワが寄っているが、夢の外からではできることはない。いや、ホントにそうだろうか。俺は妻を抱きしめると頭をなでながら声をかけた。
「大丈夫、俺がここにいるよ」
「うっ……う……」
妻の手に触れると、きゅっと握ってきた。
「大丈夫、大丈夫」
しばらく頭をなでていると、ようやく妻は静かになったようだ。
「夕べうなされてたけど、怖い夢でも見た?」
まるで何事もなかったように俺が問う。
「ええっ、何か言ってた?」
「うん、ちょっとね、うなされてるようだったから」
「う~ん、見たかもしれないけど、覚えてないなあ」
覚えてないのかよ! そりゃそうだ。怖い夢は途中で目が覚めるから覚えているのであって、目が覚めなければ忘れるものだ。
いつか妻の夢の中で、颯爽と妻を助ける俺が登場することがあるのだろうか。というか呼べよ、俺を。夫だぞ!
1000文字ピッタリ!
妻の夢に私が初登場したのは、結婚5年目くらいだったと思います。
長かったぁ~。