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12 お邪魔します その④

 健が記者の取材を受けた翌日、健は紗奈と一緒に、ファミレスで夏休みの宿題をしていた。

 勉強が一段落したところで、健は記者の話を切り出してみる。


「昨日さ、特典会場を出たところで、変な記者に話しかけられたんだよ」

「変な記者? もしかして、帽子にサングラスにマスクの女の人?」


 紗奈の怯えた様子に、健は自分の不安が的中したことを確信した。


「そうだよ。有名なのか?」


 紗奈は少し考える素振りを見せたが、やがて重い口を開いた。


「アイと昨日、電話で話したんだけど、アイのファンの中では有名になってるみたいだよ。アイの本名や、アイの通ってる高校を、知ってる人がいないのか、アイのファンに聞き込みをしている記者がいるって。原田も同じことを、記者に聞かれたの?」


 健が頷くと、紗奈の顔色は目に見えて悪くなった。

 健は紗奈が心配でたまらなくなる。


「アイの本名や高校を調べられて、それを記事に書かれたら、なにか困ったことになるのか?」


 言いにくいことのようで、紗奈は口にするのをためらった。

 紗奈は健の顔を、ジッと見ている。紗奈の視線の先には、本気で紗奈を心配する健の顔があった。

 紗奈は諦めたように息を吐くと、健を信用して秘密を漏らした。


「アイは身元がバレたら、アイドルを辞めないといけないんだよ」


 思いもよらぬ言葉に、健は目を剥いて驚いた。

 紗奈がアイドルをしていることを隠している理由が気になってはいたが、まさかそんな理由があるとは思わなかった。

 ナナセやレイナは身元がバレているが、それでもアイドルを続けている。なぜアイだけが身元がバレると、アイドルを辞めなければならないのだろう?


「なんで身元がバレたら、アイはアイドルを辞めないといけないんだ?」

「お母さんとの約束みたいだよ」

「約束?」


 健が聞き返すと、紗奈は母親とした約束について教えてくれた。


「アイはお母さんと、『アイドルをしていることが、家族や関係者以外にバレたら、アイドルを辞める』って、約束しているの」

「なんでそんな約束をしたんだ?」

「アイドルをしていると、ストーカーをされたり、マスコミにプライベートを暴露されたりするかもしれないでしょ? アイのお母さんは、それが心配で、アイがアイドルをすることに反対だったんだよ」


 紗奈の母親が心配する気持ちは、健にも理解できた。

 紗奈のファンは増え続けているが、それが単純に良いことだとは言い切れない。ファンの数が増えれば、その中には常軌を逸したストーカーのような者も、現れてくるかもしれないからだ。


 マスコミについては今まさに、その危険にさらされている真っ最中だった。

 懸念していたことが現実となり、事情を話す紗奈の顔色も冴えない。


「アイドルをしていることが、関係者以外にバレていなければ、ストーカーやマスコミに追いかけられる危険も減るでしょ? アイのお母さんは、『アイドルをしていることを、家族や関係者以外に隠せるのなら、アイドルをしてもいい』って条件を出すことで、アイがアイドルをすることを許可したんだよ」

「なるほどな。心配して反対する母親から許可をもらうために、アイはそんな約束をしたわけだ。今まさに、お母さんの心配したことが起きてるけど、アイはお母さんに、記者のことは話しているのか?」


 紗奈は重苦しいため息を吐いた。


「言えるわけがないよ。マスコミにプライベートを暴露される恐れがあるから、アイドルをすることを、アイのお母さんは反対したんだよ? 『記者に色々調べられて困っている』なんて言えば、『やっぱりアイドルなんて辞めたほうが良い』って、言われるに決まってるじゃない」

「それはそうか。アイの所属する事務所が、その記者をどうにかしてくれないのか?」


 アイは芸能事務所に所属していた。

 芸能事務所なら、そういった問題も、どうにかしてくれるのではないのか?

 楽観的に健は尋ねたのだが、紗奈の表情は晴れない。


「アイの事務所は、『もう少し様子を見よう』って言ってるみたい。記者が姿を見せたのは、昨日のライブが初めてだったからね。次のライブには、もう来ないかもしれないし」

「ずいぶん、のんびりと構えてるんだな。アイの身元がバレたら、アイはチェルナダを辞めないといけないのに。アイの事務所も、それはわかってるんだろ?」


 健が不満を口にすると、健をなだめるように、紗奈は力なく笑った。


「アイだけの問題じゃないんだよ。下手に刺激して記者を怒らせると、事務所に所属する他のタレントの悪い記事を、記者に書かれるかもしれないでしょ? だから、『この件は慎重にいこう』ってなったみたい」


 なにか紗奈を励ますようなことを言いたかったが、気休めになるような言葉も思い浮かばなかった。

 調べられている当人でない健ですら、紗奈の身元に関する質問を、記者からされたときには、背筋が凍りついた。調べられている本人の紗奈からすれば、その恐怖は相当のものだろう。


 怯えた紗奈の顔を見ながら、健は決心する。

 取材を止めるように、俺が記者を説得しよう。

 紗奈の事務所は、事務所に所属するタレントを貶める記事を書かれることが恐くて、迂闊に記者に手を出せない。

 だが、健ならそういった心配もなかった。

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