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11 見ちゃった その④

 体育館に全校生徒が集められて、終業式が行われていた。

 校長先生がなにか話しているのだが、話の内容は右から左に抜けていって、健の頭にはなにも残らない。健の頭は、今までにあった紗奈とアイの出来事を振り返ることで、いっぱいになっていた。


 三か月ほど前、紗奈の落し物を届けるために、健がダンススタジオに行ったとき、スタジオにはアイがいた。アイが紗奈を呼びに更衣室へ入って行ったのだが、紗奈だけが更衣室から出て来た。

 紗奈とアイが同一人物であるのなら、紗奈とアイが二人一緒に更衣室から出て来られないのは当然だ。


 知らない男の人がたくさんいるところは苦手だから、という理由で、紗奈はチェルナダのライブを観に来ない。

 紗奈がチェルナダのアイであるのなら、ライブの出演者である紗奈が、チェルナダのライブを観に来られるわけがなかった。


 健が推し変をしたと、アイが誤解をしたとき、紗奈はアイと同じように激怒していた。


 思い起こせば切りがないが、紗奈とアイが同一人物だと考えれば、どれもこれも腑に落ちることばかりだ。

 しかし、それでも信じられなかった。憧れの存在であるアイが、いつも隣にいたなんて、突飛すぎて妄想で考えるにしてもバカバカしい。


 なにか紗奈とアイが同一人物だと決定づける証拠が欲しかった。

 ふと思いついたのは、昨日、紗奈がスカートめくりをされたときに見えた太もものホクロだ。白い肌に一点だけあった黒いホクロは、今も鮮明に記憶に残っている。

 もし、あのホクロがアイにもあったのであれば、それは紗奈とアイが同一人物だという証拠になるはずだ。




 終業式が終わり、休み時間になった。

 健は一人になれるところを求めて、男子トイレの個室に入る。


 昨晩見なかった〝チェルナダのアイの見せパン〟というYouTubeの動画を見れば、紗奈と同じホクロがアイにもあるのか、わかるかもしれない。

 スマホの音量をゼロにして、健は動画を再生した。


 その動画では、ステージの上で踊るアイが、ステージのすぐそばからローアングルで撮影されていた。

 撮影者の邪な気持ちには反吐が出る。しかし、健には確かめたいことがあった。だから、動画の中でリプレイ回数が最も多い時点まで動画を早送りして、問題のシーンを待った。


 健の恐れる気持ちを無視して、問題のシーンが近づいてくる。そして、とうとう問題のシーンがやってきた。

 アイがクルリと一回転したときに、遠心力でミニスカートが広がって、アイの脚が露になる。

 その瞬間、眉間に皺を寄せてスマホの画面を睨んでいた健の眉が、上に跳ね上がった。


「嘘だろ」


 驚きのあまり独り言が漏れた。

 動画を巻き戻して、何度も映像を確認する。当たり前だが、何回見ても映し出される映像は同じだ。

 アイの太ももにあるホクロと、紗奈の太ももにあるホクロは、同じ位置にあった。


 紗奈とアイは顔が瓜二つで、性格もよく似ていて、二人同時に健の前に姿を現したことがない。おまけに、紗奈とアイは体の同じ位置にホクロがあった。

 これだけあれば、もう十分だ。


 導き出される結論は一つ。

 健のクラスメートの大野紗奈は、健が一目ぼれをしたアイドルのアイだ。


 紗奈には、健がアイに一目ぼれをしたことは話している。これでは紗奈に告白しているも同然だった。

 しかし、今の健にそんなことを考えている余裕はなかった。

 紗奈がアイだと疑い始めたあたりから、ずっと頭の片隅にはあったが、あえて考えないようにしていた。しかし、無視をするのも限界だ。


 昨晩、ナナセのXを見たら、ナナセは一学期を最後に、芸能コースのある高校へ転校するとポストしていた。

 転校するのは、ナナセだけなのか?

 アイも転校するのではないのか?


 アイが転校するということは、紗奈が転校するということだ。

 紗奈が転校したら、もう二度と学校で紗奈と話すことができなくなってしまう。

 昨日の放課後、紗奈と交わした会話が脳裏に蘇る。


 ――嘘だ。本当は寂しいんでしょ?


 夏休み中に会えないことについて、紗奈はたしかそんな風に健に聞いてきた。あのときの紗奈は様子がおかしくて、なんとかして健に〝寂しい〟と言わせようとしていた。


 もしかして紗奈は、転校することを、ためらっていたのではないのか?

 健が〝紗奈と会えなくなることが寂しい〟と素直に言っていれば、紗奈は転校を取りやめたのではないのか?

 あのとき俺は、なんて答えたっけ?


 ――寂しくないって言ってるだろ。夏休み中は大野に、『勉強もしなよ』って言われなくて済むと思うと、せいせいするぐらいだな。


 あまりにも自分が愚かだったので、健は声に出して笑ってしまった。

 バカだ。俺は大バカだ。

 あのとき、つまらないプライドなんか捨てて、素直に寂しいと言っていれば、紗奈は転校を取りやめていたかもしれない。


 いや待て。まだ紗奈が転校すると決まったわけじゃない。

 今日の放課後、紗奈が健に話したいと言っていた話は、本当に転校の話なのか?

 頭がオーバーヒートしそうだった。紗奈の素顔を見てから、一時も脳を休ませる時間がない。


 トイレのドアがノックされて、健の思考は中断する。


「だいじょうぶですか? 変なつぶやきとか笑い声が聞こえたんですけど」


 トイレの個室に閉じこもっている健を心配した学生が、声をかけてくれたようだ。

 健は一度深呼吸して気持ちを落ち着けると、落ち着きのある声で答えた。


「だいじょうぶです。一週間ぶりの便秘が出ただけです」

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