11 見ちゃった その②
健は自宅のベッドの上で横になって、チェルナダのメンバーのXを見ていた。
毎晩寝る前に、チェルナダのメンバーのXを見るのは、今や健の日課になりつつある。
個性豊かなメンバーが揃うチェルナダは、メンバー間でポストの内容にも、かなりの違いがあった。
アイは日常のことをポストすることが多かった。今日見たドラマが面白かったとか、このお菓子が美味しかったとか、いかにも女子高生らしいポストが多くて、見ていて微笑ましくなる。
レイナは、滅多にポストをしなかった。たまにポストしたかと思えば、セミの羽化の写真を、なんの文章もつけずにポストしたりして、ファンを困らせている。
ナナセは自撮りが多くて、ファンを大いに喜ばせていた。さすがはナナセと言ったところで、ファンの求めるものをよく心得ている。
そのナナセのポストの中に、気になるポストを見つけた。
それは写真つきのポストで、某有名な芸能コースのある高校の制服に身を包んだナナセが、気取ったポーズで写真に収まっていた。
健は写真の上にある文章を読む。
〝一学期を最後に、私は芸能コースのある高校へ転校することになりました。もっとアイドルとしての活動に力を入れるための決断です。今まで以上にがんばりますので、引き続きチェルナダの応援を、よろしくお願いします!〟
チェルナダの快進撃は、とどまるところを知らなかった。
今やチェルナダの名前は、全国のアイドルファンに知られている。というのも、チェルナダは来月に開催される東京アイドルフェスティバルにも出演が決まっていたからだ。
東京アイドルフェスティバルは、日本の3大アイドルフェスティバルにも数えられており、東京アイドルフェスティバルに出演するために、全国から二百組を超えるアイドルが、お台場のステージに集結する。その中には、すでにメジャーデビューをしていて、テレビやラジオで活躍しているアイドルも多数含まれていた。
大きな事務所に所属しておらず、デビューから3か月あまりしか経っていない新人のチェルナダが、このような三大アイドルフェスティバルに出演することは、前代未聞の快挙だった。
だから、アイドル活動を本格化させるために、ナナセが芸能コースのある高校へ転校することは頷けた。
芸能コースでは、全日制での通学が困難な芸能人のために、特別なカリキュラムが設けられている。また仕事のためという条件はあるが、許可書を出せば、髪形や髪色も自由に変えられた。まさに芸能人のための学校だ。
となるとアイやレイナも、ナナセと同様に芸能コースのある高校へ転校するのだろうか?
芸能コースのある高校だと、俳優やアイドルなど、見た目の良い男子生徒がたくさんいるはずだ。同じ芸能人同士なのだから、共通点も多く、会話も弾むだろう。もしアイが、その中の一人と恋に落ちるようなことがあれば……
ほとんどの芸能コースがある高校では、校則で恋愛が禁止されていた。
しかし、そうは言っても、高校生という多感な時期に恋愛禁止はきつい。それに禁止されれば、逆にやりたくなるのが人間のさがというものだ。
健は、ぶるぶると頭を振る。
ダメダメダメダメ! 絶対に、そんなのダメ! だいたいアイドルなんて、恋愛禁止が普通だろ? アイに彼氏ができるなんて、そもそもありえないはずだ。
俺以外に、アイに相応しい男はいない。そんな大それたことは、もちろん思ってはいない。
しかし、他のオタクたちと同様に、〝アイと付き合えたらいいな〟という夢は持っていた。
アイドルが自分に微笑むたびに、その笑顔に深い意味があるのではないかと、オタクたちは錯覚する。そして、憧れを手にするために、アイドルにお金も時間も注ぎ込むのだ。
アイドルが〝夢を見させる職業〟と呼ばれるのは、そういうことだ。アイドルに彼氏がいたら、楽しい夢どころか悪夢しか見られない。
アイが他の男に抱かれているところを想像すると、健は胸をかきむしるような嫉妬を覚えた。
ナナセは大人びていて雰囲気に流されるような人間ではないが、アイは年相応に幼い部分もあった。
偏見だと笑われるかもしれないが、芸能界には顔だけが良くて、女性関係にだらしない男がたくさんいるような気がする。もしアイが、芸能人の多い高校に転校するとなると、そんな悪い男にアイが騙さないか心配だ。
そこで、ふと健は思いつく。紗奈はアイとも仲が良かった。紗奈に聞けば、アイが転校するかどうかも、わかるのではないか?
心配ごとについて確かめる術が見つかると、少しは気持ちも落ち着いてきた。
気分転換に、チェルナダの動画でも見るか。
YouTubeの検索ボックスに、チェルナダの名前を入力するだけで、たくさんの動画がヒットした。さすがはチェルナダ様だ。
数ある動画の中でも健の目を引いたのは、〝チェルナダのアイの見せパン〟というタイトルの動画だった。
見せパンというのは、アイドルがスカートの中が見えてもいいように、下着の上に重ね履きするインナーのようなものだ。ミニスカートで激しいダンスを踊るアイドルにとって、見せパンは欠かせないものだった。
若く精力旺盛な健の瞳には、その動画のタイトルは魅力的に映った。しかし、その動画を一度でも見てしまうと、アイに対する純粋な好意に、下劣な思いが混じってしまいそうで怖かった。
だから健は、別の動画を探すことにした。そして、見つけた動画のタイトルに、健は自分の目を疑う。
その動画はチェルナダの公式チャンネルに上がっており、動画のタイトルは〝アイのパンツを見るレイナ〟だった。
公式チャンネルに上がっている動画なのだから、性的な要素は排除されているはずだ。動画のタイトルに興味を惹かれた健は、動画を再生してみた。
再生された動画では、楽屋にいるレイナが、アイのスカートをまくり上げて、アイのパンツを堂々と見る姿が映っていた。肝心のパンツやアイの脚は、レイナの体の陰になっており見えない。ほっとしたような、残念なような、なんとも言えない気分になる。
レイナのしていることは異常だが、それよりも異常なのはアイだった。レイナにスカートをまくり上げられているのに、アイはいつものことなのか、まったく気にしておらず、スマホを見ながら呑気にお菓子を食べている。
コメント欄を見ると、〝レイナが羨ましい〟という男性ファンが書いたと思われるコメントがあった。これについては健も共感できた。
健は紗奈のパンツを不可抗力で見てしまっただけで、紗奈に怒られた。
しかしレイナは、アイのスカートを自分の手でまくり上げて、アイのパンツを見ているのに、アイから許されている。こんなことをしても許されるレイナが、健は羨ましかった。
しかし、この〝私のパンツも見て欲しい〟という女性ファンの書いたコメントは、どんな意味があるのだろう? 健には難しすぎてわからなかった。




