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9 二番目に嬉しい日 その①

 アイの生誕祭の翌日、チェルナダにとっては、とても大事なライブが控えていた。

 ライブは昼の14時過ぎから始まる予定なのだが、リハーサルなども考えると、10時前にはライブ会場に着いていなければならなかった。


 目覚まし時計が鳴る前に、体は自然と覚醒して、ナナセは目を覚ました。

 体調はすこぶる良かった。昨日のライブの疲れは残っておらず、頭は明瞭に冴えわたっている。ライブが近づくにつれて、ふつふつと湧いてくる力に、思わず笑みさえ漏れた。


 朝の身支度を手早く済ませたナナセは、玄関で靴を履く。

 すると、ナナセの妹の芽衣が、ナナセを見送りに玄関までやってきた。


「どう? 今日のライブは勝てそう?」

「さぁ、どうだろうね? 今日も厳しい戦いになると思うよ」

「決勝ライブは2位で、あと少しだったもんね。でも、決勝ライブのときとは違って、今回はアイも調子が良いし、きっと今度はイケるよ」


 芽衣が両手を握って力説する。

 今日は、東京アイドルフェスティバルの出演権を賭けた最後の戦いが行われる日だった。


 アルファベットの頭文字であるTIFから、ティフとも呼ばれる東京アイドルフェスティバルは、日本の三大アイドルフェスティバルにも数えられており、アイドルにとっては、まさに夢の舞台だ。

 例年、8月上旬の3日間にわたり開催されて、全国から二百組、千人を超えるアイドルが、お台場のステージに集結する。来場者数は年々増加しており、昨年ついに、来場者数は十万人の大台を超えていた。


 もし東京アイドルフェスティバルに出演することができれば、それだけでチェルナダの名は、全国のアイドルファンにも知られることになるだろう。

 もちろん誰でも出演できるわけではなかった。出演のオファーを貰えなかったアイドルでも、東京アイドルフェスティバルに出演することは可能だが、そのためには全国選抜LIVEを勝ち抜かなければならない。


 チェルナダは、全国選抜LIVEにおけるダークホースだった。

 デビュー前にもかかわらず、東京アイドルフェスティバルの書類審査をチェルナダは通過し、デビューライブからすぐに行われたSHOWROOMというライブ配信サービスを使った審査も通過していた。

 5月末に行われた東日本Bブロックの決勝ライブでは、アイが極度の緊張で本来の実力を発揮できなかったために、惜しくも2位となり、東京アイドルフェスティバルへの出演権を逃していた。


 しかし、決勝ライブに敗れても、各ブロックの準優勝者5組と、主催者推薦アイドル3組によるセカンドチャレンジがある。

 セカンドチャレンジとは、いわば敗者復活戦のようなもので、そのセカンドチャレンジで優勝か準優勝をすれば、東京アイドルフェスティバルの出演権を得られた。

 チェルナダは、今日このセカンドチャレンジに出演する予定だった。


「ありがとう。とにかく全力を尽くすよ」


 ナナセの珍しく弱気な発言に、芽衣は心配になったようだ。


「出演する他のアイドルに、そんなにすごいアイドルがいるの?」

「いるよ。とんでもない相手がいる」

「そっか。私も後で応援に行くから、がんばってね」


 ナナセはおかしくて笑った。

 芽衣をからかうのは、やっぱり楽しい。


「応援に来なくてもいいよ。ティフの出演権は、必ず持って帰るから。芽衣は祝勝会の準備でもしててよ」

「なに言ってるの? さっき『厳しい戦いになる』って言ってたのは、お姉ちゃんでしょ?」


 芽衣が不思議そうな顔で、ナナセを見ている。

 ナナセは人をからかうことが好きだ。ナナセがこんな性格になったのも、元はと言えば、芽衣をからかうことが楽しかったことに由来する。

 姉は大変なのだ。少しくらいの息抜きは、認めてもらいたい。


「そうだよ。今日も厳しい戦いになるね」


 芽衣に答えを教えるつもりはなかった。答えを教えてしまったら、楽しみが減ってしまう。

 芽衣の不思議そうな顔をひとしきり楽しんだ後、ナナセはステージ衣装などの入ったキャリーケースを引いて、外の世界へ踏み出した。

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