わたしの物語
首まで湯に浸かりながらわたしは考えていた。今日はなんか妙な感じだ。ふるさとに戻ってきたせいだろうか。高校生だったころをよく思い出すのだった。でもそれは仕方が無いことでもある。その時そこで、わたしはわたしになったのだから。それから前はプロローグ、それから後は変奏曲だ。
父にパソコン借りるねと声をかける。おうと父はいう。もう寝る時間だが、父はそのまま居間で酔っ払ったまま寝ることも多い。ノートパソコンを持って部屋に戻るとふと、腰を据えようとわたしは思った。まずは飲み物が必要だ。台所に引き返してシナモンミルクを大きなマグカップいっぱいに作る。用意してるとお菓子も必要なんじゃないかという気持ちになってくる。台所を漁ってチョコパイとさやえんどうを見つける。
今日は夜ふかしをしようと思うと橋子と永遠に送る。いいね、と返ってくる。「朝にまた」「おやすみ」とふたり。窓を開け空気を入れ換える。冷たい空気が静寂と一緒に入ってくる。北半球も南半球も夜で、つまり世界は夜で、みんな眠ろうとしていて、わたしひとりだけがこの暗闇を起きたまま越えようとしている。そんな気がするのだった。パソコンにUSBメモリを差し込み立ち上げる。わたしの記憶が確かなら……。
それは空の写真だった。
何枚もある。切り取られた空は群青だったり薄緑だったりオレンジだったりする。雲はあったりなかったり。数枚見るとすぐに目が慣れてくる。平凡な写真だった。たくさんの空の写真を一枚一枚ゆっくりと見ていく。見終わるとわたしは昔の日記を箱から取り出す。高校の卒業アルバムも見つけてくる。これが頼りになる全てだ。後はむらのある記憶。3年というと短く感じる。36ヶ月と言い換えても短く感じる。短いのだ。振り返ったってあっという間だ。これはわたしの一夜物語なのだ。