染まる図書室
ドラマが終わり、お風呂の時間が来る。終わったら呼んでねと母に言い部屋に戻る。階段がみしみし鳴る。
部屋に佇んでわたしはふと本棚の物の整理をもう一度しようと思った。以前、しっかり整理をしたので、余分なものはあまり無い。押入れを開け、いくつかのダンボールを開いてみる。どれもきれいにまとまっている。それでも次々にわたしは箱を開けていく。本棚の分の箱が終わった。するとわたしは他の箱も開け始めたのだった。箱の中にあるものをひとつひとつ確かめるように手に取る。これでは整理では無く家宅捜索だなとわたしは思う。でも自分が何を探しているのかわからないのだった。熱心にやると腋に汗が滲んでくる。お風呂に入るから別にいいのだ。わたしは捜索を続ける。
「いばら」とわたしを呼ぶ声が聞こえる。
「いばら」
瞳が震えはっと気づく。わたしは図書室に居るのだった。小説の棚の前に立っている。沈みゆく太陽が最後の光を窓から投げかけている。その強烈な光が書物を一色に染め上げている。光が大江健三郎も伊坂幸太郎も、宮部みゆきも川上未映子も一冊の本のようにするのだった。
小説だけではなかった。ノンフィクションも地理も歴史も科学も宗教も図鑑も辞典も参考書も図書室にあるありとあらゆる本が一冊の本なのだった。わたしは腕に重さを感じる。本を何冊も抱えている。わたしは本を棚に戻さなくてはならない。わたしの作業だ。だがどうしてできるだろうか。すべてが一冊の本の時、何を頼りにして戻せばいいのか?わたしは立ち尽くしている。光がわたしの目にも溜まっていく。虹彩がちりちりと焦げてゆく。本だけではなくわたしという存在も染め上がろうとしている。わたしは動けない。図書室から影が消える。頬に汗が流れる。
「いばら?」
振り向いた時、すべては戻っている。橋子がいる。わたしはじっと彼女を伺っている。
「フリーズしちゃった?」先ほどの余韻でわたしはうまく答えることができなかった。橋子はわたしの腕から本を取ると棚に本を戻していく。わたしの腕を取って図書準備室まで連れていく。
「またいばらがボーっとしてました」恵美ちゃん先生がいる。永遠もいる。
「どうしちゃったの?」
「なんかよくわからない。すごかった」
「なんなの~」橋子のおどけた声にみんなが笑った。いつも通りだ。わたしは安心する。
「いばら」
「いばら」はっとする。母の声がする。わたしはUSBメモリを握っている。
「空いたよ!」




