父無し子のくせに
「戦争終わって、お父いつ帰ってくるかいつ帰ってくるかとお母ときょうだいと待ってたんだ。おれたちは芋やかぼちゃ食ってるけども、お父には米食べさせようって少ないけども米取っといてな。米さ食べたらお父喜ぶべなあってよ。みんなで言ってたのよ。けれどもよ、ある日、役場の人間と一緒に木の箱が届いてよ。お母が何だってなったら、向こうはお父だっていうんだ。おれも持ったら軽いんだ。開けて中見たら紙が一枚入ってるだけだ。「沖縄県摩文仁にて戦死」これだけだ。骨の一片も髪の一本も入ってないのよ。お母もきょうだいも泣いてたけどよ、おれは泣けなかった。長男だし箱と紙切れ一枚じゃ信じれなかったのよ。死ぬってこともよくわからなかった。本当のような気がしなくて、別れだってわからなくて、こころが詰まったのよ。涙が流れなかった。泣けないってことは大変なことだべさ。24時間、涙の素の塊がごろごろこころにあるってことよ。泣けるときに泣いたほうがいい。けどもそれがおれにはできなかったのよ」
「出征前にお父がおれたちにコマ作ってくれたんだ。大工やってたから器用でなあ。どこのコマよりもよく回ってな。おれは得意で宝物だった。寂しくなったらコマ抱いて寝たんだ。回してるといつかは倒れて止まる。回して倒れて止まる。飽きなくてよ、繰り返してると辛いのも少し忘れられたな」
照爺は立ち上がって飾り棚の方へ行く。戻ってくるとコマを手に持っていた。これがよ、と机の上に置く。コマは回転を支える先端がなめっている。木地のくすんだ、時の流れを感じさせるものだった。
「勝ったならお国のために身を捧げたって美談になるけどよ、負けたらなんのためだってなるべさ。おれはパチンコ好きだけどよ。十万負けるより一万負けの方がいいべさ。負けるのが最初からわかってるなら、一万負けるよりやらないほうがいい。別の台に行く。そう考えるのが普通の人間だべや。射幸心と現実、その塩梅の見切りをつけるのがプロってもんだべや」
「それでよ、隣に信心深い婆ちゃんがいてよ。その婆ちゃんが、おれやお母に言うんだわ。ちょっとの辛抱だよ、陛下があんたの親父を生き返らしてくれるよ。御霊がみんな並んで待ってるんだよ。数が多いから時間がかかってるだけなんだよって。お母は信じてなかっただろうけど、おれはああそうなんだと思ってよ。いつかないつかなと待ってたんだわ。ある日、近所のガキと喧嘩になってよ。『父無し子のくせに』って言われたんだわ。腹が立ってよ、俺は隣の婆ちゃんがいったことを繰り返したんだわ。そしたらそいつが妙に冷静になってよ、喧嘩も忘れたように『おまえ、天皇は人間なんだぞ。自分で言ったんだ。それも知らないのか』って言われてよ。ガーンってショック受けたよ。帰ったらお母に聞いたんだ。天皇陛下は人間なの?って。そうだよってお母が言ってよ。その時本当に、おれの中でお父が死んだんだべな」




