強い雨
夏休みが終わり学校が始まる。その日は強い雨が降っていた。傘をさして学校に向かう。道と道が交じり合うところでわたしは五十嵐くんを見つける。小走りで近づく。おはよと声をかける。ああ、藤原さんか、おはようと彼はいう。
「め、珍しいね、こんなところで、あ、会うなんて」
「今日はいつもと違うんだ。雨だしね」
「ライブ以来だね」
「うん、ライブどうだった? あの時は聞けなかったけど」
「す、すごいかっこよかったよ。お、音楽は聴いたことない、か、感じだった。また聴きたい」
「音源あるからさ、今度渡すよ。CDでいいかな?」
「うん、だ、大丈夫」
強い雨に閉ざされて前がかすんで見える。わたしたちはふたりだけでいるように感じられた。こんなことはなかった。チャンスは今しかないかもしれない。でも、もっと仲良くなってから聞く予定ではなかったのか。わたしは口から離れようとする言葉を抑えようとする。でもこらえきれない。知りたくてしょうがないのだ。どうしてわたしの身体は思い通りに動かないのか。わたしは緊張する。不安と期待で胸がどきどきする。
「い、五十嵐くんてさ、す、好きな人いるの?」しばしの沈黙があった。
「いるよ」と彼はいう。いるんだ。わたしの胸は重たくなる。
「学校の人?」
「違う。音楽やっている人」
「な、なんて人か知りたい」
「なんで?」今度はわたしが沈黙する番だ。でも、正直に言うしかないではないか。今だけはどもりたくないなあと強く思った。神さまお願いします。今だけでいいので。
「わ、わ、わたし、い、五十嵐くんが、す、好きだから」とわたしはいう。ヤマザキパンのトラックが雨だまりを巻き上げていく。
「それは知らなかった」
「そ、そうなの」
「フェニックスってバンドの、ちよがみさんっていう人。俺が好きな人」2回は聞けない。揺れ動くこころでなんとか覚える。
「ありがとうね」と彼がいう。
「わ、わたしこそ、教えてくれて、あ、ありがとう」学校が近づくにつれて雨脚が弱まる。親密の魔法が解ける。CD忘れないでねと彼にいう。わかったと彼はいう。その後は別々に歩いた。




