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ダメになっていく喜び

「彼女は以前にも万引きで補導された過去がある。君とはまた事情が違う。君は彼女に誘われてやったんじゃないのか?」と男性がいう。


わたしはそれを聞いて、ありさを守らなければいけないと思った。さっきのは全部嘘なんです。同人誌はわたしが欲しくて彼女に盗むように言ったんです。雑貨店で文房具を盗んだのもスーパーでジュースを盗んだのもわたしひとりでやったんです。彼女は関係ありません。悪いことをしたのはわたしです。わたしはそのようなことをいう。


男性が部屋を出ていく。しばらくして男性が戻ってくる。「彼女は自分で誘って、自分がやったと言っている」と男性はいう。「どっちが本当なんだろうね」


細かい内容を女性が聞きはじめる。わたしの嘘は矛盾を突かれ論破され諭されすぐにバラバラになってしまう。結局最初にいったことを繰り返すことになった。


「か、彼女は、と、友達なんです。ひとり、しか、い、いないんです」か細い声でわたしはいう。

「本当の友達なら、大切な友だちを悪いことに誘ったりはしないはずだよ」と女性がいう。

「そそそ、そんなこと、ありません。す、好きだから、じ、自分と一緒に、なって欲しいんだと、思います」

「それでは相手を憎んでいることと同じことになる」と女性はいう。「あなたはそれで苦しい思いをしなかった?」


苦しかった! とわたしは思う。苦しかったのだ。

「く、苦しいけど、変だけど、じ、自分が、ダメになっていく、よ、喜びがありました」女性は沈黙する。

「その気持ち、みんなが持っているんだろうか」

「わ、わかりません」

「わたしにもわからない。でも、その気持ちに負けたら、わたしはこの仕事を続けられなくなる。あなただけじゃないんだよ」と女性はいった。


取り調べが終わるとこれから店に謝罪しに行くからねと女性がいう。ご両親が来てるよ。


部屋を出ると父と母がいた。女性がふたりに今回のことを説明している。ふたりとも今までに見たことのない顔をしている。その顔をさせているのはわたしなのだと思うと、わたしはそこではじめて後悔したのだった。


父と母とわたしと警察の女性とで盗んだ店へ行く。今度は普通の乗用車だった。


店長に謝罪する。店長は長髪を頭の後ろで団子にした大柄な男の人だった。父と母は深々と頭を下げる。それを見てわたしのこころはまた傷ついた。今までとはまた別の痛みだった。いったい体はわたしの中にどれだけの種類の痛みを隠し持っているのだろうかとわたしは思った。盗んだ同人誌は買い取ることになり父がお金を払う。様々な表紙の本を父が持っている。恥ずかしかった。

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