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神さまのコップ

朝、夫の寝顔を見ている。言葉の、こころに残しておきたい一行を繰り返し読むように見ている。夫は無防備に安らかに眠っている。いびきは余りかかない。


昔、同じような時があった。結婚はまだしていなかった。独り暮らしを始めたばかりの、冷蔵庫も洗濯機も無い未来への希望だけがある部屋で戯れに、でもどこか張りつめた気持ちで、すやすや眠る彼の鼻を摘まんでストップウォッチのように時を数えていた。どれだけ長く水の中に潜っていられる? どれだけ速く100メートルを走れる? どれだけわたしはあなたのことを想っていられる?


週末は会いに行くよと彼はいう。毎週? そう毎週。祝日は? 祝日も。札幌まで、けっこう遠いよ。気にならないさ。ふたりに会いたいもの。ふたり? まだふたりじゃないのかな? 1.9人? 1.9999999……どこまでも9を並べたい気持ちがあるな。その気持ち、とてもよくわかる!


外に出る。光が神さまのコップから溢れている。春だ。ふたりで荷物をいくつか積み込む。出発だ。あ、カギ。僕が持ってる。


「気を付けてね。不注意とかトラックとか亀の甲羅とかバナナの皮とか。途中、コインは多めに取るんだよ」


真面目な顔で彼はいう。彼は真面目な顔をする時ほどふざけている。反対にふざけているように真剣なことを話すのだった。わたしは彼の寝ぐせに手櫛を入れる。さらさらしている。


「見えなくなるまで見ててね」とわたしはいう。


「もちろん。見えなくなっても手を振り続ける」


海沿いの国道231号線に乗って札幌を目指す。231号線のことはオロロンラインとわたしたち道民は呼んでいる。オロロンってなんだ?と思わないだろうか。なんだか何かの鳴き声のような……。その印象は外れていない。ウミガラスの鳴き声を表現している。ウミガラスはペンギンに似た可愛い外見をしている。昔は北海道の日本海側にウミガラスがたくさん住んでいた。だが食料のニシンが少なくなったため今では大きく数を減らしているのだそうだ。ウミガラスは今、寂しいだろうか。


「ウミガラス友を探してオロロンとオロロンとなく吹雪は止まない」とわたしは詠う


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