博士の訪問者達
博士はベッドの上で本を読んでいる。
芸術家がドアをノックする。
芸術家:この度、この村に引っ越してきた者です。
博士:零号、ドアを開けて、入れさせなさい。
零号:了解しました。
芸術家が入室する。
芸術家:お邪魔します。あ、これを。songの茶菓子です。
博士:受け取りなさい。
零号:了解しました。
芸術家:・・・。
芸術家は零号を複雑な表情で見る。
零号:どうしましたか?
芸術家:いや、なんでもない。
芸術家から零号は紙袋を受け取る。
博士:来客にお茶を持ってきなさい。
零号:了解しました。
零号は紙袋を持って、その場から離れる。
博士:あなたはここに座ってください。
芸術家:ご丁寧にどうもすみません。
芸術家が椅子に腰掛ける。
博士:こちらこそすみません。私は持病を持っていて、ベッドの上の生活なんです。
芸術家:いえいえ。気にしないでください。
博士:・・・。
芸術家:・・・。
博士:えっとご職業は?
芸術家:元芸術家です。
零号がお茶と茶菓子をおぼんの上に乗せてやってくる。
零号:お待たせしました。
零号がお茶と茶菓子をおく。
芸術家:・・・。
芸術家は零号の目線を避ける。
零号:では失礼します。
零号はその場を離れる。
博士:もしかしてアンドロイドお嫌いでしたか?
芸術家:嫌いというより・・・。私は芸術家として活動をし続けていました。家族や友人を切り捨てて、作品のために時間を費やしました。作品を考えない時間なんてありませんでした。
芸術家:アンドロイドやAIが芸術作品にも範囲を広げました。でも私はアンドロイドやAIに人の心を動かす作品は創れないとたかを括っていたんです。
芸術家:でもある日アンドロイドが創った作品を見たんです。その日から私は作品を創れなくなったんです。
芸術家:アンドロイドが創った作品は最高傑作でした。神の領域でした。いや、言葉にするとあの作品に失礼だ。陳腐な物になってしまう。言葉にできないほどのものだったんです。
芸術家:発想力。発想力を形にする表現力。どれも別次元でした。
芸術家:考えても考えても考えても考えても、あの作品の前ではどんなものも塵に等しいです。
芸術家:アンドロイドやAIは尋常じゃない速さで成長し続けています。それに比べて私は歳を重ねるごとに才能がどんどん萎れていくのを感じるんです。
芸術家:私はアンドロイドが嫌いではありません。むしろ歴史を変えるほどの想像力を尊敬しています。私が作品を創れば、芸術に泥を塗ってしまいます。
博士:・・・。
芸術家:すみません。一方的に。
芸術家は椅子から立ち上がる。
零号:もうおかえりに?
芸術家:ええ。では、お邪魔しました。
芸術家は帰っていった。
零号:博士。
博士:何だい?
零号:アンドロイドが傑作を生み出したのに、なぜ彼は浮かない顔をしているんですか?
博士:彼は何もかも切り捨てて、作品に全てを注ぎ込んだのに、失ったものがないアンドロイドの作品が上だったからだよ。
零号:また頑張ればいいじゃないですか?
博士:何かを切り捨てて努力しても辛い思いをしても、手に入らないものもあるんだよ。それを知ってしまったから頑張れないんだよ。
零号:そうですか。
研究者がドアをノックする。
博士:誰かな?
零号:開けます。
研究者が入室する。
博士:君か。
研究者:お久しぶりです。
博士:零号、お茶を。
研究者:大丈夫です。今日は貴方の説得に来ただけですから。
博士:なんの説得だい?
研究者:ご冗談を。貴方はAIの範囲を芸術や文学に広げ、アンドロイド事業の原点となるアンドロイド壱号を開発しました。人類に貢献した貴方が辺境の村で何をしているのですか?
研究者:貴方はまたAIやアンドロイドの研究に戻るべきです。
博士:私は持病が。
研究者:AIの分析と細かな作業までできる医療アンドロイドがあれば、解決できます。
博士:・・・。
研究者:貴方はここで何をするのですか?研究をし続けましょう。
博士:私はアンドロイドやAIの研究を人を作っているのではないかと思うよ。神の真似事をしているんじゃないか。いつか神に近づきすぎた人間は天罰が下る。
研究者:私は神はいないと思います。
博士:非科学的だからか?
研究者:アンドロイドは人間ではありません。アンドロイドは人間を超えた存在になるからです。
研究者:私は神様の存在が消えた理由は人間が人間を創造した神様を超えたからだと思います。人間は科学や文化という文明を発展させました。
研究者:だが今ではアンドロイドが科学や文化は先端をいく存在です。アンドロイドを作った人間もいつかはおとぎ話のような存在になるんです。
研究者:神がいたとしても天罰など恐れていませんよ。私も。貴方も。
研究者:だって貴方には人の心はないからですよ。
博士:ひどいことを言うじゃないか。
研究者:仕事を奪うアンドロイドやAIを開発できてよく言えますね。
研究者が博士の顔を覗き込む。
研究者:私達は人間、AI、アンドロイドの限界を知りたいだけ。
研究者:私と貴方は同じだ。神に逆らう悪魔と言う点でね。
研究者:今日はここまでにします。また来ます。
博士:説得はお断りなのだが。
研究者:あっ。そういえばそこにいるアンドロイドはなんですか?壱号と似ていますけど。
博士:零号。世間に公表した壱号の試作品だ。
研究者:プロトタイプですか。今度来る時に、壱号と零号のスペックの違いを教えてください。
研究者は帰っていった。
博士:若いな。目がキラキラしていたな。
零号:私にはわかりません。
博士:・・・。そうだな。
ライターがドアをノックする。
ライター:すみません。アポをとっていたライターなのですが。
零号:今日は訪問者が多いですね。
博士:そういう日もある。
ライターが入室して、椅子に座る。
博士:私は持病でこのような状態での質疑応答になるが問題ないかね。
ライター:はい。こちらこそ今回は時間をとらせてくれてありがとうございます。
博士:質問の前に私が質問していいかな?
ライター:あ、はい。いつもは質問する側なので、上手く答えられるかは。
博士:君はアンドロイドやAIについてどう思う?
ライター:どう思うとは?
博士:今ではAIが書いた記事が雑誌に載ることも多い。
博士:急成長するAIやアンドロイドに希望を持っているのかね?
博士:それとも君たちの仕事を奪うAIに絶望しているのかね?
ライター:何もないです。
博士:何も?
ライター:確かにAIが書いた記事が雑誌に掲載されることも多いです。でもAIやアンドロイドがどんなに素晴らしい文章を書いても、それは彼らの考えであってワタクシ個人の考えではない。
博士:・・・。
ライター:AIやアンドロイドが急成長しても、ワタクシにはなれません。ワタクシの考えはワタクシだけの物です。
博士:わかった。質問をどうぞ。
ライター:博士はなぜアンドロイドを開発をしようと思い至ったのですか?
博士:私は本当は彼女をサイボーグにしてあげたかった。
ライター:それは・・・。
博士:私には好きな人がいた。8歳の頃、ボールを遊びを友人達としていた。ボールがとある家の窓に入って、取りに行くことになったんだ。
博士:ボールをとってくれた少女がいて。それが彼女との出会いだ。
博士:彼女は病弱だった。家のベッドで生活する毎日だったらしい。いつも窓から私達が遊ぶのを見ていた。
博士:私は彼女に一目惚れをして、それから毎日窓ごしの彼女に話しかけた。
博士:彼女は聡明であった。彼女は本の知識を教えてくれた。
博士:私は外の知識を教えた。数年経っても、私達の交流は続いた。
博士:でも、ある日、彼女は病気で亡くなってしまった。
博士:私は彼女の死体を生きた身体にするために研究して、改造した。
博士:彼女は蘇らなかった。そこにいる零号や壱号は彼女を蘇らせる研究の副産物だ。
博士:私にとっては零号や壱号は失敗作だよ。身体は似ていても聡明な彼女ではないからね。
博士:この話をしたのは君が初めてだ。ずっと誰にも話さなかった。
ライター:なぜ私に?
博士:人の話を聞いていたら、私の話も誰かに聞いてほしくなってね。
ライター:そうですか。今日は貴重な話をありがとうございます。
博士:いいや。
ライター:最後に一ついいですか?
博士:何だね?
ライター:博士は本当は持病なんてものはないのでは?
博士:なぜそう思う?
ライター:アンドロイドの目にもない死んだ目なので。彼女の真似をしても、彼女に早く会えるわけではないですよ。
博士:・・・。
ライター:それでは。
ライターは帰っていった。
博士:零号。今日は訪問者が来てくれたね。
零号:はい。
博士:私はあの三人の訪問者の誰に近いのだろうね。
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