第八十九話 ゆーちゃんの狙いとは
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「次ー、高原ー」
竜也の隣をめぐって、男女問わずオーバーリアクションを繰り広げるようになった阿鼻叫喚なくじ引きを見ていると、あっという間に俺の順番が回って来た。
うわぁ……なんかめちゃくちゃ見られてるなぁ……!
クラス中から視線を感じる。特にまだ引いてない女子からの圧がすごい。
き、聞こえる……! 絶対に竜也の隣を引くなっていう声なき声が……! 恋する女子はテレパシーでも使えるのか!? あ、これキツイ! キッツいわ!!
4月からこっち、何度も目立つような出来事に巻き込まれてきたので、ある程度は視線には慣れたと思ったけど、やっぱり無理だ。目立つの苦手。強い視線やめてください。もう余った席でいいから、くじ引きしなくていいですか?
なんて願いが通じるはずもなく、女子たちからのとんでもないプレッシャーを感じながら教卓の前に向かう。
「――!?」
その途中、とんでもなく強い視線を感じた。発生源はちょうど教卓の前の席、先月16番の番号を引いた持ち主。
彼女は両手を胸の前で組んでまるで神さまに祈るシスターの様に、じーっとこちらを見ている。その目は未だかつて見たことがないくらい、とんでもなく真剣だった。まとってる雰囲気も、ライブ中の彼女を思い出させるような、なんというか本気な感じ。竜也の隣の席を狙うギラギラした恋する女子に負けず劣らず、強い意志を感じる視線だった。
なんでゆーちゃんまで、急にそんなガチな感じになってんの!? さっきまでそんな雰囲気微塵もなかっただろ!?
さっきまで教卓前でくじを引くクラスメイトのリアクションを見て楽しんでいたので、席の位置の都合上、当然、教卓前に座っているゆーちゃんの姿も目に入ってきていた。
え、いや本当になぜ? お祈りと強い眼差しの理由が竜也ガチ恋勢と同じだとしたら、竜也の席がわかってから始めるだろうから、今回からやるのは遅すぎる。それに以前、屋上で「竜也と付き合ってると思われるなんて絶対に嫌」みたいなこと言ってたし……もしやゆーちゃんの行動は竜也の隣の席が目的じゃない? 状況とか流れ的に考えたら俺が関係してることだと思うけど……まさか俺の席の場所に何か思うことがあるとか?
そう、例えば隣の席になりたいけど、もう両隣が埋まってる番号を引かないで欲しいとか……うわぁ我ながらキモい妄想すぎる……なんか最近、すぐこういう自分が好意を向けられてるんじゃないかってキモイ妄想をするようになってきたな……やばいなんかもう恥ずかしさで死にそうなんだが……!!
「おーい何やってんだ早く引けー」
「あ、はい、すいません」
とんでもない妄想を繰り広げてしまい、自己嫌悪と羞恥心で果てしなく死にたくなっていると、担任が急かしてくる。やばいやばい、もうさっさとくじ引いて席に戻って反省しよう。
し、視線が突き刺さってきてるわぁ……視線が物理的に見えてたら顔面が串刺しになってるぅ……お願いだからやめてゆーちゃん、今俺はゆーちゃん相手にとんでもなく申し訳ない妄想をしたんだから……。
真横からゆーちゃんの視線を至近距離で受けながら、申し訳なさと羞恥を我慢しつつ、くじを引く。
「何番だー」
「35です」
次の席は竜也の真後ろだった。近くではあったが、佐古木みたいに隣じゃなかったので、竜也ガチ恋勢の女子からとんでもない目で見られなくて済んで、ほっとする。
そういえば、竜也と近くの席になるのとか久しぶりかもな。よし、これで先月みたいにホームルームの隙間時間とかで、誰とも楽しくお喋りできないなんて悲しい事態は避けられた。しかも列の一番後ろの席だし、今回の席替えはめちゃくちゃ当たりだな。
女子に囲まれて「お願い」される危険もなく、しかもすぐに竜也と話すことができて、なおかつ一番後ろという快適なポジションを確保できた。うん、これは満足すぎる結果だわ。
「30番か40番……!」
ゆーちゃんの真剣な感じの呟きが聞こえた。瞬間、その言葉に、頭の中にあったバラバラのピースが次々と組みあがり、ゆーちゃんのさっきの謎の行動の意味を完璧に理解する。
なるほど! ゆーちゃんは幼馴染で固まった席になりたかったわけか!
こうして俺たちが同じ学校、しかも同じクラスになるなんて初めてのことだ。
昔、一緒に遊んでた頃も学区の関係でゆーちゃんだけ別の学校に通ってたから、よく二人だけ同じ学校でずるいずるいと駄々をこねていたのを思い出す。だからそんな昔の思いもあって、ずっと幼馴染グループで固まって座りたいと思っていたんじゃないだろうか。
幸い竜也の周りの席は佐古木以外はまだ埋まってないのでスペースには余裕があるから、俺やゆーちゃんがくじを引くまでに、他の誰かがその席をすべて埋めてしまう可能性は低いだろう。むしろ、俺やゆーちゃんが、竜也の周りの席を上手く引けるかどうかにかかっている。
俺の番になって急にお祈りをし始めたのはそういうことだ。まず俺が竜也の近くの席を引かないとゆーちゃんの目的は達成できないのだから。
そしてさっき、無事に俺が竜也の後ろを席を引いたことを確認した後の「30番か40番」というゆーちゃんの呟き。
俺と竜也が前後ろで並んだ以上、竜也の前方の席は縦に並んでるだけで3人が固まってる感じがしない。そうなると必然的に候補は竜也の隣か俺の隣に絞られるが、竜也の隣は他の女子たちの視線があまりにも怖い。結果、消去法で俺の両隣の席に狙いを絞ることにしたのは当然のこと。
うんうん、我ながら完璧な推論だな。
疑問が解消されて、とてもすっきりした気持ちで俺は自分の席に戻るのだった。
なお、席に戻ってから、ゆーちゃんがそういう考えだったこと理解して、改めてさっき俺がした的外れもいいところのキモイ妄想に激しく死にたくなった。
いやもうほんと恥ずかしいわ……! この自意識過剰な癖をなんとかせねば……!
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