第八十八話 席替えは一大イベント
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「ホームルームの時間だぞお前らー、今日は決めることが多いからさっさと席につけー」
朝のホームルームの時間になり、いつものようにのっそりとした動きで担任が教室にやって来た。
出席簿と小脇に抱えた箱を教卓に置くと、眠そうな目で俺たちが自分の席に座るのを待っている。
「よーし、んじゃホームルーム始めてくぞー。えー、まず知っての通り月が変わったので、お前らお待ちかねの席替えするぞー。やり方は先月と同じなー。ついでに出席確認もすませたいから、くじを引く順番は今回は出席番号順にするぞー。一人ずつ呼ぶから、呼ばれたらくじを引きに来るようにー明野ー」
「はーい」
席替えと聞いてテンションの上がるクラスメイトたち。
出席番号1番の明野さんから順番に、教卓に置かれた箱へ手を突っ込みくじを引いていく。
先月と同じなら、くじには番号が書いてあるはずだ。うちのクラスはそれぞれの席に番号が割り当てられているので、該当する番号が次の席の場所になる。
できれば引きたいのは、5か40だな。
どちらも一番後ろの席で、5番は廊下側、40番は窓側である。もしくはその隣あたりがいい。
まあ一番前の席じゃなかったらぶっちゃけどこでもいいけど――っていかんいかんこれ以上考えて変なフラグが立って16なんて引いたら最悪だ。教卓の目の前とかマジで勘弁。
「うわ、37番とか今の席とほぼ変わんないんだけど……まあ窓際だしいっか」
「やった25番! 一番後ろとかめっちゃ当たり~」
「1番……ふっ、常にトップを目指すボクにふさわしい数字だね!」
「ぐあああああああ、16番とかマジかよ!? これじゃあもう早弁できねえじゃねえか!!」
くじを引いたクラスメイトの思い思いのリアクションが見ていて面白い。
あと16番引いてくれたやつには心の中で全力で感謝しておく。
「おらー引いたらさっさと席の戻れー。次ー、五位堂ー」
竜也の名前が呼ばれ、ざわ、とクラスの空気が変わったのを感じた。
さっきまで騒いでいたというのに、女子も男子も急に静かになり、どこか緊張した面持ちでくじを引く竜也のことを見つめている。
これ先月も見たなぁ。ていうか小学校の頃から何十回も見たことあるやつ。
俺にとっては見慣れた光景というか、もはや見過ぎて飽きてるレベル。あまりにも予定調和過ぎる空気に笑いそうになるくらい。
昔から竜也はモテる、それはもうくっそモテる。それは小中高とずっと変わらない。
そのため席替えの時、あいつがどこの席になるかは男女問わずめちゃくちゃ注目されていた。
女子的にはお願いだから竜也の近く、あわよくば隣の席になりたい! という想いから。
好きな男子、かっこいい男子と隣の席になりたいと思うのはごくごく自然なことだろう。わかりやすく両手で祈ってる女子までいた。
男子的には頼むから自分からは離れて欲しい! という想いから。
球技大会のバスケがいい例だったけど、竜也が近くにいたら女子にモテるとか無理寄りの無理だからな。モテたい男子たちがそう思うのも、これまたごくごく自然なことだろう。それは願い方として果たして正解なのか、念仏を唱えてるやつまでいた。
そんな感じでクラスメイトたちの気持ちがわかるのは、小中高とずっと竜也と一緒にいた経験のおかげだろう。竜也に関することに限ってはだが、恋する女子やモテたい男子の心理は手に取るようにわかる。
まったく、ほんと罪なやつだよ竜也って男は。席替えひとつで女子も男子もお前に夢中だもの。特に恋する女子とかめちゃくちゃ夢中だからな!
小学校時代、うっかり竜也の隣の席になってしまった時、竜也のことが好きな女子たちに囲まれ笑顔で「私と席を変わってくれない?」と「お願い」されたのを思い出す。あの時はいやってほど恋する女子の怖さを味わった。
とまあそんな感じで、昔から席替えの時は、竜也がどの席になるかで女子も男子も一喜一憂するイベントなのである。
「何番だー?」
「34です」
そんなどこか緊張感のある空気の中、ゆるい感じの口調で聞く担任に、自分が引いたくじの番号を告げる竜也。
竜也の席が判明したことで、そこからのくじはいっそう緊張感を増した。
「29か39、29か39,29か39……!!」
「34の近く以外34の近く以外34の近く以外……!!」
祈っていた女子と念仏を唱えていた男子が、ものすごい早口でぶつぶつ言い始める。
いや似た者同士かよ。ていうかどんだけ必死なんだお前ら。その気持ちはもう十分わかったから、これ以上は笑いそうになるからやめてくれ。さっきから行動も言葉も全部こっちに筒抜けなんだよ。
こいつらは、それぞれ俺の斜め前の席なので、さっきからがっつりそのリアクションを見せられている。俺はまだいいが、ちょうどそいつらに挟まれている形になってしまった、俺の前に座っているやつはさぞかし怖い思いをしてることだろう。俺なら絶対に怖い。
「次ー、佐古木ー」
「34の近く以外34の近く以外34の近く以外……!!」
竜也の次の出席番号、佐古木こと念仏くんが呼ばれる。
ゆっくり立ち上がると、竜也と離れたい念仏を唱えたまま両手を合わせて教卓へ向かっていき、くじを引く。頭を丸めていたら見た目は完全に坊主だった。
「何番だー」
「…………………………39です」
めちゃくちゃ小さな声で言う佐古木。
笑って噴き出しそうになったのを両手で口を押さえて必死で堪えた。
いやお前フリとオチがあまりにも完璧すぎるだろ……! あいつ竜也の近くどころかガッツリ隣の席をゲットしやがった……!
貴重な竜也の隣の席を一つを奪ってしまったためか、多くの女子たちからものすごく視線を浴びながら佐古木が席に戻ってくる。
「―――――」
「ひいぃっ!?」
特に佐古木の隣の隣、お祈りをしていた女子からはとんでもない表情で睨まれていた。そのことに気づいた佐古木が小さく悲鳴を上げる。
かわいそうに……まるで「お願い」された時の俺を見てるみたいだ……南無南無。
「時間ももったいないしどんどん行くぞー。次ー」
佐古木の尊い犠牲によって竜也の隣の席が残り一つになり、さらに緊張感が増した空気の中、相変わらずのゆるい口調で担任は次々と名前を呼んでいくのだった。
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