第八十七話 風邪で休めばどうなる?
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「寒っ……!?」
ぞくぞくぞく!
朝食後、食器は洗っておいてあげるという母さんの言葉に甘えて、食器を水につけてから登校した俺。いつもみたいに教室で竜也と喋っていると、突然、ものすごい寒気がした。
「は? 寒い? このくそ蒸し暑い日に何言ってんだお前」
「なんか急にめっちゃ寒気がしたからつい……」
「おいおいもしかして風邪か?」
「いや多分、風邪とかじゃないと思う。一瞬だったし、エアコンの風めっちゃ涼しくて気持ちいいし」
生徒会室と違って教室にはエアコンがあるので、本来なら雨で蒸し暑いはずの教室もいい感じで冷えていた。もし、風邪のひき始めの寒気とかだったら、さっきからこうしてエアコンの風が直撃してる位置にいるんだから、ずっと寒さを感じないとおかしいだろう。
「……はっ! もしかしてあれか!? 漫画とかでよくある虫の知らせ的な? 俺の知らないところで不穏なことが起こってて、それをこうして寒気という形で感じてるとか……!」
「くそ鈍感な空太にそんなことを察知する力は絶対にない。中二病はそろそろ卒業しとけ」
「鈍感は関係はないだろ!? あとそんなもん二年前に卒業したわ!」
「割と卒業したの最近じゃねえか。ま、とにかく季節の変わり目なんだから体調には気をつけろ。まだ早朝ランニングも続けてるんだろ? お前のことだから、今日みたいな雨の日でも休まず走ってるんだろうし、そこは本当に気をつけないとまた中学の時みたいになるぞ」
「いやいや、流石にもう中学の時みたいなやらかしはしないって」
竜也から割と本気っぽく忠告される。
中学の時に雨とか関係なく毎日走ってたせいで、がっつり風邪をひいたことを竜也は知ってるので、そう言われるのも仕方ないちゃ仕方ない。
しかもあの時は、治りかけで走ったせいで風邪拗らせたからな。そのせいで肺炎になりかけて入院一歩手前まで風邪が悪化したし。いやもう、しんどすぎて本当に死ぬかと思ったわ。
まあ、今は中学の時と比べて走ってる距離も時間も圧倒的に少ないし、そこまでして走らないといけないような理由もないから、二度とそんなことにはならないだろうけど。
だが一度やらかしている俺のことをあまり信用してないのか、竜也は真顔のまま言葉を続ける。
「本当だろうな? とにかく、走るのはいいけど体調管理だけはしっかりやれ。くれぐれも風邪とかで休むなよ?」
「だからわかってるって。てか、やけに休まないよう言ってくるな……もしかしてそんなに俺に休んでほしくないのか? この寂しがり屋さんめ~」
「は? 気色悪いこと言ってんじゃねえバカ。俺はお前のために言ってるんだよ。もしお前が風邪で休んだら、あいつはどんな行動をとると思う?」
真顔から一転、心底面倒くさそうな表情になった竜也が、くいくい、と親指である方向を指し示す。
そっちに視線をむけると、そこには自分の席に座るゆーちゃんの姿。いつも仲良さそうにしている女子たちに囲まれて、楽しそうにおしゃべりしていた。
俺の視線に気づいたのか、はたまた偶然か、ばっちり目が合うとニコッと笑って小さく手を振ってくる。そんなことをするものだから、ゆーちゃんと喋っていた女子たちも何事かとこっちを見て来た。そして、ゆーちゃんを除く全員から、ものすごくにやにやされる。
ああああ! ちょっといきなりそういう可愛いファンサするのやめてもらえる!? せめて他のクラスメイトにバレないようにやって欲しいんだけど――じゃなくて! なんでそういうことするの!? てか俺はどうするのが正解なの!?
わからないがノーリアクションは流石にマズいので、ぎこちない動きで本当にちょっとだけ手を挙げてみた。ゆーちゃんを見習って笑おうともしてみたが、きっと今の俺はニコッじゃなくてニゴっとしたひきつった笑顔になってることだろう。
そして照れやら恥ずかしさやらで、きっと今の俺の顔は赤い。そんな俺はさぞかし気持ち悪いことだろう。ゆーちゃんだけじゃなくクラスメイト女子にもそんな顔を見られてしまったことに、なんだか猛烈に恥ずかしさで死にたくなった。
ゆーちゃんたちの反応を見るのが怖いので、彼女たちから急いで顔を背け、竜也に正面から向き直る。
「間違いなくあいつは、お前の家に直接、見舞いに行くぞ? いいのか?」
「……俺、今年は絶対に風邪ひかないようにする!」
まさかゆーちゃんがわざわざ俺のお見舞いになんて来るわけないだろ、と笑い飛ばそうとしたが、何故だか、最近というか、さっきのゆーちゃんの感じ的に、それくらい普通にやりかねない気がしてしまった。
人気アイドルが同級生男子の家に行くとか、スキャンダルにもほどがある。それが学校で噂になる分にはまだいい――いや、また目立つことになるだろうから本当はよくないけど。
万が一、芸能記者あたりにその瞬間を写真でも撮られてしまった日には……それはもう堂々と雑誌の一面を飾ることだろう。そうなってしまったら、ゆーちゃんのアイドル生命と俺のリアル命がいよいよ本当にヤバい。
今年は絶対に皆勤賞を取ることを決意する俺だった。
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