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幕間⑩ 妹の気持ちはばっちこい

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

「入るわよ」


 あー、やっぱり来ちゃったかー。


 朝ご飯が終わって、いつもみたいに遅刻しないギリギリの時間まで部屋でのんびりしていると、あたしの予想通り、お母さんがやって来た。


 さすがにさっきは、お母さんの前でちょっと調子に乗りすぎちゃったからなぁ。なんとなく、こうやってお説教しに来るような気はしてたんだよね。学校の前にお説教は勘弁して欲しいなぁ。


「ちょっとお母さんノックくらいしてよー。てかさっき、またあたしの豆乳飲んでたでしょー」

「あんたみたいな娘相手にノックなんていらないでしょ。あと豆乳の方は、あんたも勝手に私のルイボスティー飲んでるんだから文句言わないの」

「へへへ、サーセン。あ、もうこんな時間だ! じゃあそろそろ学校行ってくるね、遅刻遅刻ー」

「お待ち、そもそもあんた制服にすら着替えてないでしょうが。それにまだ時間に余裕あるの知ってんのよ」


 ワンチャン、流れでお説教を回避できるかなって思ったけど、やっぱダメだったかー。

 お母さんの隣を通り抜けようとした時、パジャマの襟を掴まれて止められてしまう。


「とりあえず制服に着替えながらでいいから聞きなさい」


 うーん、これはもう観念するしかなさそうかも。こんなことになるなら、朝ごはんが終わってすぐ登校したお兄ちゃんみたいに、さっさと学校に行っておけばよかったなぁ。


 お母さんはあたしを解放すると、さっきまであたしが寝転がっていたベッドに座った。

 半目でじーっと見てくるお母さんの視線を感じながら、パジャマを脱いで少し急ぎめに制服に着替え始める。制服に着替えちゃえば、着替え終わったから登校するって言って逃げられるからね!


「で、あんた本当に空太に全裸見せたの?」

「ヤダお母さんってば直球ー。もうちょっとこうオブラートに包むとかした方がよくない?」

「あんた相手に遠慮する意味がどこにあんのよ。それにハッキリ言わないと、さっきみたいにあんた適当なこと言って誤魔化そうとするでしょうが。それでどうなの? 見せたの? 見せてないの?」

「さっきお兄ちゃんも言ってたけど、全裸は見せてないよ?」


 これは本当。今朝みたいな、お風呂場での事故で見られたことは何回かあるけど、あたしが自分から見せたことは一度もない。


「本当でしょうね?」 

「お母さん疑り深すぎー。本当だってばー」

「さっき、それ言った時の空太の何とも言えない感じを見てたら、疑うに決まってんでしょうが」


 あちゃー、やっぱりお母さん、そこが引っかかったんだ。確かにあの時のお兄ちゃんのリアクションは、わかりやすいくらい何かあった感じがプンプンしてたものね。それにしてもお兄ちゃん、何を想像したのかはわからないけど、顔を真っ赤にして可愛かったなぁ。


「それに空太もあんたも、全裸『なんて』とかじゃなくて全裸『は』って言ったわよね? 本当に全裸は見せてなかったとしても、それに近い何かは見せたんじゃないの? 怒らないから正直に言いなさい」

「わーそんな細かいところにツッコむとか、お母さん小姑みたいー。あんまり細かいことばっかり気にしてると、しわが増えるよ?」

「……だったらこれ以上しわを増やさないためにも、さっさと白状してくれる~?」 

「あ、待って、わかった、わかりました言いますごめんなさい」


 どうやらしわが増えたは禁句だったみたい。

 ジト目から一転、にっこりと笑って握りこぶしを作り始めたので、あたしは誤魔化すのをやめることにした。のらりくらり冗談を言ってるうちに、うやむやになって何とかなると思ったのになぁ。


 あたしが誤魔化そうとするのを本当にやめたことを察したのか、お母さんは握った拳を解くとため息を吐いた。


「それで? あんた、空太に何を見せたの? 今のあんたみたいな格好?」

「え? 違うよ?」


 今のあたしの姿はパジャマを脱いで、ちょうど下着になったところだった。

 全裸も下着姿も、まだ、お兄ちゃんにあたしからわざと見せたことはない。

 

「そう、あんたがまだそこまで羞恥心が死んでなくて、母さん、ちょっとほっとしたわ」

「羞恥心が死んでるとかお母さん、実の娘に失礼すぎない? 見せた時はちゃんとこの上にエプロン着てたよ」 

「あ、あんたねぇ……なんて姿を空太に見せてるのよ」

「下着エプロンだよ? 気になるならお母さんにも実際に見せて上げよっか?」


 今日は奇しくもお兄ちゃんに下着エプロンを見せた時と同じ、あたしのお気に入りのピンク色の下着だったので、このままエプロンを着れば完全再現できる。


「娘のそんな姿なんて見たくないわよ……」


 そう言うと片手で頭を押さえてしまうお母さん。


「大丈夫お母さん? おっぱい揉む?」

「これ以上頭が痛くなるような馬鹿なこと言うのはやめてくれる? まさかあんた、空太にもそんなこと言ってないでしょうね?」

「まだ言ってないよ? 今度、言ってみようかなって思ってるけど」

「…………はぁー」


 お母さんが呆れた顔で、ものすごく深いため息をつく。


 まあうん、気持ちはわかるよ? 下着エプロンを見せたり、胸を揉ませようとか考えたりするなんて、普通の兄妹なら間違いなく異常だからね。


 それくらいはあたしもわかってる。だけど、誰に何を言われてもやめる気はない。


「あのね海音、あんたの気持ちは私もお父さんも知ってるし、その気持ちを否定する気もない」


 そして、そのことはお母さんどころかお父さんも知っている。知らないのはお兄ちゃんだけだ。


「でも節度だけは守りなさい。いくら空太がヘタレって言っても、そんな破廉恥な格好ばっかり見せて、いつか本気で襲われても知らないわよ?」


 その気持ちがいつ生まれたのかはハッキリとは覚えてない。

 気づいた時にはあたしの心にいて、それからずっと長い時間をかけながら育ってきた大切な気持ち。

 

 きっとこれは普通の妹としては思ってはいけない感情。普通の兄妹では起こってはいけないこと。


 だけどあたしは普通の妹じゃない。だって、あたしとお兄ちゃんは普通の兄妹じゃないのだから。

 

 だから、この気持ちも感情も何も問題はない。


 心からの本音を、あたしは胸を張って堂々と母さんに告げる。


「むしろお兄ちゃんに襲われるとか、あたしはいつでもばっちこいなんだけど」


 この後、お母さんのお説教は遅刻するギリギリの時間まで続いた。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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