第八十三話 駄菓子は誠意の形
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「まったくまったくもう! 高原くんは、もうちょっと自分が怒られてる自覚ってやつを持つべきだよ!」
ぷんすことしか言わなくなってしまった天崎に、うっかり俺が大笑いしてしまった後、さすがにそんな失礼な反応をしてしまったので、当然ながら天崎から説教された。
「怒ってる相手の目の前で爆笑するなんて暴挙、普通なら許されないからね? いくら鈍感な高原くんでも、わたしが怒ってたことくらいわかってたでしょ?」
「悪い、あんなわざとらしく、ぷんすこ! とか言ってたから、そこまで怒ってないんじゃないかって思ってた」
「普通に怒ってたよ! まあ、笑った後ちゃんと謝ってくれたからいいけどさ。でもでも、優しくて寛大なわたしだからこんな簡単に許してあげたんだからね!」
いや……絶対にさっき渡したそれのおかげだな。
受け取ってからこっち、まるで誰にも渡すつもりはないとばかりに、ずっと抱きかかえるみたいにして天崎が両手で持っている、それ。
大きな透明の袋の中に、色んな種類の駄菓子がこれでもかと詰め込んである、駄菓子大好きな子どもにとっては夢のような代物。近所のスーパーでやってた駄菓子の詰め放題(制限時間5分間、一回500円)で俺が作った駄菓子袋だった。
天崎に謝る時や落ち着かせたい時は、お菓子をあげるのが一番効果的だっていうのは、今までの経験でわかっているので、そのためのお菓子は鞄に常備している。なので実はつーーんが出た時点で、いつ渡すかタイミングをうかがっていた。
ただ、最初の方は割と本気で怒ってる感じだったので、流石にそのタイミングで渡そうとしたら、逆にもっと怒らせてしまうような気がして躊躇していたが、ぷんすこ! とか言い出したからこれならもう大丈夫だろうと判断。笑ってしまったことへの説教中に、謝罪と一緒にお詫びの気持ちとして渡していた。
そして、どうやら今回もお菓子の効果は抜群だったらしい。
「まあ、そういうわけだから今回はこれで勘弁してあげるよ。さっき高原くんからお詫びの気持ちも受け取ったわけだしね。と、いうわけでお説教も終わったし、もうこれ開けていい? 開けていいよね? 開けるよ?」
「おう好きにし――って聞く前にもう開けてるじゃねえか」
「わ、チョコ入りのマシュマロっぽいやつだ! 昔からこれ好きなんだよね~! あ、これ懐かしい! めちゃくちゃカラフルな棒の形のゼリーだ! あはは、改めて見たらすっごい色してる~!」
まるでプレゼントをもらった子どもみたいに聞いてくる天崎。
どうやら懐かしの駄菓子にご満悦なようだ。
楽しそうに机の上へ駄菓子を並べ始める天崎に、なんだかほっこりとした気分になりながら、正座を解いて椅子に座りなおした。
「あ、ちょっと高原くん、どうして正座やめてるの」
「え? いや、許してあげるって言ってたから、もういいかなーって思ったんだけど」
「うん、笑ったことについては許したよ? でもわたしに黙って生徒会室に仁美を入れた件についての話は、許すどころかまだ全然終わってないよね? 謝罪もお詫びもしてもらってないのに、許してあげるわけないじゃん」
「うぐ……そ、それは確かにそうだけど――」
「まあでも? この件に関しては、別に高原くんもそこまで悪いことをしたわけじゃないし? ちょ~~~~~っとだけでいいからこんな風に誠意を見せてくれたら、今なら生徒会室の方も許してあげちゃうよ?」
まだ半分くらい中に駄菓子が残ってる袋を俺に見せつけてきたかと思うと、言ってる意味わかるよね? とまるで何かを要求しするように、にっこり笑顔でこっちに両手を出してくる天崎。
こ、こいつ……お詫びの名目でお菓子を貰うことに味を占めやがった! 俺が言うのもなんだけど、それでいいのか天崎! さっき気持ち的に納得できるかどうかとか言ってたけど、それを駄菓子で済ませて本当にいいのか!? もしそうならどんだけお菓子が好きなんだお前は!
「お菓子くれなきゃ、許してあげないぞ?」
「ついにハッキリ言ったな!?」
「うん、鈍感で変なのところで察しが悪い高原くんだから、はっきり言ってあげないとわからないかな、って思って」
「バカにするんじゃないよ! それくらいわかってるわい!」
「本当に~? じゃあ、はい、もっとお菓子頂戴! お菓子はいくらあっても足りないことはないからね!」
「お前ってやつは欲望に正直すぎるだろ……ただ、その、実はもうお菓子がなくてだな。渡したくても渡せないっていうか……」
今日の分はさっき渡した駄菓子詰め合わせが最初で最後だった。
まさか、一日に二回も天崎用の常備菓子を使うような機会が訪れるなんて誰が思うよ。
「え~がっかり~……もっといっぱいお菓子持ってきててよ~」
「無茶言うな。その駄菓子の詰め合わせだけでも、どんだけ鞄の中を圧迫してたと思ってるんだ」
というか、よくよく考えたらどうしてあんなかさばるようなものを鞄に常備しようと思ったんだ俺は。ある意味、こうして早いうちに天崎に渡すことができて良かったかもしれない。
これ以上、誠意を貰えそうにないことに天崎は残念そうに肩を落としてしまった。
そんな姿を見ながら、いよいよお菓子もないしどうやって天崎に許してもらうか割と真面目に考え始めていると、
「あ、じゃあさ、お菓子の代わりに今度の期末テストはわたしとテスト勉強してよ」
名案を思い付いたとばかりに、ぴっと人差し指を立てた天崎からそんなことを言われる。
「仁美と楽しんだんだから、今度はわたしと楽しんでくれてもいいでしょ?」
「だからその言い方!」
「楽しいことするんだから表現としては間違ってないじゃん。テスト前に友だちと勉強するとか絶対に楽しいもん!」
「それはわかる。ただ知ってると思うけど、天崎に勉強を教えられるほど俺は頭よくないぞ? それでもいいのか?」
「いいよ? 別にわたしは仁美みたいに勉強を教えて欲しいってわけじゃないし。あ、むしろ、わたしが高原くんにお勉強を教えてあげようか? わたしこれでも一応、学年2位だよ?」
「どや顔で言うなぁ……まあ、もし勉強教えてくれるんなら、ものすごく助かるけどさ。あ、けど天崎のテスト勉強の邪魔になったりしないか?」
誰かに勉強を教えながら自分の勉強をする難しさを今回の中間テストで嫌というほど知ったので、少し遠慮してしまう。
「ならないよ? っていうかさっきから色々言って断ろうとしてない? ……もしかして、わたしと一緒に勉強するのは嫌なの……?」
天崎がものすごく寂しそうな顔で聞いてきたので、思わず焦ってしまう俺。
やばい、余計な気を回しすぎて変な誤解をされたっぽい!?
「もしそうならすっごい残念だけど、今から別の案を考えるよ……?」
「いやいやいや、別に嫌とかそういうわけじゃないって! 色々言ったのは、その、天崎に迷惑かからないか気になっただけでだな……」
「……本当に? 高原くんお人好しだし、変な遠慮とかしてない?」
「してないしてない! だから天崎がいいなら一緒にテスト勉強しようぜ!」
「わーい! じゃあ約束ね! 期末テストは一緒に勉強だよ!」
寂しそうな顔はどこへやら、一瞬で嬉しそうな笑顔になると、両手をあげて子どもみたいに喜ぶ天崎。
あ、あれ? も、もしかして、さっきのって演技だったとか?
あまりの変わり様に、思わずそんな邪推をしてしまう。
い、いやいや、さすがにそれはないだろ、さっきの天崎は本当に寂しそうに見えたし……まさか俺とテスト前に一緒に勉強するためにわざわざ演技をするなんて、普通に考えてあり得ないからな。
……あれ? でもそうなると、さっき天崎は俺に断られると思って本当に寂しい気持ちになったってことか? い、いやいや、それは自意識過剰すぎるだろ俺!? よ、よし、これ以上、深く考えるのはやめておこう……!
とんでもなく恥ずかしい自惚れをしてるやつみたいになりそうだったので、そこで考えるのをやめておく。
それに別に本当か演技かなんてどっちでもいいしな。こうやって寂しそうじゃなくて、嬉しそうに喜んでるわけだし。
天崎に限った話じゃないけど、あんな感じで寂しそうな顔に昔から俺はどうも弱い。気持ちがものすごく落ち着かなくなってしまうというか、何とかしないと、と思ってしまうのだ。
「そうだ! せっかくだし、指切りしておこうよ! あ、それとも……思い切って念書でも作っちゃう!?」
「指切りはともかく念書!? ただのテスト勉強の約束にそこまでやらないだろ!?」
どう見ても浮かれた感じではしゃいでいる天崎。
その寂しさなんてまったくなさそうな姿を見ていると、さっきのが本当かどうかなんて、どうでもよくなってしまう。
こうして、まだ中間テストが終わって全然経ってないのに、今度の期末テストに天崎と一緒にテスト勉強をすることが決まった本日の生徒会だった。
この後、天崎が本当に念書を作ろうとしてスマホでテンプレートを探し始めたので、それはさすがに止めた。いや大袈裟すぎるし、重すぎるわ。
その代わりに指切りはした。
天崎の小指は思ったより細くて、なのにとても柔らかくてスベスベしていて……その女の子らしい感触に年頃の男子の俺が意識しないはずもなく、小指を絡めるのが、めちゃくちゃ恥ずかしかった。
子どもの頃は、よく平気でこんなことできてたな……無邪気って怖いわぁ。
なお、そんな感じでガッツリ意識してしまった俺と違って、天崎は終始楽しそうにしていて、まったく恥ずかしそうにしてなかった。
まあなんとなくそんな予感はしてたけどな……無邪気な子どもかお前は……。
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