第八十一話 絶対に負けない高原くん
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「うんうん、バッチリだね!」
吊るされた逆さてるてるを見て、天崎はご満悦だった。
結局あの後、女子を抱っこして持ち上げるなんてこと俺ができるはずもないので、なんとか天崎を説得して俺が代わりに吊るした。
「どうか、校外学習の日にいい感じのどしゃぶりの雨が降って中止になりますように!」
少し不格好な作りの逆さてるてるに向かって、二礼二拍手一礼をする天崎。その所作は流石、神社の娘さんといった感じでとても綺麗だった。言ってる内容はものすごくダメな感じだが。
それにしてもめちゃくちゃ本気で祈ってるな……こいつどんだけ山登りが嫌なんだ。
「よっし、お祈り完了っと。あれ、高原くんはやらないの? 雨の中のハイキングはきっと辛いよ~? だから、わたしと一緒に中止になるようお願いしておいた方がいいよ~?」
「俺はいいわ。たしかに雨の中で山登りとか嫌だけど、神頼みするほどじゃないし。あと、一応、生徒会役員なのに行事が中止になるよう祈るのはどうかと思うぞ、俺は」
「う、なんか妙に正論っぽく聞こえるようなこと言うのやめてくださーい。せ、生徒会長だって人間なんだから、嫌なことの一つや二つあるもん。そ、それにそこまで本気で中止になって欲しいとは思ってないし? 中止になったらいいな~ってくらいだからね? あわよくば、くらいの軽い気持ちだよ?」
「軽い気持ちなのは絶対に嘘だろ……さっき俺が代わりに吊るすって提案した時「それはヤダ! だって自分で吊るさないと雨乞い効果が弱くなりそうだもん!」とか言って、めちゃくちゃごねたくせに」
意地でも自分の手で吊るそうとする天崎を納得させるのにはかなり骨が折れたし、どう考えても軽い気持ちじゃないだろう。割と目が本気だったのもしっかり覚えている。
「けど、もし中止になったら縁の問題的に困るんじゃないのか? 球技大会の時、学校行事は異性交遊の促進ができる貴重な機会とか言ってたよな?」
「……そこはほら? ただの山登りにそこまで効果があるとは思わないし、それに報告会でも縁の問題は順調だって神さまも言ってたんだから……一回くらいお休みになっても、ね?」
「ね? じゃねーよ……まあたしかに効果は薄そうだけどさ。ただ、そうだとしても縁の問題を天秤にかけた上で、それでも山に登りたくないとか、どう考えても軽い気持ちじゃないよな?」
「ノーコメント! まあ、一つだけ言っておくなら、これから逆さてるてるの数を増やしていこうとは思ってるよ! ちょっとでも雨が降る確率は上げておきたいし! 数は力だからね! 数的優位ってやつだよ!」
「数的優位ってそういう意味じゃなくない? ともかく、天崎が割とガチだっていうのはわかったけど、数を増やすのはやめとけ。もし誰かに見られたら、何やってんだ生徒会……って変に思われるから」
一体なら逆さてるてるでもまだ可愛らしく見えなくもないけど、何体も並んでるのとか普通に不気味すぎるわ。生徒会室の窓にずらっと吊るされてる逆さてるてる……うーん、そこはかとなく闇を感じるっていうか絵面が嫌だな。なんか方向性の間違えたオカルト研究部みたいで。
「え~別に大丈夫じゃない? わざわざ生徒会室の窓なんて誰も見ないでしょ。それにたとえ見えたとしてもなんか吊るしてあるなーくらいだと思うし、季節柄、勝手に普通のてるてる坊主って勘違いすると思うよ? それでも気になるならカーテン閉めとけばいいし」
「外からだとそれで何とかなるかもしれないけど、中からじゃばっちり見えるんだが?」
「あはは、それこそ問題ないでしょ。わたしと高原くんしか生徒会室には入らないわけだし、実質、生徒会室ってわたしたち二人だけの場所みたいなものだよ。なんかこういうの秘密基地っぽくていいよね~」
子どもっぽく笑いながら嬉しそうに言う天崎に湧き出る罪悪感。
実はテスト勉強するために山本さんが来たことあるんだよな……。
なので、ここが完全に二人だけの場所とは言いきれない気がする。
しかも、あの時は山本さんの勉強の苦手っぷりを秘密にするために、生徒会室をテスト勉強で使わせてくれとしか伝えてないので、当然、そのことを天崎は知らない。
まさか天崎がそんな風に思ってたなんて知らなかったというか、なんか黙って山本さんを生徒会室に入れたことがめちゃくちゃ申し訳なく感じるんだけど!? ていうか現在進行形で黙ってるのがなんか急にしんどくなってきたぞ!?
こ、これは、ものすごく天崎が不機嫌になって怒られそうな予感がするけど、ちゃんと伝えた方がいい気がする! あ、けどそうなるとテスト前の山本さん事情も説明しないといけないし、許しもなくそんなことするのは山本さんに悪いよな……うぐぐぐぐ……ど、どうするべきか!
「そういうわけだから、別に逆さてるてるを増やしたって何も問題はないんだよ! はい論破成功――ってちょっと聞いてる高原くん?」
「え、あ、おう、すまん、ちょっと考え事してて聞いてなかったわ……」
「考え事って?」
「……ま、まあそれは別にいいだろ。そ、それで何だっけ? 逆さてるてるを増やして、生徒会室を方向性の間違ったオカ研みたいにするって話だっけ?」
「誰もそんなこと言ってないよ!? ていうか高原くんにしては珍しく露骨に誤魔化すねぇ~これは気になっちゃうなぁ~」
面白いおもちゃを見つけたような顔でにやつきながらじーっと見てくる天崎。
し、しまった忘れてた! こいつはいじれそうなものを見つけたら、嬉々としていじってくるやつだったな! 最近そういうことがあんまりなかったから、すっかり油断してた! やばい、これは完全にロックオンされたぞ!?
「は、ははは~、そ、そんな天崎が気にするような面白いことじゃないって! そんなことより逆さてるてるの話しようぜ!? ち、ちょっとでも数を増やして雨が降る確率を増やしたいんだろ!? そっちの話の続きやろうぜ!?」
「今は高原くんの方が気になっちゃうな~ほら~会長に素直にお話してみなよ~二人だけの生徒会で隠し事はよくないぞ~」
「いやいやいや! 隠しておいた方がいいことだってあると思うぞ!?」
今回みたいな内容のは特に!! ていうか近い近い近い!?
身を乗り出して顔を近づけて来たかと思うと、正面からにっこにこの顔でじーっと見てくる天崎。
「じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
笑顔で圧をかけてくるな! あと色々と見えそうで危ないんだよ!! 頼むからもう少し自分のことを自覚しろよ!!
今の天崎はリボンを外して第二ボタンまで外しているわけなので、胸元のガードがいつもより緩くなっている。そして地球には重力というものがあるわけで……その格好でそんな物理法則の中、前のめりになりやがるのだから、こっちはそこに視線が吸い込まれそうになるのを必死で堪えるしかない。
何よりタチが悪いのは本人がそのことに無頓着なところだ。それどころか全く意識してないまである。可愛い笑顔を近づけてくるだけじゃないのが、天崎の恐ろしいところである。
が! 流石に今回ばかりは圧に負けたり、あまりの無防備さにこっちが恥ずかしくなって降参してしまうわけにはいかない! 山本さんにも悪いし、わざわざ天崎を不機嫌にさせる理由もないからな!
色んな方法(無自覚なものも含む)で隠し事を暴こうとしてくる天崎に、俺は必死で耐えるのだった。
絶対に天崎になんて負けない!
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