第八十話 逆さてるてるの使い方
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「よっし、これで今日の分のお仕事は終わりっと」
使っていたボールペンを置いて、天崎がとんとんと書類を机の上で整えてクリアファイルに入れた。
「お疲れさん。ほれ、これでも飲んで休憩しようぜ」
「お、ナイスタイミング! ありがと~」
書類を汚さないよう気をつけながらそっとカップを天崎の前に置き、もう片方の手で自分の分を持ったままいつもの席に座る。
「アイスココアとはいいチョイスだね高原くん、ちゃんと氷まで入ってて涼しげなのもナイス~」
ぐっとサムズアップをして嬉しそうにココアを飲み始める天崎。
「ごくごくごくごく……っぷはぁっ! うましっ!」
「おいおい、一気飲みとかどんだけ喉乾いてたんだよ」
「見てわかる通り一気飲みしちゃうくらいだよ? 暑苦しい時に冷たいものを一気に流し込むと、めちゃくちゃ気持ちいいよね。たぶんだけど喉ごしを味わうってこういうことなんだと思うよ~」
「その気持ちはなんとなくわかるけど、そういうのって普通、炭酸飲料とかでやらない? ていうか、咽たりしたら体に悪いから落ち着いて飲めよ。あと鼻の下にココアがついてるぞ」
「あらやだ恥ずかしい~」
恥ずかしさの欠片も感じないのんびりとした声音で言った天崎が、机の真ん中に置いてある箱ティッシュを使ってゆっくりとココアを拭きとった。
「ふきふきっと、どう? わたし綺麗?」
「いや、聞き方が口裂け女のそれ」
「ふっふっふ~もう一杯作ってくれなかったらそのお口を裂いちゃうぞ~」
「対処法がココア一杯とか安くていいな。あとその動きは完全に蟹だろ」
不敵な笑みを浮かべて両手でピースを作りハサミみたいに動かす天崎にツッコんでカップを受け取る。
一瞬で飲み干されて氷しかないカップに、氷が溶けて薄くなることを前提にココアの粉は多め、冷蔵庫から冷えた天然水のペットボトルを取り出して水を注ぎ、さっきかき混ぜるのに使ったスプーンで粉を溶かすためにぐるぐる回す。
相変わらず窓の外は曇天でしとしと雨が降っているが、雨音に混ざってからんからんと音を立てる氷がとても涼し気だ。
テスト前の山本さんの一件以来、アイスを冷やすことにしか使ってなかった冷凍室でちゃんと氷を作るようにしてよかったな。これでカップが透明のグラスとかだったらもっとよかったけど、それは望み過ぎか。
「ほれ、お代わりお待ち」
「わ~い、ありがと~」
今度は味わうみたいにちびちびと飲み始めた天崎。俺も自分の席に戻って同じようにアイスココアを味わうことにする。さすがに一気飲みはしない。
「あぁ~やっぱりココアはいいね~仕事で疲れた頭には甘いものがいいって言うし、仕事終わりのわたしたちにはぴったりのチョイスだよ。高原くんナイス判断! まあ、仕事って言っても簡単な書類数枚だけだから、ぜ~んぜん疲れてないんだけどね~」
「だろうなぁ。今日のは俺でもすぐにできるような内容のやつばっかりだったし」
なんだかんだもう2か月以上経ってるので生徒会の仕事にもある程度は慣れてきた。今日みたいな簡単な書類仕事だったら、一人でもできるようにはなってきている。処理の速度とか正確さとかは、天崎に程遠いどころか雲泥の差レベルだけどな。
「しかも、なんか今月って仕事の量も少なくないか?」
「気のせいじゃないし、今月はずっとこんな感じだと思うよ? 4月は生徒会立ち上げで色々やらないといけないことがあったし、先月はほとんど生徒会主催みたいな感じの球技大会があったけど、今月は何もないからね~」
「あー……なるほど。今月の行事って確か校外学習くらいだっけ?」
「そうそう。それも、どこに行くのかとか当日の予定とか、ぜ~んぶ学校側が勝手に決めてくれたからね。わたしたちは何も関与できないんだよ。くっそぅ……もしそれができたら絶対に行き先をゲーセンかネカフェにしようと思ってたのに……!」
「ものすごい悔しそうに言うなぁ……」
あと仮に行き先が決めれたとしても、校外学習でそんなところに行くとか絶対に許可が下りないだろうに。
「だって、高原くんも知ってると思うけど今年の校外学習の場所って山登りなんだよ!? 蒸し暑くて雨が鬱陶しいこの梅雨の季節に外、しかも山道を歩くとか普通に嫌でしょ!?」
「まあうん、それは普通に嫌だけど学校が決めたことなら仕方ないだろ」
「そうなんだけどさぁ……」
拗ねたように口をとがらせる天崎。
「……今から全校生徒に校外学習の行き先をリークして、山登りに反対する生徒たちの署名を集めて学校と交渉したらワンチャンないかな?」
校外学習の行き先はまだ生徒には発表されていないが、生徒会にいるとそういう行事関係の情報は一般の生徒より早めに知ることができる、というか何故か知らされる。
おかげで天崎と俺はすでに山登りをすることを知っているので、そういうことができなくはないのだけど……いくら嫌でもそこまでやろうとは思わないわ。
「ノーチャンだろ……そこまでして山登りしたくないのかお前」
「うん、したくない!」
「うわー、ものすっごくいい笑顔。けど諦めろ、せいぜい俺たちにできるのは、当日が涼しい気温になって雨が降らないことを祈るくらいだろうよ」
「だよねぇ~……もうこうなったら、死ぬほど逆さてるてる坊主を作ってお祈りしてやるんだから……」
「いやなんで雨降らそうとしてんだよ。そこは普通に作って晴れることをお願いするんじゃないのか」
「え、だってもし当日大雨になったら安全的に山登りそのものが中止になるかもしれないでしょ? 中止は無理でも予定変更にはなるかもしれないし」
「お、お前ってやつは……どんだけ山登りしたくないんだよ」
「逆さてるてるなんて迷信に頼ってまで中止を願うくらいにはヤダ! 山登りなんてしんどいことしたくないもん! いざとなったらうちの神さまに雨乞いをして、当日雨を降らせてくれるようお願いするつもりだよ!」
「縁結びの神さまに雨乞いするんじゃないよ……」
そんな無茶を言われて困った顔をする神さまの様子が目に浮かぶ。
しかも冗談とかじゃなくて本気で言ってたらしく、意地でも山に登りたくないらしい天崎は、箱ティッシュに手を伸ばし一枚取ると、本当にてるてる坊主を作り始めた。
そして、できあがったてるてる坊主を生徒会室の窓に逆さで吊るそうとするが、圧倒的に背丈が足りてない。
必死に背伸びをしたり何度もジャンプしてるが、ぎりぎり窓枠の上に手が届かない光景は、小さい子どもが頑張っててるてる坊主を吊るそうとしているようで、とても微笑ましかった。
まあ、実際はてるてる坊主は逆さだし、校外学習の中止を願うためなんだけどな……。
「ん~~~~~~~! ちょっと高原くん見てないで手伝ってよ~!」
「はいはい」
天崎に呼ばれて窓の近くに行く。
「ありがと、それじゃあ、わたしのこと持ち上げてくれる?」
「は?」
こっちに背中を向けて窓の前で両手をあげてバンザイをする天崎。
え、それはもしかして子どもみたいにだっこしろってことか? 脇の下から持ち上げろと?
「無理無理無理無理絶対に無理!!」
「めちゃくちゃ勢いよく断られた! なんで!?」
「断るに決まってるだろうが! そもそもなんで俺に持ち上げられようとしてんだよ、届かないなら椅子持って来てそこに乗ればいいだろうが!」
「え~でも椅子の上に乗るのは普通に危ないし、あとはほら、今わたし暑くてスカート短くしてるから椅子に乗った時にもし見えちゃったら、また高原くんに注意されそうだなーって思って。さっき女子として注意しろーって言われたばっかりだし。注意されたことはちゃんと気を付ける系女子だからね、わたしは!」
えっへんと得意げに胸を張る天崎だが、違うそうじゃない。
気を付けるところがズレてるっていうか、おかしいんだよ! パンツ見られるのに気をつけるんだったら、男子に脇を掴ませようとするんじゃないよ! ちょっとでも手がズレたら胸とか色々当たるだろうが!
「それに、高原くんは前にわたしの腕を掴んで持ち上げてたし、あの頃から体重はほとんど変わってないはずだから、重さ的にも問題なし。なにより椅子持ってくるの面倒くさいし。だったら高原くん持ち上げてもらうのが一番早いよね! というわけで高原くん、お願い!」
「いやだからほんとお前さぁ……!」
たしかに一回持ち上げたことはあるから重さ的には問題ないけど、腕と脇じゃ全然違うだろうがよぉ……。
そんな俺の葛藤は全く分からない様子の天崎は、再びバンザイの姿勢を取る。
女子として注意してるのに肝心なところが注意できてない天崎に、どうしたもんかと俺は頭を抱えるのだった。
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