第七十九話 6月は梅雨とともに
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「あ~づ~い~……」
6月になり、じめっとした日が増えてきた今日この頃。放課後の生徒会室には、とんでもなくだらけた空気が流れていた。
今年は早めの梅雨入りらしく、まだ6月が始まったばかりだというのに連日、雨が続いていて、しかも気温も高いおかげでものすごく蒸し暑い。目の前でだらしなく机に突っ伏している天崎の気持ちがとてもよくわかる。
「ほんとさぁ……なんでうちの生徒会って、冷蔵庫とか電気ケトルはあるのに、肝心のエアコンはないの……教室にはあるのにちょっと不公平だと思わない? こうなったら生徒会の予算で設置してやろうかな……」
「気持ちはわかるけど絶対に無理だろ。学校の許可とか色々いるだろうし」
「それはわかってるけどさぁ……でも提案するだけならタダじゃん? 6月でこれなんだから、本格的に夏になったら、か弱いわたしは間違いなく暑さで死んじゃうよ……ぐったり……」
「口でぐったりとか言えるだけ、まだまだ余裕あるじゃねえか。ほれ、これでちょっとは元気出せ~」
団扇代わりに使っていた下敷きで扇いでやると、うっすらと汗をかいている天崎は気持ちよさそうに顔をほころばせた。
「あぁ~涼しい~もっとやってもっとやってぇ~」
「はいはい……けど、さすがに毎日、この蒸し暑い不快度マックスの部屋にこもり続けるのはしんどすぎるな……」
「だよね~……こうやって毎日毎日、気持ちよさの欠片もないサウナみたいな場所にい続ける羽目になるなんて、ほんと生徒会長なんてなるんじゃなかったよ……」
「生徒会長になったのを後悔する理由が梅雨って斬新すぎるな……気持ちはものすごくわかるけど」
窓を開けてもなお蒸し暑い生徒会室で、連日、仕事をするのは正直しんどい。
まあ、仕事は大抵の場合すぐに終わるので、先月や先々月と同じように天崎と何かしらだべったり遊んだりしているわけだけど……色々と辛い。
蒸し暑いのは当然だけど、天崎の存在が。いや、この言い方は語弊があるな。
「わたし寒いのは大丈夫だけど、暑いのはほんと昔から苦手だからさぁ……しかも6月のじめっとした暑さはわたしみたいな胸の大きい女子には最悪なんだよ? 知ってる? 胸の間に汗が溜まると、ものすっごく気持ち悪いんだよ? こうやって拭いてもまたすぐに汗かいちゃうしさぁ……」
「ばっ! だから急にそういうことすんなって昨日も一昨日も言ってるだろうが!」
体を起こしたかと思うと、足元に置いてある鞄からハンドタオルを取り出して、おもむろに制服に手を突っ込んで胸の谷間を拭き始める天崎。そして即座に顔を背ける俺。
「あーごめんごめん……でも本当に気持ち悪いから許してよ~わたしはなったことないけど、放っておいたらカビが生えるってネットで見たことあるしさ~。わたしの胸が緑色にならないためにも見逃しておくれ~」
「そんな根拠の乏しそうなネットの情報を鵜吞みにするんじゃないよ!? あと、言ってくれたら拭き終わるまで外に出てるから、先に言え!」
「え〜、でも毎回わざわざ高原くんに部屋の外に出てもらうのも申し訳ないじゃん? あ、もうこっち見ていいよ。いつも気を遣ってくれてありがとね」
おそるおそる天崎の方を見てみると、汗を拭いて少しはすっきりしたのか、さっきより元気になっていた。
胸を拭いたであろうハンドタオルで額の汗をぬぐっている。
「いやもうほんとさぁ……頼むからもっと女子として色々と注意してくれよ……」
「だいじょーぶ! お外じゃちゃんと注意してるから安心して! こんなことするのは生徒会室でだけだから、万が一にも生徒会の評判を下げるような真似はしないよ!」
たしかに梅雨入りしてからもお前の会長モードは完璧だけどさぁ……今はそういう意味で言ってるんじゃないんだよ?
「それに女子としてって言うけど、そもそも異性として意識されないどころかエッチな目ですら見られないわたしだよ? もし誰かに見られても、だらしない奴だな~、くらいにしか思われないって~」
思いっきりそういう目で見ちゃうやつがここにいるんだよ!!
心の中で声を大にしてツッコミむ俺。あっけらかんと笑う天崎に頭を抱えたくなった。
ここ数日、こんな感じで、ただでさえ色々と緩かった天崎が、暑さにやられているせいなのか、今まで以上にガードが甘くなっているのだ。
常にリボンを外して第二ボタンくらいまでは開けてるし、スカートをバサバサやって涼しくなろうとするし、今みたいに胸の谷間を拭いたりするし。
それ以外にも、夏服になってシャツが薄くなったせいか汗で張り付いて色々と透けてたりするし、制汗剤に交じって天崎のいい匂いが香ってきたりするし、もう毎日が色んな意味でドキドキだった。
しかもこれ全部、本人は無自覚というのがタチが悪い。今までも素の状態の天崎は無防備な感じだったけど、6月に入ってからはそれが悪化してるというか、どんどん際限がなくなってきてる気がした。
いくら暑さに弱いからって、ここまで無防備がすごくなるなんて思いもしなかったぞ……ちょっとでも暑さを減らせたらマシになるかと思って扇いでみたけど、あんまり意味はなかったっぽいし……。
「さってと、無事にわたしの胸も気持ちよくなったことだし、今日は何して遊ぼっか?」
「先に仕事をやるんだよ! あとその言い方やめろ!」
相変わらず言葉にも注意を払わない天崎に、加速してしまった無防備も含めて、今月は今まで以上にツッコんだりすることになるんだろうなと覚悟する。
しとしとと降る雨と部屋の蒸し暑さにこれでもかってくらい梅雨を感じながら、6月の生徒会は始まったのだった。
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