第七十八話 深呼吸が効かないこともある
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「落ち着いた?」
「は、はいぃ……何度もご迷惑をおかけしてしまってすみませんでしたぁ……」
職員室に突撃しようとする山本さんを何とか落ち着かせてからそう聞いてみると、物凄く申し訳なさそうに深々と頭を下げられた。
「……ちょっと顔上げてもらっていい?」
俺の言葉に素直に従ってくれる山本さん。念のために、本当に暴走が落ち着いたのかを確認するため、山本さんの目や表情を改めて見ておくためだ。
うん、目はぐるぐるしてないし、暴走してる時みたいに顔が真っ赤で焦った表情もしてないな。暴走して自分がやらかした自覚があるせいか、めちゃくちゃ申し訳なさそうというか、今にも死にそうな顔をしてるけど……
「あ、あのぅ……た、高原くん?」
「あ、い、いや、ごめん! な、何でもないから!」
黙って女子の顔をじろじろ見るとか何やってんだ俺!
「そ、そうなんですか……?」
慌てて誤魔化した俺に、山本さんは何故か不安そうにこっちの様子をうかがってきた。
なんでだろう……同じネガティブ思考の持ち主というか、俺以上にネガティブな山本さんだからだろうか。今の彼女の気持ちが何となくわかる。きっと、また、何か自分がやらかしちゃったんじゃないかって不安になってるんだろうなぁ……。
間違いなく、悪いのは不躾に顔を見るとかいうデリカシー皆無なことをやらかした俺の方なのに
ただ、ネガティブな人間がこういう思考になった時は、いくらフォローしても余計に考え込んで不安が増してしまう(ソースは俺)ので、さっさと話題を変える方がいいだろう。
「あ、そ、そう言えば、趣味の方はどんな感じになってるんだ? ほら、えっと、前のアレから一ヶ月くらいは経つけど」
両手の親指と人差し指を使ってカメラを作り、尋ねてみる。
さすがに人気が少ないとは言っても、山本さんは趣味を隠しているわけだし、撮影会というワードを出すのはマズい気がした。
「あ、え、えっと……そ、それはですね……」
好きなものの話だから、嬉々として喋り始めると思っていたのだけど、山本さんは何故かとても気まずそうに俺から視線を逸らす。その姿が、ちょうどテスト一週間前、実は勉強ができなかったことが判明した時と重なり、ものすごく嫌な予感がした。
な、なんだなんだ、そのリアクションは……! また変なこと言い出して暴走したりするんじゃないだろうな……流石にこの短期間で3回も同級生女子を落ち着かせるなんて謎の経験はしたくないぞ……!
「す、すみませんでしたぁっ!」
「は!? え!? それは何の謝罪!?」
思わず身構えていると、山本さんが急に頭を下げて謝ってくる。さっき抱いた嫌な予感がすごい勢いで膨れ上がった。
「さ、撮影会をお願いしてるのはこちらの方なのに、何も連絡しないままひと月もお待たせしてしてしまって、ほ、本当にすみませんっ!!」
「は……?」
まさかの謝罪理由に、拍子抜けしてしまって変な声が出てしまった。
「す、すみませんすみません! あ、あのあのあのですね!? こ、こここ今回は天崎さんだけじゃなくてた、高原くんもコスプレしてくれるお約束だったじゃないですか!? で、ですから作る衣装の量も純粋に2倍といいますか、た、高原くんに着て欲しいコスや衣装が選びきれなかったといいますか、そ、それにそれに! せっかく男女お二人の撮影会ができるわけですから『あわせ』をしていただきたいですしそうなると作りたい衣装の範囲が一気に広がってしまったんですよ! それはもうもりもり湧いてくるといいますか無限大ですよ本当に――」
「す、すとっぷすとっぷ。山本さんの創作意欲がすごいのはわかったから、とりあえずいったん深呼吸しなさい」
「――はっ!?」
目をらんらんと輝かせながら興奮した様子で早口で話す山本さんは、それはもう楽しそうで話を遮るのは申し訳ないとは思ったけど、暴走の予兆があったので流石に口を挟ませてもらった。
山本さんは言われた通り深呼吸をすると、
「そ、それでですね!? 今までなら月に1、2回は天崎さんにお願いして撮影会をさせていただいてたわけなんですけどそんな感じで作りたい衣装が欲望のままにどんどん増えてしまったんですよ! 本当に嬉しい悲鳴といいますか毎日が楽しすぎて楽しすぎて学校にいる間ずっと何を着てもらうか考えてて実に充実した生活を送ることができましたありがとうございますっ!!」
もうこれ暴走するの止められないというか、すでに暴走してるんじゃね?
深呼吸を挟んだというのにまったく変わらない勢いで話を続ける山本さんに、まさかの落ち着かせ3回目が来ることを覚悟した。
「もう本当に作りたいものが多すぎて時間が足りなくて足りなくて、作る方ばかりに集中しちゃってこちらからお願いした次の撮影会をいつにするのか決めることも忘れてしまって……そのせいで生徒会のお二人にご迷惑をおかけしてしまって……そ、それに、いつも以上に授業や勉強をおろそかにしてしまったので赤点も覚悟していたんですけど、た、高原くんのおかげで無事に回避できましたし……で、ですので、高原くんには予定を決めなかったせいで無駄に待たせてしまうだけじゃなく、テスト勉強を教えてもらうというご迷惑までおかけしてしまった次第です……本当にすみません……」
段々と早口がゆっくりになっていき、最終的にさっき落ち着かせた時よりも申し訳なさそうにしながら謝ってくる山本さん。
いやテンションの落差よ。ていうかあの時の0点にそんな背景があったのか。そこまで勉強しないで衣装作りに熱中してたとかすごい集中力だな、情熱がすごいわ。
「……ど、土下座をすればいいですか?」
「いらないいらない、そもそも謝られるような迷惑をかけられたわけじゃないし。あと一応言っておくけど、さっき俺が撮影会のことを言ったのは、次の撮影会がいつになるのか早く決めろって急かしたとかじゃないからな?」
考え過ぎかなとも思ったが、そんな勘違いをしてそうな気がしたので、念のため言っておいた方がいいような気がした。
「そ、そうなんですか? わ、私はてっきりそれで高原くんがお怒りになられているのかと……」
「ないない、もしそうだったとしたらあんな遠回しな感じじゃなくてハッキリ言うから」
「……ほ、本当ですか? じ、実は怒ってるのを隠していたりしませんか……?」
「いやだからないって、なんでそこまで俺が怒ってることにしたいんだよ。はっ……!? も、もしかして俺に怒られたいのか!?」
「………………そ、そんなことはないですよ?」
怒ってないアピールに軽い冗談で言ってみると、何故か少し顔を赤くして恥ずかしそうに視線をそらす山本さん。
待ってくれ山本さん、その反応はどういう意味だ!? さっきの間と疑問符込みで考えると色々と意味深な感じすぎるんですが!? まるで本当に怒られることを望んでるように見えるような……い、いやいや、まさかそんなことはないだろ……。
どこの世界に友だちに怒られたがるやつがいるんだ……きっと俺のくだらない冗談に山本さんが乗って来てくれただけだろ! うん! ていうか、そういう風に見える俺が悪い! キモすぎる! よくわからないけど、たぶん発想が童貞のそれ!!
「あ、あはは、そ、そうだよな? わざわざ怒られたいわけないよな~」
「そ、そそそそうですよ? じ、じじじ自分から怒られたがるなんてそんなマゾの変態みたいなことするわけないじゃないですか、あ、あはははは……」
「だ、だよな~あ、あははははは……」
何かを誤魔化すように笑い合う俺たち。
その笑い声はものすごく乾いているような気がするけど、きっと俺の気のせいだろう。
俺の雑なツッコミに、山本さんがまるで図星を突かれたみたいに慌てそうになっていたなんて、俺は見てないし知らない。
その件について掘り下げてもきっと誰も得しないし! 気まずいことになる以外の未来が見えないし、そもそも女子相手にそんなことを突っ込む勇気はない! だから無視! 触れずに流して忘れるのが一番!!
この後、しばらくの間、お互いに気まずい感じで笑いあっていると予鈴が鳴った。
この空気をどうしようと困っていた俺は助かったとばかりに、また早口で何かを話し始めそうな雰囲気になりつつあった顔の赤い山本さんと、一緒に教室へ戻ったのだった。
こうしてテストの成績上位者発表も含めた、中間テストに関することはようやく終わったのだけど、なんだか今回の中間テストはものすごく長く感じた気がした。あと、山本さんのキャラの濃さが、これでもかってくらいわかったテスト期間だった。
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