第七十四話 どれくらい仲良しなの?
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
あのとんでも発言のせいか、ゆーちゃんがものすごく不機嫌になってしまい、懸命に、どうして山本さんがあんなことを言ったのか納得してくれるまで説明した後のこと。
教室から場所を移して、ゆーちゃん、竜也、俺の3人は、今、学校の外、通学路の並木道を一緒に歩いていた。5月も終わりに近づき、街路樹の木々は新緑に染まっている。
「おい空太、今度は何をやらかしたんだ?」
そんな緑色の葉に季節を感じる暇もなく、呆れたように竜也が聞いてくる。その視線は俺ではなく、俺の左後ろを歩く、ゆーちゃんに向けられていた。
理由を説明してなんとか宥めることができたけど、まだ微妙に納得できてないのか、ゆーちゃんは、さっきからむすっとした顔をしてジト目で俺を睨んでいる。
テスト最終日の今日まで生徒会が休みということは事前に天崎から聞いていたので、今日の放課後は一緒に帰ろうと幼馴染3人で約束していた。なのでこうして三人一緒に下校してるわけだけど、学校からずっと不機嫌そうにしているゆーちゃんの様子が気にならないわけがない。
「なんで俺が何かやったことが前提!? いや、実はだな――」
とんでもなく失礼な前提(だけど今までの自分の行動を思い返すと割と納得)で尋ねてきた竜也に、俺はさっき何があったのかを説明する。
念のため、ゆーちゃんに教室で説明したのと同じように、実は一週間前から山本さんにテスト勉強を教えていたこと、そして、山本さんはとても律儀な子だから、お礼をしたいって気持ちがきっと強く出過ぎてしまってあんな変な言い方になっただけで、まったく他意はないし、ただの言葉のあやみたいなものだということも伝えた。もちろん、山本さんがどれだけ勉強が苦手だったかは二人に伏せて。
「まさか空太が女子と二人でテスト勉強をするとは、何だかんだお前も成長してきてるんだな……」
説明を聞き終えると、竜也は心の底からしみじみとした感じで、うんうんと何度も頷いた。
「何だその反応!? てか突っ込むのそこかよ!? 絶対もっと他にあるだろ!?」
「悪い悪い。今までのお前を知ってる俺にとっちゃ、けっこう衝撃的なことだったんでな」
「衝撃的て……山本さんと勉強したくらいで大げさすぎるだろ」
「いや、中学の時、テスト前に女子から勉強会に誘われるたび、何かしら理由をつけて断ってたヘタレのお前が、まさか自分から女子にテスト勉強を教えるって言い出すようになるとか、普通に衝撃的だろ」
「は、はぁ~? こ、断ってないですし! あ、あれは別に女子と一緒に勉強するとか想像するだけでもめちゃくちゃ緊張するし、もしそのせいで変なことでも言ってドン引きさせたら次の日から学校が地獄になるかもしれないから断念したとかじゃなくて、本当に毎回、偶然、外せない用事があって参加できなかっただけですし!」
「どうせそんなこったろうと思ってたよ、このくそヘタレが」
「うるさいやい! あと、今だからぶっちゃけるけど、あれは俺を誘ってたんじゃなくて、完全に俺をダシにして竜也を誘おうとしてただけだったからな!? それがわかってるのに行くわけねえだろ!?」
しかも、誘ってる女子たちは知らなかったかもしれないが、竜也のやつは「は? 勉強なんて基本は一人でやるもんだろ? そもそも勉強会なんてただ集まって騒ぎたいだけで、誰も真面目にテスト勉強なんてやらねえだろ」みたいな感じで勉強会全否定のスタンスだったからな。だから、もし俺が誘いに乗っても、竜也は絶対に来なかったはずだ。
そうなると竜也という本命のために誘いたくもない俺に声をかけたのに、やってきたのがまさかの俺だけという状況が発生することは確実。誘った女子的にも、望まれてもないのにのこのこやってきた俺的にも、訪れるのは参加者全員にとって地獄しかない。
「はぁー……お前ってやつは本当に…………ま、いいか、とりあえず今は、空太が一歩前進したことを祝おう。おめでとう空太、初めて女子と勉強会できて良かったな」
「よくわからないけど絶対バカにしてるだろ!?」
「してないしてない。むしろ、よく頑張ったなって褒めてやりたいくらいだ」
「どういうことだよ!? 言いたいことがあるならはっきり言えや!?」
「いやだからハッキリ言ってるだろ。あ、けど、一緒に勉強した相手が山本さんだったのは意外だったな。いつの間にそんな仲良くなったんだ?」
「う……」
竜也の質問に、どう答えていいものか悩む。
改めて思い返してみると、勉強を教えることになったのは偶然が重なった結果というか完全に成り行きって感じだったからな。いつの間に仲良くなったと言われたら、どう答えていいか難しい気がする。
強いて言うなら、勢いで俺が友だちって言っちゃって、山本さんも受け入れてくれた時か? うん、あんなこっぱずかしい説明なんてできるわけないな! 誤魔化そう!
「ま、まあ、先月からずっと隣の席だし、気づいたら仲良くなってたみたいな? それでテスト前、たまたま一緒に勉強をしようって話になった感じ、みたいな?」
「なんで自分で言ってて疑問形なんだよ」
「いやほら! いつ仲良くなったとか説明するのってなかなか難しいだろ? だから疑問形になるのも仕方ないというか……と、とにかく、気づいたらテスト前に一緒に勉強するくらいには、俺と山本さんは仲良くなってたわけだ!」
ああ~~~~~~! めちゃくちゃ山本さんに申し訳ない嘘ついてしまったぁぁぁぁぁ!! 山本さんが俺のことをどう思ってるかなんて、まったくわからないのに、勝手に仲良し扱いするとかキモイぞ俺!!
「ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」
誤魔化すためとはいえ、とんでもなくキモイことを言ってしまった自分に自己嫌悪で死にたくなっていると、さっきから不機嫌そうにしているゆーちゃんが、ものすごく物申したそうな不満げな声をあげた。
さっきの教室でのことを思い出し、その時の声音とそっくりな感じだったので、恐る恐るゆーちゃんの様子を窺ってみると、そこにはさっきまでの不機嫌そうな顔はどこへやら、ニコニコ笑顔のゆーちゃんがいた。だがよく見なくても雰囲気からはっきりわかる。
今のゆーちゃんは顔は笑ってるけど、間違いなく心では笑ってない!
「空ちゃんと山本さんがそんなに仲が良かったなんて、私、知らなかったなぁ」
「あ、あのー、ゆ、ゆーちゃん?」
「どうしたの空ちゃん?」
「も、もしかしてなんか怒ってます?」
「怒ってないよ?」
「え、いやでも――」
「怒ってないよ?」
ヤバい、どうしてこうなったのかわからないけど、確実に怒ってるなこれは。
「どれくらい?」
「え?」
「空ちゃんと山本さん、どれくらい仲良しなの?」
「えぇ……どれくらいって言われても……が、学校で毎日挨拶するくらい?」
「私も空ちゃんと毎日、挨拶してる」
「お、おう、そうだな」
「他には?」
「他!? え、えっと、連絡先を交換してる?」
「私も空ちゃんと連絡先、交換してるっ。他にはっ?」
「て、テスト勉強を教えた?」
「それは私してない……」
ずぅーん、とものすごく落ち込んだように肩を落とすゆーちゃん。
急に怒ったかと思ったら、謎の質問をしてきてめちゃくちゃ落ち込んでしまった……。
「ほ、他には?」
「まだ続けるのか!?」
「つ、続けるよっ」
何がそこまでゆーちゃんを駆り立てるのか。まあ、理由はわからないけどゆーちゃんを怒らせてしまたのは多分、というか間違いなく俺のせいだろうから納得するまで付き合うか。
なんて考えていると、ゆーちゃんはものすごく緊張した様子で、まるで神さまに祈るように俺を見てきた。
「お、お休みの日に一緒に遊びに行ったり……し、してない?」
「し、してないけど」
「ほ、ほんとっ!? う、嘘じゃないよね!?」
「ほ、本当本当」
「そ、そうなんだ……! わ、私は空ちゃんと一緒に遊びに行ったよ!」
「お、おう、そうだな」
「うん!」
かと思えば、今度はまるで宝物を見つけたように、ゆーちゃんがものすごく嬉しそうに胸を張る。
う、うーん、さっきからテンションの落差というか情緒がすごいな……教室でのこともあるし、今日は調子でも悪いのかな?
いつもと違う感じのゆーちゃんに、少し心配になる俺だった。
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