第七十三話 お礼がしたい山本さん
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「お、お礼をさせてください!」
二人して恥ずかしくなって顔を隠すという謎行動というか珍行動をしてしまった後、ホームルーム終わってあとは帰るだけとなったタイミングで、唐突に山本さんがそんなことを言って来た。
「そ、その、結果はまだわかってませんけど、高原くんが一所懸命勉強を教えくれたおかげで、初めて憂鬱じゃないテスト終わりを迎えることができました! だから、勉強を教えてくれたお礼をしたいです! させてください!!」
「あ、あー、じ、じゃあ、前に言ってたみたいにジュース1本奢ってくれる?」
ふんす、と両手をぐっと握りしめている様子から、山音さんがものすごくやる気に満ち溢れているのがわかったので、あえて断るのではなくジュースを要求する。
山本さんが俺に感謝してくれてるのはわかるけど、正直、お礼をしてもらうほどのことをしたとは思っていなかった。が、しかし、ここで無理に断ったら、変なところで頑固な山本さんが意地でもお礼をしようとするのは目に見えてるし、最悪、お礼としてとんでもないことを言い出す恐れがあった。
初めて数学を教えた日、月額いくら払えば見ていいとか、ちゃんと授業料を払うとか、そんなとんでもないことを言ったり、本気で財布を出そうとしていたのは、記憶に新しい。
放課後で人がいなかったあの時と違って、テストが終わった直後の教室にはクラスメイトが勢ぞろいしているので、今、あの時みたいなとんでもないことを言い出されたら確実にヤバい。とんでもない誤解が広まってしまう。
なので、先にこっちからお礼として何をしてもらうか具体的な内容を言うことが最善手。そう思ってお礼をしてもらうことを受け入れたのである。
「そ、そんな――」
「友だちに勉強を教えるお礼なんてジュース1本でいいってテスト前にも言っただろ? だからジュース奢ってくれればそれでいい! 以上!」
そして念のために、ジュースくらいじゃお礼にならないとか言いそうな山本さんを納得させるための追い打ちもしておく。
俺の要求に、ものすごく不満そうというか、申し訳なさそうというか、もやもやした表情になった山本さんの言葉に被せた。
ふっふっふ、これなら山本さんも納得せざるをえまい。あの時、友だちに勉強を教えたお礼はジュース1本で十分だって言ったことは、山本さんもはっきり聞いてたはず。そして、お互いに友だちだってことも了承もしてくれていた。だったら、友だちの俺たちの間で、勉強を教えたお礼はジュース1本で問題ないということになるはず。うんうん、完璧な理屈だな! さあ、山本さん! 反論できるならしてみるといい!
テスト終わりの解放感のせいだろうか、謎のテンションになりながら山本さんの反応を窺う。
「ふひゅっ!? そ、そそそそそ、そうですね! お、おと、お友だちですもんね!? 高原くんと私はお友だち……ふ、ふひゅひゅ……」
顔を真っ赤にして変な声を出した山本さん。まるで笑いそうになるのを必死でこらえているように、口元がぷるぷる震えていた。
え、今どういう感情? ふひゅひゅってどういう感じの笑い声だよ……生まれて初めて聞いたぞ。
まったく想像してなかったリアクションにどう返せばいいかわからず困惑していると、山本さんが両手で顔を隠して俯いてしまう。ぷるぷる震えてるのは笑いをこらえてるからだろうか。
なんかさっきも見たなこの光景。てか、笑うようなことを言った覚えは全くないんだけど、何で震えてるんだ?
「空ちゃーん、テストお疲れ様――」
山本さんがこうなってしまった理由がわからず、どうしたもんかと悩んでいると、帰り支度を終えたのだろう、鞄を持ったゆーちゃんが声をかけてきた。何故かものすごくショックを受けた顔で固まっている。
あれ? なんでそんな衝撃的なものを見たような感じ?
「も、もしかして山本さんのことを泣かせてるの?」
「……はっ!?」
た、確かにこの状況、そんな風に受け取られてもおかしくないかも!?
俺の方を向いたまま小刻みに体を震わせて、しかも両手で顔を覆って俯いている山本さんの姿は、まるで俺が泣かせてしまったように見えなくもない。そんなとんでもない事態になってしまっていることに、ゆーちゃんの言葉で今更、気がつく鈍い俺。
「違うぞ!? そう見えるかもしれないけど、これは別に泣かせたとかじゃないから!? そもそも山本さん泣いてないし!? そうだよな、山本さん!?」
「は、はははははははいっ! た、高原くんの言う通りです! こ、この通り、私は泣いてませんしただ恥ずかしかったので顔を隠していただけなんです紛らわしいことをしてしまってごめんなさい!!」
山本さんは勢いよく顔をあげると、隠していた両手をどけてゆーちゃんに顔を見せながら早口で捲し立てるように言った。なんで暴走モード入ってんの!?
もしかして、泣いてるって誤解されるのはマズいと思って、暴走してしまうくらい焦ったんだろうか。
「そ、そうだったんですか……? ご、誤解してしまってすみません」
おそらく初めて見るだろう山本さんの暴走モードに、若干、引き気味のゆーちゃん。
わかるぞゆーちゃん。俺も初めて山本さんの暴走モードを見た時は、きっとそんな感じだったから。いつも物静かな山本さんからは想像もできない姿だよな。
「うぅ……し、死にたい……」
一方、ゆーちゃん相手に暴走してしまった山本さんの方はものすごい自己嫌悪に襲われているらしかった。うん、その気持ちもわかるぞ。自分がやらかした覚えがあったら特にそうなるよな……。
黙ってしまった俺たち3人の間に、何とも言えない気まずい空気が流れ始める。
ええ……こ、これどうすんの? フォローしようにも何を言うのが正解なのかわからないし……。
そんな感じで悩んでいると、以外にもこの空気の中で最初に動いたのは山本さんだった。
「そっ、それでは! わ、わた、私はお先に失礼しますっ! た、高原くん、ふ、伏見さん、さ、さようなら、です!!」
「お、おう、また明日」
「う、うん、さ、さようなら」
「は、はいっ!! それではっ!!」
勢いよく俺たちに向かって頭を下げた山本さんは、机の上にある自分の鞄をひっつかむと、席から立ち上がり、ものすごくカチコチな動きで歩き出し、
「あ、あの、やっぱり、お礼がジュースだけなのは申し訳ないので、もっと何かさせてください。た、高原くんの望むことなら、わ、私、何でもしますからっ」
そのまま教室を出て行くかと思いきや、俺の横を通る時に立ち止まったかと思うと、まるでこそこそ話をするように俺の耳元に顔を寄せてくる。そして、そんなことを小声でこっそりと言うと早足で去って行った。
う、うーん、やっぱりジュースだけじゃ納得してなかったか……何かさせてくださいって山本さんも律儀というか気にしいというか……まあ、変にお金払いますとか言わなかっただけよかったか?
ていうか、急に耳元に話しかけられるとかびっくりするわぁ……。
山本さんの息が耳に当たって変な声が出そうにもなった。もしかして俺って耳が弱点なのかもしれない。うんうん、一つ勉強なったな。
それとあともう一つ、勉強になったことがある。
「……空ちゃん、山本さんが言ってた、何でもするってどういうことなのかな?」
静かで大人しそうな見た目の山本さんは、実は意外と声が大きい。もしくはゆーちゃんはものすごく耳がいい。あ、これじゃ二つか。全部で三つも勉強になったなんてラッキーだなぁ……あはは……。
「ねえねえ空ちゃん? 黙ってないで教えて欲しいな?」
さっきの耳打ちがばっちり聞こえていたらしいゆーちゃんが、とんでもない圧を放ちながら微笑んでくる。
幼馴染の俺にはわかる、理由はわからないけど今ゆーちゃんは……めちゃくちゃ不機嫌だ! っていうか普通に怖い! なんか知らないけど絶対に怒ってるよなこれ!?
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