第七十一話 やればできすぎる子
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
数学だけでなく、英語も科学もとんでもなくヤバいことがわかってからは、率直に言ってものすごく大変だった。
生徒会室で勉強を一日教えただけでは、絶対に何とかならないレベルだったので、放課後になったら毎日、生徒会室でテスト勉強。効率よくやらないとテストに間に合わない予感をひしひしと感じたこともあり、山本さんとの勉強会が終わって帰宅してからは、次の日に少しでもスムーズに勉強ができるように教科書やノートや参考書をまとめなおしたり、練習問題を作ってみたり、俺は塾講師か家庭教師かと突っ込みたくなるような忙しい毎日だった。
ただ、予想外というか嬉しい誤算もあった。自分でバカだと言っていた山本さんだったが、地頭は悪くないどころか良い部類で、特に記憶力に関してはものすごく優秀だったのだ。一度教えたことは次の日以降もまったく忘れないし、間違って覚えていたりもしない。ひっかけ問題や応用問題なんかも、解き方をちゃんと解説してあげれば、次から同じ間違いは一度もしなかった。
それに加えて、初日に俺が余計なことを言ってしまったせいもあるのかもしれないけど、家に帰ってからもその日に教えたことをちゃんと復習してくれてるらしく、同じことを教えることがほとんどなかったので、思っていたよりいいペースで勉強を教えることができた。
こうしてテスト前日の今日、山本さんが全科目、安心して赤点回避ができそうな見込みができているくらいには、山本さんに勉強を教えるのは上手くいったと断言できる。
まあ、代わりに自分の勉強が少しだけピンチだけど、赤点は取らない程度にはできそうなので良しとする。別に成績上位を狙ってるわけでもないし。
「で、できました! こ、答え合わせをお願いしますっ……!」
「お、けっこう早かったな。どれどれ……」
放課後の生徒会室、緊張した面持ちの山本さんから、俺が昨日作った数学のテスト予想問題を受け取る。赤色のボールペンで丸付けをしていく。
丸、丸、丸、よっし、計算問題はミスなく全問正解してるな。文章問題の方も、丸、丸、丸、ひっかけ問題にもひっかかってないし、応用問題も普通に解けてる、おっけーおっけー。
しばらくの間、規則正しい丸を書く音だけが、静かな生徒会室に響き続ける。
ずっと不安そうな顔で落ち着かなそうに山本さんが見てくる中、俺はそのまま丸付けを続け、そして、丸付けが終わると、ゆっくりとボールペンを机の上に置いた。
「……ど、どうでしたか? じ、自分としてはけ、けっこういい感じに解けたと思うんですが、あ、いえ、すみませんなんでもないです、ち、調子に乗ってごめんなさい……」
「この数日で何回か言ったと思うけど、こっちが何も言ってないのになんで謝っちゃうんだよ……」
テストを勉強を一緒にするようになったこの一週間で、何度こんな感じで山本さんに謝られただろうか。ふと気になって思い返してみるが、多すぎてわからない。ただ、こうして謝られなかった日がなかったことは確かだ。
「ご、ごめんなさい! あ、謝ってばかりのうじうじした根暗女で本当にすみません! ポ、ポジティブなことを自分から言葉にすることに慣れてないといいますか、なに根暗のオタ女の分際で調子に乗ってるんだお前、と心の中の冷静な自分が言ってくるといいますか……な、なぜか、とっさに謝罪の言葉が出てしまうんです……う、鬱陶しい謝罪を何度も聞かせてしまってすみません!!」
「いやだからまだ何も言ってないんだけど……」
ネタで自虐してるとかじゃなく、本当に申し訳なさそうにしているあたり、どれだけ自分に自信がないのかちょっと本気で心配になってくる。俺も山本さんと同じネガティブなので、言ってることはわからなくもないけど、難儀な性格すぎるだろ……。
「というか、今回は別に調子に乗ってもいいと思うぞ。全問正解なんだから」
「………………え? う、嘘ですよね? い、一週間前に簡単なはずの小テストで0点を取るようなバカ女ですよ?」
「ま、まあその気持ちはわかるけど、正真正銘、本当だよ。おめでとう、100点満点だ」
100という見事な点数と花丸を書いたテストの予想問題を手渡すと、受け取った山本さんは信じられないものを見るように自分の回答をじっと見ていた。そして、上から下までじっくりと何かを探すように見ていたかと思うと、
「あっ! こ、ここ! よ、よく見てください! この答えの数字1か7かわかりづらいですよね!? こ、これじゃあ1か7か判別できないので、不正解にするのが妥当ではないでしょうか!?」
「いやいや普通に1って書いてあるってわかるわ! なんで自分から粗探ししてんの!?」
「だ、だって今までの人生で、ささいな小テストも含めて、テストと名のつくもので満点なんて一度も取ったことないんですよ!? だ、だから何かの間違いじゃないかって不安で……」
「どういう理屈!? とにかく、誰が何と言おうと、今回やったそのテストは100点だから! 初めての100点おめでとう!!」
「わ、私が……100点……?」
信じられない表情で呆然としている山本さん。
人生で初めて100点取ったってなったら、まあ、そんな信じられない気持ちにもなるか? いくら信じられないからって、必死で自分からミスを探して減点しようとするのはどうか思うけど……。
確かに初日に見た衝撃的な0点のことを考えたら、この短期間で0点から一気に100点を取れるようになっただなんて信じられないと山本さんが思ってしまうも無理はないような気はする。
だが、ここ数日勉強を教えていた身としては、驚きはしても決して信じられない結果とは思わなかった。
教えている最中になんとなくわかったことだが、山本さんは勉強ができないタイプではなく、やってなかったタイプだった。
典型的なやればできる子――いや、やればできすぎる子だ。
すさまじい記憶力のおかげか、一回、説明を聞いただけで、次からは間違えた問題も普通に解けるようになったりすることを考えると、むしろめちゃくちゃ頭がいい。
ぶっちゃけ明日のテストで普通に点数で負けそうな気がする。いや、たぶん普通に負けるな。
本人は未だに、自分が勉強はできないと思ってるのか、ずっと自信なさげな感じだけど、もう参考書の応用問題もすらすら解けるようになってるからな……しかも英語も科学も数学と似たようなレベルで仕上がってるし。
この後、英語と科学のテスト予想問題もやってもらうことになっているが、この調子でそっちも同じように両方満点を取りそうな気がする。
100点を取ったことでこんなリアクションをしてる山本さんが、もし、英語と科学でも100点を取ったらいったいどんな感じになってしまうんだろうか。
「え……嘘……ほ、本当に……も、もしかしてこれは夢……? 幻?」
未だに信じられない様子で震える手で100点のテストを見つめる山本さんに、そんなもしもが起きたらいったいどんなリアクションをするのか、想像して少し楽しみになる。
「高原くんのが……私の初めて……」
「よーし、信じられない気持ちはわかるけど、そろそろ現実を見ような。そして、その言い方もやめようか」
最終下校時刻までの時間的にも勉強の進行具合的にもまだ余裕があるので、山本さんが初めての100点を受け入れられるまで、何も言わずしばらく見守っておこうかと思ったが、とんでもない発言が飛び出てきて即座にツッコんでしまう。
これ以上、放置して今以上にヤバい発言が出て来ても困るので、俺は山本さんに100点を取った事実を速攻で受け入れさせようとするのだった。
いやほんと……たぶん、高原くんの(テスト)が、私の初めて(の100点)、っていう意味なんだろうけど、誰かが聞いたら、間違いなく誤解しか生まないだろ……最初に数学を教えた日もそうだったけど、なんか山本さんと一緒にいると、誰かに聞かれたり見られたりしたらとんでもない誤解をされそうなことが起きすぎてないか?
なお、英語と科学のテストでもまさかの100点を取った山本さんは、動画を撮ってなかったことが悔やまれる程度には、それはそれはとんでもないリアクションをしてくれた。
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