第七十話 気まずい空気も吹き飛ぶヤバさ
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
俺の言葉の意図を勘違いした山本さんが(謝罪のために自分から)額を強打したり、保健室に行くと言って生徒会室を出て行った彼女の足が思いのほか速くて、こっちも走って追いかけることになったり、ようやく山本さんに追いついた時には保健室で、中にいた養護教諭の先生から「頭打ったからとかじゃなくて、普通にぶつかったりしたら危ないから、廊下は走らない」とものすごい正論で二人一緒にやんわり怒られたり。
そんな感じのことがあった後、俺と山本さんは生徒会室に戻って再び勉強をしていた。
「えっと……たしかこういう問題は、昨日教えてもらったこの公式を使えば……あれ? でも、そうしたら答えがおかしくなるような……」
養護教諭の先生からもらった氷をおでこに当てて冷やしつつ、難しい顔をしながらもう片方の手で数学の問題を解いている山本さん。少し意地悪なひっかけ問題に苦戦していた。
「た、高原くんも自分の勉強があるわけですから、昨日みたいに私につきっきりなのは申し訳ないです! で、ですから、まずは自分だけで頑張ってやってみますね!」
と、山本さんが気遣ってくれたので、その気持ちに甘えて山本さんのヘルプ要請が来るまで、俺は自分の勉強をしているわけだが、山本さんには申し訳ないけど、全然、勉強に集中できていなかった。
自分だけで頑張るとは言っていたけど、昨日の今日でそんなすぐ解けるようになるとは思えないので、一人でちゃんと解けてるのか山本さんのことが心配なのもある。
だが、それ以上に集中できていない理由となっているのは、さっきの俺の行動を思い返してしまって猛烈に死にたくなっているからだ。
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! なんで俺は断りもなく山本さんのおでこを触ってしまったんだ! あの時は、めちゃくちゃ痛そうだったから心配になって思わずやっちゃったけど、別に触る必要はなかっただろ俺!? 痛くないように触ったけど、その気の遣い方は完全に間違ってるんだよ! 気を遣うならせめて触る前に許可を取れ! そもそも女子の額を気軽に触ろうとするな!! あと、冷やすにしても普通にアイスを渡すだけでよかったはずだろ!? わざわざ俺がアイスで冷やしてあげる必要は絶対になかった!!
山本さんも急にあんなことされたら、あまりの困惑に走って逃げ出したくなるはずだ。あの時、顔が真っ赤だったのは羞恥か怒りのどっちかだろう。触られてすぐも、何が起こってるかわからない感じで呆然としてたし、間違いなくいい印象を抱いてなさそうなのは確かだ。
昨日に引き続き、どうして俺はこうキモイ感じの行動を繰り返してしまうのか。被害者の山本さんには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。せめて俺が竜也くらいイケメンだったら、山本さんも喜んでくれただろうけどなぁ……。
そんな感じでさっきからテスト勉強に集中するどころか、許可なくクラスメイトの女子のおでこを触ってしまうというキモイ行動を思い出して、俺は絶賛、後悔しているのだった。さっきの山本さんじゃないけど、今度は俺が机で頭を強打して謝りたいくらいだ。頭をかち割るくらい、思いっきりぶつけてしまいたい。
「あ、あの……た、高原くん……も、申し訳ないんですけど、こ、これ教えてもらえませんか? 昨日、教えてもらった公式を使うのはなんとなくわかるんですけど……と、解けなくて……」
「え、あ、は、はい、ど、どこだ?」
ものすごく遠慮がちにおずおずと聞いてくる山本さんに、思わず返事がぎくしゃくした感じになってしまう俺。
さっきのことを山本さんに謝りたい気持ちはものすごくあるというか、すでに保健室から生徒会室に戻ってくる途中で、めちゃくちゃ謝っていた。
「そ、そんなそんな!? あ、謝ってもらう理由なんて何一つありませんよ!? そもそも私があんなバカなことしたのが悪いわけで、高原くんは純粋に心配してくださっただけですし嫌とか気持ち悪いだなんて思ってないというかむしろ触られて気持ちよ――っっっっっってごめんなさいなんでもないです!! と、とに、とにかく、わ、わた、私はまったく気にしてません!! 大丈夫です!! で、ですので、こ、このお話はこれで終わりです!!」
その時の山本さんのリアクションがこんな感じ。早口で顔が真っ赤な、完全に暴走モードのテンションだった。間違いなく、めちゃくちゃ気にしてるし、大丈夫じゃないリアクションだった。
その証拠に、生徒会室に戻ってから勉強を始めてからも、山本さんはずっと、ほんのり顔を赤くしたまま、ちらちらとこっちの様子を窺うように何度も見て来ていた。さっきみたいに、また急に触ろうとしてこないか俺を警戒してるのが、ありありとわかる。
驚かせようとしたとか女子に触りたくてあんなことをしたわけじゃなかったと、ものすごく弁明したかったが、山本さんの方から、この話は終わり、と言われてしまっているので、蒸し返して謝ることもできない。
「え、えっと、こ、この問題はだな、昨日教えたこっちの公式をちょっと変形させる必要があって――」
「な、なるほど、そ、そういう使い方をしないと解けない問題もあるんですね……」
なので、もちろん最初からそのつもりではあったけど、せめてもの償いに俺は全力で山本さんに勉強を教えるのだった。
やらかしたことを思い出して羞恥で死にたくなる気持ちを堪えつつ、これ以上、余計なことをやらかさないよう自分の行動にものすごく注意しながら勉強を教える俺。
一方、わからない問題を聞くことが申し訳ないと思っているのか、はたまた俺を警戒しているためか、ものすごく遠慮がちで少しびくびくした様子の山本さん。
そんな俺たちの間には、しばらく気まずい空気が漂い続けたのだが、昨日教えた数学の復習をした後、英語と科学の方を教えてみると、数学と同じかそれ以上にヤバいことが発覚。
気まずい空気とか言ってる場合じゃない事態に、俺は気まずさなんて忘れて、必死で山本さんに勉強を教えることになるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
よろしければ、ご感想や評価などをいただけると嬉しいです。




