第六十八話 会長モードでもやる時はやっちゃう
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
一限目の授業が終わり、騒がしい休み時間が始まった。
さて、10分しかないしさっさと行くか。
さっきまで使っていた教科書やノートを机に突っ込んで、席を立つ。
いつもなら休み時間はトイレに行ったり竜也やゆーちゃんとだべったりしてるのだけど、今回に限っては先に済ませておきたい用事があった。
放課後、山本さんに勉強を教えることになったはいいけれど、さっきの授業中にふと、どこでやればいい? という場所の問題に気づいてしまった。
まず図書室はダメ。
昨日の感じからして図書室は人でいっぱいで席を確保するのも難しいだろう。しかも、教えるために山本さんとがっつり話すことになるのは必然なので、流石に図書室でそんなことをするのはマナー違反だろう。周りの勉強してる生徒や図書委員から嫌な顔をされること間違いなしだ。
教室も難しいだろう。
昨日は誰もいなかったけど、図書室があんな状態じゃ、友だちと教室で一緒に勉強するクラスメイトの一人や二人は普通に出てきそうだ。
俺は別にクラスメイトがいても問題はないけど、昨日の山本さんの感じ的に、あんまり自分が勉強をできないことを周りに知られたくなさそうだったし、クラスメイトがいる、もしくはやってくる可能性の高い場所は避けた方がいいだろう。バカだって言うのが恥ずかしい、みたいなこと言ってたはずだからな。
じゃあ校内以外はどうかというと、近場のファミレスにしたってファストフード店にしたって、教室と同じようにクラスメイトと鉢合わせになる可能性が高いのでやっぱり却下。
もしこれが竜也だったら、どっちかの家でやればいいって言えるんだけど、山本さん相手にそんなとんでもないことを言えるわけもないし、間違いなく気持ち悪がられる未来がありありと想像できる。
長時間、椅子と机を自由に使うことができて、話していても問題がなくて、なおかつクラスメイトと出会う可能性がない場所。改めて考えてみたらそんな場所ってなかなかなくない? なんていつの間にか授業そっちのけで悩んでいた俺だったが、授業終了5分前にようやく見つけることができた。
生徒会室。その場所なら条件をすべてクリアしている。
椅子と机も自由に使えるし会話もオッケー、そしてクラスメイトが来ることも絶対にない。完璧だった。
むしろさっきの時間の俺は、どうしてすぐに思い浮かばなかったのか。そうすれば、貴重なテスト前の授業をうわの空で聞くなんてしないで済んだのに……しかもよりにもよって苦手な英語の授業でそんなことをするとか、バカなのか俺は?
ま、まあ? べ、別に苦手って言っても平均点を下回ったことはないし、さっきの授業も半分くらいはちゃんと聞いてたし、だ、大丈夫大丈夫……念のために後で竜也からノートを写させてもらおう……。
そんな感じで、若干、さっきの自分の行動に後悔しつつ、そそくさと自分の教室を出て隣のクラスへ向かう。うちの左隣の教室は2年A組――天崎のいるクラスだった。
生徒会室というベストな場所を思いついたはいいが、テスト前で生徒会が休みなのに、生徒会室を使っていいのかはわからないので、そのことを天崎に聞きに行こうと思ったわけである。
スマホでメッセージを飛ばして聞いてもよかったのだけど、隣のクラスなら直接行って話した方が早そうだった。あとうちの学校って休み時間にスマホ使うの、一応、校則で禁止されてたはずだし。まあ誰も守ってないし、教員の方もいじってるのを見つけても何も言わないけどな。
……さて、休み時間って言っても10分なんてあっという間だし、さっさと聞いてさっさと教室に戻りたいんだけど……別のクラスに入るのって、なんでこんなに変な緊張するんだろうな!?
ドアが開いてたら気配を消して入ることも考えたが、残念ながら前も後ろも閉まっている。自然な感じを装って教室の窓からこっそり中の様子を窺ってみると、自分のクラスと似ているというか全く同じ造りのはずなのに、全然違う場所にしか見えない不思議。いやまあ、実際違う場所なんだけど……なんだろう、ものすごく入りづらい感覚があるっていうか……。
よし、やっぱりスマホで聞こう。よくよく考えたら、別にいま聞かなくても、放課後までに使えるかどうかわかればいいわけだし。うん、それがいい、そうしよう、教室に戻ってメッセージを送ればそれでいいや。
ていうか、よく見たら天崎もいないっぽいし。あ、危ない危ない、勇気を出して突撃してたら、無駄に緊張するだけ緊張した挙句、用事が済ませられないなんて最悪な結末が待ってたな……いやぁ、今回ばかりはヘタレな自分に感謝だな。よかったよかった――
「うちのクラスに何か用事ですか?」
「うひゃっほい!?」
自分の教室に帰ろうとした俺だったが、背後から急に声をかけられて驚いてしまう。飛びのくように振り向くと、いつの間にそこにいたのだろう、真後ろに会長モードの天崎が立っていた。
「び、びっくりした……! お前いつの間に背後にいたんだよ! 音もなく忍び寄るのは心臓に悪いからやめろ!」
「びっくりした、はこちらのセリフなのですが。あと、忍び寄ったりなどしていません。普通に歩いてきたのに高原くんが気づかなかっただけです」
「嘘つけ! 普通に歩いてきたって言うんだったら、何で足音とか気配とかが全くなかったんだよ! 忍者かお前は!?」
「いえ、ただの学生ですが? それに、仮にわたしが忍者で高原くんを驚かせることが目的だったのなら、足音と気配を消して近づくだなんてくだらない真似はしません。やるなら忍者としての技術を全て用いて驚かせます。腰が抜けて立てなくなるか、気絶してしまうほどの驚きを目標に、綿密な計画を立てた上でそれを実行したでしょう」
「本気度がヤバすぎる!? 俺はいま、心底お前が忍者じゃなくてよかったと思ってるよ……」
「まあ、そんなありもしない話はさておき。先ほどもお聞きしましたが、うちのクラスの誰かに用事でもあるんですか? まるで、誰かを探すみたいに教室の中を覗いていましたが」
おっと、そうだ。いつもみたいに天崎とバカ話をするのもいいけど、先に用事を済ませとかないと。
「ああ、ちょっと天崎に用事っていうか、ちょっと聞きたいことがあって」
「わたしにですか? 聞きたいこととは?」
「生徒会室なんだけどさ――」
テスト前で落ち着いて勉強できる場所が見つからなさそうなので、放課後、生徒会室を使ってテスト勉強してもいいか聞いてみた。一応、山本さんに勉強を教えることは伏せて。
天崎は山本さんの友だちなので、もしかしたらクラスメイト以上に、勉強が苦手だってことを知られたくないかもしれないと思ったからだ。昨日、気軽に勉強を聞ける友だちがいないみたいなことを言っていたから、天崎がそのことを知らない可能性も十分にあり得そうだし。
「いいですよ。ただし施錠だけは、忘れずにきちんとしてくださいね」
一通り話を聞き終えた天崎からあっさりOKの返事が出た。
よしよし、これで場所の問題が解決したな。もしダメだったらこの後の授業も、放課後の場所をどうするか考えることに気を取られてしまっていたかもしれない。
「聞きたいことはそれだけですか?」
「おう、これだけだ。教えてくれてありがとな」
「いえいえ、ですが、この程度のことメッセージでもよかったのでは? そうすれば、別のクラスに入りたいけど緊張して中に入れず、廊下からこっそり教室の中を見るなんて覗き魔みたいな怪しい真似をしなくても済んだと思いますが」
「え、俺ってそんな怪しい感じだったの!?」
「はい。何をしようとしてるのか、思わず足音と気配を消して近づいて、こっそり様子を見てしまうくらいには不審でした」
「お前やっぱりこっそり近づいてたんじゃねえか!?」
「ふふふ、すみません。不審というのは冗談ですが、明らかに緊張していたので、その緊張をほぐしてあげたくて、ついやってしまいました」
「ついってお前、どういう理由だよまったく……」
どうやら会長モードの時でも素の天崎と同じように、からかえそうなタイミングがあったら、ついやってしまうらしい。
おかしそうに目を細めて微笑する天崎に、俺は呆れたようにツッコむのだった。
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