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第六十七話 ネガティブな二人

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

「おはよう、山本さん」 

「お、おはようございます!」

 

 テスト当日まであと6日。 

 いつもより少し遅い時間に登校してきた俺は、いつものように席に座って読書をしている山本さんに挨拶をしながら、自分の机に鞄を置いた。


「ふぅ……」


 思わずそんな息が出てしまう。

 昨日、押し入れの中から発掘した、一年の時に使っていた英語・科学・数学三教科分の教科書とノートと参考書を入れた鞄が想像以上に重かったからだ。


 おかげで鞄をかけてた肩が痛いこと痛いこと……今思えば教科書だけでよかったような気がする。念のためとはいえ、ノートと参考書まで持ってくる必要はなかったかもしれない。


「あ、あの! き、昨日は変なスタンプを送ったりして、すみませんでした!」


 そんな少しの後悔とともに肩をぐるぐる回していると、急に山本さんが謝ってきた。

 顔を真っ赤にして、とても恥ずかしそうにしながら。

 

「き、昨日も言ったと思うんですけど、ほ、本当にあれは間違って送っちゃっただけで、な、何かしら深い意味があるとか、そう言ったことは一切、全く、天地神明に誓ってありませんので!! で、ですからご安心ください!?」

「お、落ち着いて! 朝っぱらから変なテンションになりかけてるぞ! 間違って送ったって言うのは、昨日も聞いたし、改めて言われなくても、深い意味があるかもしれないとか、考えすらしなかったから!」

「で、でしたら、その、よかったです……もし同じようにスタンプを送るような時があったら、今度は絶対に間違えないよう、き、気をつけます!」

「そ、そんなに気合入れなくても大丈夫だぞ? 別にスタンプの誤送信なんて、誰だって一度はやったことあるようなミスなんだから」

「そ、そうなんですか……? す、すみません、これまでスタンプを送るような機会も友人もなかったので、間違ってスタンプを送るなんて初めての経験で慌ててしまって……」

「お、おう……そっか……」

 

 山本さんを慰めたら、とてつもなく悲しい事実を聞いてしまった。

 

 そういえば、昨日も勉強を聞けるような友だちがいないとか言ってたな……それを自虐風とかじゃなくて当たり前の事実みたいにさらっと口にしてるのが、なんだかものすごく心にくるんだけど……。


 重かった鞄を肩から降ろしたばかりだというのに、今度は心がズーンと重くなってきた。

 

「き、今日の放課後に教えるのは数学と英語と科学でよかったんだよな!?」


 この空気を放っておくと、さらにとんでもなく悲しい話が出て来そうな気がしたので、慌てて話題を変える。朝っぱらから暗い気分になるのは避けたい。


「え、は、はい……さ、三教科もお世話になってしまうようなバカですみません……」

「誰もそんな責めるような意味で言ってないぞ!?」


 昨日もそうだったけど、山本さんはネガティブが過ぎる! まあ俺もネガティブな方だから、教えてもらうことが申し訳なく感じて、ついそんなことを言っちゃう気持ちはわからなくもないけどさ!


「ただ純粋に予定を確認しただけというか、あ、そ、そう言えば、国語と社会はヤバいって言ってなかったけどそっちは大丈夫なのか? ほら、その……なんていうか昨日の数学の感じ的に心配というか……本当に大丈夫? もしヤバいんだったら遠慮しないでいいんだぞ?」

「え、遠慮だなんて! た、高原くんがそう思ってしまうお気持ちはとてもよくわかりますけど、ほ、本当に国語と社会は大丈夫です!!」


 慌てて強く否定する山本さんだったが、どうにも心配になる。

 三教科も教えてもらうんだからそれ以上は申し訳ないとか思って、変な遠慮をしてそうだ。


 いや……ちょっと待てよ? 俺に勉強を教えてもらうのが嫌だから、遠慮っていう形でやんわり断ってる可能性もあるか……? 三教科は約束しちゃったから断れない。だからせめて、これ以上教わる科目を増やさないようにしてるとか……あ、ありえる!


「そ、そっか、大丈夫ならよかった」


 山本さんがそんな風に思ってないことを信じたいけど、俺というやつは一度想像してしまうと不安になってしまう面倒くさい人間なので、念のため、万が一、そんな意図が込められている可能性を考慮した結果、深く掘り下げることはしなかった。


「……え!? し、信じてくれるんですか!?」

「なんで言い出したそっちが驚いてるの!? え、何、もしかして嘘だったとか?」

「い、いえいえいえいえ!? ほ、本当です! 本当ですけど、その、ま、まさか証拠も提出せずにあっさり信じてもらえるなんて……」

「いや証拠を提出って、裁判じゃないんだから……」

「そ、そうなんですけど、その、き、昨日でどれだけ私がバカなのかも高原くんは知ってますし、ぜ、絶対に疑われるに違いないと思ってたので……なのにあっさり信じてくれるなんて……やっぱり高原くんは優しいです!」

「優しくない優しくない! 普通だから! むしろ、それくらいのことに、いちいち証拠を出せって言うやつとか嫌すぎるだろ!」


 山本さんの優しいの定義がおかしい! 優しいとか言われるようなこと何一つしてないから! ていうかなんだろう……山本さんの言葉の端々にほんのり闇を感じるというか……自分の言うことなんて証拠がないと信じてもらえない前提で喋ってるというか……ものすごいネガティブが見え隠れしてるんだけど……!


「と、とにかく! 山本さんが大丈夫だって言うなら、国語と社会は教えなくてもいいってことでいいんだな?」

「は、はい! む、むしろ国語と社会は得意なので……い、今まで一度も赤点を取ったこともありませんし……」

 

 背中を丸めて、まるでこちらの顔色を窺うように、ものすごく自信がなさそうに小さい声で言う山本さん。


 いや、赤点も取ったことがなくて得意って言えるくらいなんだったら、そんな自信なさげにしなくてもいいだろうに。


「逆に、それ以外の教科は壊滅的なんですけどね……あはは……こんなバカですみません……」

「いや別に謝らなくても……ま、まあ、そういうことなら今日は予定通り数学、英語、科学をやるってことで!」

「お願いします……本当にありがとうございます……」


 山本さんがゆっくりと、そして深々と頭を下げてくる。

 切実な声音なのは、彼女が言ったように本当に壊滅的だからだろう。


 こんなこと考えるのは失礼だと思うけど、国語と社会が少なくとも赤点を取ったことのないレベルで本当によかった……もし五教科全部を教えることになってたら、間違いなく時間が足りなくなってたからな……自分の勉強もあるわけだし。


 さすがに自分の勉強をおろそかにしてまで、他人の勉強の面倒を見るほどお人好しじゃない。実は国語と社会もマズいだなんて言われたら、おそらく断ってただろう。断ってたはず。断ってたかな? うーん……が、頑張って断ろうとしてたような気がしないでもない、かな? あ、ダメだ、断り切れなかったわ……。


 そんなことになっていた場合を想像してみたけれど、想像の中ですら山本さんに断れなかった。


 そんな意志の弱い自分のことはハッキリわかっているので、山本さんには申し訳ないけれど、これ以上、教える科目が増えなかったことに、俺は心の底から安心したのだった。


 ていうか国語と社会が得意で数学と科学が苦手って完全に文系だな。山本さんのイメージ通りというか、ぴったりすぎるというか。英語はまあ、うん、文系理系関係なく付きまとってくる科目だし……だから英語が苦手だと文系理系どこにいっても逃げられないんだよなぁ……。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご感想や評価などをいただけると嬉しいです。

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