第六十六話 テスト前は勉強以外のことをしがち
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「あれ? 確かこの辺に置いてたはずなんだけどな……」
山本さんが思っていたより勉強が苦手(できる限りオブラートに包んだ表現)なことを身をもって実感した後、帰宅した俺は、自分の部屋で一年の時に使っていた教科書を探していた。
数学だけじゃなく英語や化学もヤバいこと聞いてしまった以上、あ、そうなんだ頑張ってね、とそのまま見捨ててしまうのはものすごく気が引けたので、英語と科学も山本さんに教える約束をしたからだ。
数学が相当ヤバかったので、英語と科学の時にも同じようなことが起きる可能性は非常に高い。なので、事前に一年の教科書も準備しておいた方がいいだろう。
そう思いさっきから部屋の中を探しているわけだが、去年の教科書がなかなか見つからない。
勉強机に置きっぱなしにしてたはずなんだけどな……それとも、学年が上がる時に、一年で使った教科書とかまとめて押し入れに突っ込んだんだっけ? だとしたらめちゃくちゃ探すのが億劫だな……。
とりあえず押し入れに物を突っ込んでおく癖があるので、部屋の押し入れは常にごちゃごちゃしている。そこを探すなんて、考えるだけでも面倒でげんなりしてしまう。
うーん……別に一年の教科書は準備しなくても大丈夫かな? 最悪、わからないことが出て来ても、わざわざ教科書使わなくてもスマホで調べればいいわけだし……いやでも、その理由が押し入れを探すのが面倒くさいっていうのはどうなんだ?
自分だけのことならいくらでも面倒くさいからって理由で妥協するけど、今回はそうじゃないし、しかもこっちから勉強を教えるって言ったわけだから、そのあたりの準備はちゃんとした方がいいと思ってしまう。
いっそ妹に借りるか? いやけど、あいつだってテスト前なわけだし教科書を借りていくのは流石になぁ……コピーしようにも山本さんがどんな部分を理解できてるのかわからないし……はぁ……仕方ない。くっそ面倒くさいけど押し入れに潜るか……もし押し入れにもなかったら本格的にどこに行ったかわからないし、申し訳ないけど山本さんに一年の教科書を持ってきてもらおう。
深いため息を一つしてから、俺は腕まくりをして気合を入れて押し入れの扉に手をかけようとして、ふと気づく。
そういや、いつ勉強を教えるかとか山本さんと相談してなかったっけ。
英語と科学も教えること自体は決まったけど、具体的にいつやるのか山本さんと話していなかった。
机の上のスマホを手に取り、山本さんにメッセージを送る。
『今日はお疲れ様』
『英語と科学を教える話なんだけど、山本さんさえよかったら、さっそく明日から始めようと思うんだけど、どうかな?』
山本さんの都合のいい日に合わせる方がいいんだろうけど、できれば早いうちというか、ぶっちゃけ明日から始めたかったので、こちらから日程を決める。むしろ、英語と科学が今日の数学と同じかそれ以上にヤバい可能性があることを考えると、明日からでも遅いくらいじゃなかろうか。
ぶっちゃけ、赤点を回避するだけでも、この一週間でどうにかなるか正直不安だし……。
それに、今日の数学にしたって小テストのやり直しができただけで、今の山本さんの状態で絶対に赤点を取らないかと聞かれれば、素直に首を縦に振ることはできない。教科書とノートを見つつ何回も説明して、ようやく基礎問題が解けるようになったくらいだ。せめて基礎問題くらいは、一人で何も見ないで解けるくらいにはならないとマズい。
だから、英語と科学だけじゃなく、数学も改めて教えてあげた方がいいだろう。
勉強を教えると言った以上は、少なくとも、今回の中間テストで山本さんが確実に赤点を回避できるくらいにはしてあげたかった。
って、何をそんなめちゃくちゃ上から目線で物事を考えてるんだ!? 何様だ俺! そういう感じになるなら、せめて天崎くらい勉強ができるようになってからだろ! や、やばい、よく見ると送ったメッセージも、なんかめちゃくちゃ調子に乗ってるような感じな気がする……!
すさまじくメッセージを撤回したい衝動に駆られるが、もう既読がついてしまっている。その状態でメッセージを削除でもしようものなら、さっきの文章に何か他意があったのかとか、何かしら変な風に思われてしまいそうな気がした。
しかもすぐに既読がついたのに、なかなか、返事が帰ってこないし……はっ!? も、もしかして本気じゃなかったとか!? 勉強を教える話自体が社交辞令だった!? な、なるほど、だとしたら、いつ勉強を教えるとか具体的な日付を決めなかったことにも説明がつく! 勉強教えようかって言われたけど、断るのも悪いからとりあえずその場だけ了承したパターン! それなのに勉強を教えることをいつの間にか確定事項にして、しかも明日から始めるとか言い出した察しの悪すぎる俺に、どうやって断ろうか考えてるからなかなか返事が来ないんじゃないか!?
スマホ片手に、押し入れの前から勢いよくベッドにダイブ。そのままベッドの上でのたうち回る。
ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 空気を読めずに本気にしてしまった自分をぶん殴りたいぃぃぃぃぃぃ! これは恥ずかしい! 恥ずかしすぎる!! ていうか今すぐ死にたい! 猛烈に死にたい!!
「ひぃっ!?」
スマホが震えて思わず悲鳴を上げてしまう。山本さんからのメッセージを知らせる通知だった。
その場限りの話を本気にしちゃうような恥ずかしい男子に対する返答、その内容は――
「…………???」
不安でどきどきしながら震える指でメッセージを確認すると、さっきまであった羞恥や消えてしまいたい衝動を上書きするように、いくつもの疑問符が頭を埋め尽くした。
……えっと? え、なにこれ? どういう意味? な、何を言おうとしてるんだ山本さんは?
山本さんから送られてきたのはスタンプだった。
前に俺が天崎の送った不細工な猫のスタンプ。そのシリーズの中の一つだろう。
不細工な猫がバッキバキの目で大きなピンク色のハートを両手で掲げていた。
うーん……? ど、どういう意図があってこのスタンプ? 全然わからん……そういえば、女子って深い意味はなくてもハートとか使うって、昔、ネットの記事で読んだことあるけど、スタンプでも同じ感じなのか?
いまいちこのスタンプを山本さんが送ってきた理由がわからず、頭をひねっていると追加でメッセージが届く。
『ごめんなさ』
『ごめんなさい』
『スタンブ間違えました』
『スタンプ』
『和紙れてください』
『忘れてください』
どうやら間違ったスタンプを送ってしまったらしい。
なんとなく山本さんが焦ってるんだろうなーっていうのは、こっちが返事をする暇すらなく怒涛の勢いで連続して送られてくるメッセージからものすごく伝わってきた。
なるほど、多分、誤タップとかしちゃったんだろうな。天崎じゃあるまいし、いくらなんでも、山本さんが話の流れとか全く関係ない無関係なスタンプ送ってくるはずがない。いきなり謎のスタンプ送ってくるとか日常茶飯事だからな、あいつの場合。
『お勉強の件ですが、ご迷惑でなければ、明日からお願いしたく存じます』
なんか最後にめちゃくちゃお堅い感じの文章が来たな……で、でもまあ、これで勉強を教える話に山本さんもその気なのがわかったから、よかった……。
どうやらさっき想像したみたいな死にたくなるほど恥ずかしいことをやらかしてはなかったらしい。山本さんが気を遣ってくれてる可能性もあるけど、流石に本気で嫌がってたら、直球かやんわりかはわからないけどお断りするメッセージが届いてただろうし……届いてたはずだよな?
心の底から安堵して大きく息を吐きつつ、だけどやっぱりそんな感じのことを考えてしまって少し不安になりながら、俺は山本さんに『こちらこそ明日はよろしく』と返事を送ったのだった。
ちなみに一年の教科書は押し入れの奥から見つかった。
教科書やノートが入った段ボールを見つけるまでに、昔読んでた漫画やら遊んでたゲームソフトやら色々と見つけてしまい、教科書を無事見つけた後、懐かしい気持ちになった俺は、時間も忘れて漫画を読みなおしたりゲームで遊んだりしてしまうのだった。
やっべえ……今日、まったく自分の勉強してねえ……ま、まあ、テストまでまだあと一週間もあるし? い、一応、山本さんに数学教えたことでテスト範囲の復習もできたわけだから、今日はそれでよしとしておこう!
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