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第六十五話 嫌な予感ほど当たる

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

「……え?」

「えっ!? あっ!? ご、ごめんなさい!? 冗談でしたか!? そうですよね冗談ですよね!? 0点取るようなバカに勉強を教えるなんて罰ゲーム、誰がしたがるんだって話ですよね!? ほ、本気にしちゃってごめんなさい!!」


 想像していなかったまさかの了承に思わず戸惑っていると、山本さんがすごい勢いでネガティブな勘違いを展開し始めたので慌ててフォローする。


「い、いやいや! 冗談じゃない冗談じゃない! むしろ余計なこと言ったんじゃないかって心配になったというか……」

「そ、そんなことないです! わ、私としては願ったり叶ったりと言いますか……本当に中間テストどうしよう……って家にも帰らずただただ途方に暮れていたので……だ、だから、その、勉強を教えてくれるって言ってくれて、と、とても嬉しかったです!」

「そ、そっか、それならよかった……えっと、じ、じゃあ今から始める?」

「た、高原くんさえよければ、ぜ、ぜひ! あ、と、当然、授業料はお支払いしますから安心してくださいね!」

「うん、とりあえず何でもかんでもお金を払おうとするのやめようか?」


 真正面から嬉しいと言われて少し熱くなっていた顔が、急激に冷めていくのを感じる。

 クラスメイトに勉強を教えるだけで金銭が発生してたまるか。

 

「え、で、でも高原くんの貴重な時間を頂いてしまうわけですし……」

「い・ら・な・い! 今すぐ財布しまって筆記用具を出して席に座れ! 山本さんがしないといけないことはテスト勉強! わかったら返事!」

「は、はいっ! 財布をしまって筆記用具を出して席に座ります!」


 これ以上、とんでもないことを言い出されても困るので少し強めに言う。すると山本さんは慌てた様子で勉強する準備を始めたので、内心、ほっとした。

 さっきの謎のサブスクといい、いくらなんでもネガティブ思考が過ぎるだろ……ちょっと心配になるわ……。


「じ、準備できました!」

「よし。じゃあ、とりあえず小テストのやり直しからやってみよう。まずは教科書とかノート見て解きなおしてみてくれ」

「は、はいっ! よ、よろしくお願いしますっ!」


 自分の席に座った山本さんは、一度、勢いよく頭を下げると、顔をあげて真面目に小テストのやり直しを始めた。

 俺も自分の席に座って、隣から山本さんが解きなおしているのを一緒に見る。


 う、うーん、改めて見ても、なんだろう、ひどいとしか言いようがないテスト結果……けど、まさか山本さんがこんなに勉強が苦手だとは思ってもみなかったな……。


 山本さんはいつも本を読んでる大人しい文学少女風の女の子だ。少なくとも勉強ができないようなイメージは俺の中にはなかった。まあ、文学少女のイメージは、あのコスプレ撮影会でだいぶ壊れたけど。


 まあ、勉強ができないって言っても、不真面目とかやる気がないって感じじゃなさそうだけど。


 0点で正解が一切ない答案用紙だが、全部の問題に間違ってはいるが途中式が書かれており、問題を解こうとしたのは一目でわかる。少なくとも、テストを諦めた形跡は見られなかった。


 それに、解きなおしのために小テストと一緒に机の上に開かれているノートも綺麗に取られてるし、教科書にも公式の所にマーカーが引いてあったりする。


 逆に、ここまで真面目に勉強してるのなんで0点になるんだ? 


「あ、あのぅ……た、高原くん……な、何を見ても、い、一問目から解き方がわかりませぇん……」

「お、おぅ、そ、そうか……」


 手を止めて、体をぷるぷる震わせながら今にも泣きそうな顔でこっちを見てくる山本さん。

 想像以上のできなさっぷりに、頬に汗が流れ落ちたのを感じた。


 勉強を教えようかって軽く言ったけど、これはもしかすると、とてつもなく大変かもしれない……が、頑張れ俺! この調子だと、山本さんの赤点は間違いなく俺にかかってるぞ……!


 心の中で気合を入れて、俺は山本さんに向き合うのだった。


◆◆◆

 

 結論から言って、山本さんに勉強を教えるのはとんでもなく苦労した。


 自分はバカだと申告していたが、その度合いは俺の想像のはるか上、ぶっちゃけ何がわからないのかわかってないレベルだった。思わず、どうしてこうなった……と頭を抱えたくなってしまった。


 ただ、教えていく中で、山本さんがどうしてここまで数学ができないのか、その理由は、はっきりとわかった。


 数学なんてものは、基本的に今まで習った内容の応用みたいなものだ。なので1年に習ったことがうろ覚えでは、2年の内容をきちんと理解するのは難しい。


 山本さんは完全にそのパターンだった。

 今回のテスト範囲、その単元のいわば下地になっている1年にやった部分が全くわかっていなかった。


 そりゃこれじゃ、教科書を見ようがノートを見ようが一人じゃ解けないわけだよ……。


 なので、本来なら1年で習ったことの復習から始めたいのだけど、当然だが、今、1年の教科書なんて持ってるはずもないので、去年丸一年分の復習なんて不可能。


 ひとまず1年で習った内容の中から、今回のテストに関係してる部分だけを山本さんに説明して、その後テスト直しをすることにしたのだった。


 まさか、あんな必死に去年の記憶を思い出すことになるとは思わなかった……。


「……で、できました……その、あ、あってますか?」

「ちょっと待って……うん、途中式も間違ってないしケアレスミスもない。正解してるよ」

「や、やった……! ぜ、全部できました……!」


 最後の問題の解きなおしを無事終えて、山本さんは本当に嬉しそうに笑った。


 気づけば、教室に来た時には青かった空もすっかり茜色に染まっている。教室の時計を見ると、あと少しで最終下校時刻だった。


 まあ、一部分だけとは言っても1年の復習からやってたら、そりゃこんな時間になるよな。むしろ、今日中に終わってよかった……教え始めた時、これ終わらないんじゃないか? って本気で思ったからな。


 小テストを両手で持って喜んでいる山本さんの姿を見ながら、なんとかちゃんと勉強を教えられたことに安心する。わからない問題とか出なくて本当によかった。自分から勉強を教えるとか言ったのに、そんなことになってたらダサいにもほどがある。


「あ、あの、高原くん……ほ、本当にありがとうございました!」


 何度もやり直したせいでくしゃくしゃになってしまった小テストを机の上に置いて、山本さんは真っすぐに俺に向かって頭を下げてきた。


「た、高原くんが勉強を教えてくれなかったら、きっと、ううん、絶対、赤点取ってました!」

「い、いや、そんな大げさ――うん、ごめん、間違いなく赤点だったと思う……」


 さすがにあの悲惨なテスト結果を知っているのに、赤点じゃないとは言えなかった。あまりにも白々しすぎる。

 

「は、はい! そ、その通りです! で、ですから私、高原くんにとても、とっても感謝してるんです! こ、このご恩をどうやってお返ししていいかわからないくらいに! な、なので、その……やっぱり授業料を――」

「だからいらないって!? 別にそんな重く考えなくていいから!」

「で、でも――」

「でももしかもない! 塾とか家庭教師でもないんだから授業料なんていらないんだよ! もし何か渡さないと気が済まないんだったら、ジュースとかでいいから!」

「わ、わかりました! ダースでご用意しますね!」

「待て待て待て! そんなにもらっても困るぞ!? 1本でいいんだよ1本で!!」

「そ、そんな!? じ、ジュース1本くらいじゃ、今回のお礼になりませんよ!?」

「なるよ! 友だちに勉強教えたお礼なんてそれくらいが普通だわ!」

「え……」

「あ……」


 ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ話の流れでうっかりものすごく恥ずかしいことを言ってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ていうか、これもしかして、勉強教えたくらいで勝手に自分のことを友だち扱いしてくるキモイ自意識過剰な男子だと思われてしまったのでは!? 


 俺が勉強を教えると言った時と同じ呆けた顔になってしまった山本さんが、今どんな気持ちで何を考えてるのか、ものすごく気になる。


「……お友だちなんですか?」 


 呆けたまま自分と俺を指さす山本さん。


「え、あ、はい、すみません……連絡先も交換してるし、こうやって勉強教えたりもしたので、なんか勝手に友だちみたいな感じに思ってました。そのせいでこの口がついうっかり……あ、あはは、な、なんかごめん……だ、だから、さっき言ったことは忘れてくれると助かる――あ、助かります、すみません……」


 最後、敬語で言い直したのは山本さんが、顔を隠すようにくるっと後ろを向いてしまったから。 

 や、やばい、黙られると顔が見えなくて表情を窺えないのが、ものすごく怖い。


「あ、あのー……や、山本さん?」

「ひゃい!? え、あ、えとえと、そ、その、だ、だだ大丈夫です! ぜ、ぜぜ全然、き、気にしてまません!  わ、わた、私とた、たか、高原くんは、そ、その、お、お、お、おおお、お友だちっ、ですもんね!!」

「全然大丈夫そうじゃないけど!? 文句とか言いたいことがあったら、我慢しないではっきり言ってくれていいから!」

「も、ももも文句だなんてそんな!? か、感謝の気持ちはあっても、わ、私が高原くんにそんなこと思うわけないじゃないですか! た、高原くんのおかげで、ち、中間テストの数学はなんとか赤点回避できそうなんですし!!」

「いやそれと今の話は関係な――ちょっと待って山本さん。もしかして今、数学は、って言った?」


 ちょっとした言い方にひっかかりツッコむと、まるで暴走している時のような興奮気味の大きな山本さんの声が、ぴたり、と止まった。


 おいおいおいおい待て待て待て待て、猛烈に嫌な予感がするんだけど……!?


 そのリアクションに頭の中で繰り広げられていたネガティブな想像が一瞬で消え、代わりに、できれば当たって欲しくない、ある想像が浮かんでくる。

 

 山本さんは何も言わず、ゆっくりと俺の方を振り向いた。そして、彼女の顔が見えた瞬間、俺はすべてを察してしまった。


「……今回の赤点は英語と科学だけで済むかもしれないです」


 わからない問題が解けて嬉しそうに笑っていた山本さんはどこへやら、窓から差し込む夕日に照らされながら、彼女は死んだ目で儚げに笑っていた。嫌な予感が的中して、思わず両手で顔を覆いたくなってしまう。


 中間テストって言われただけであんなに絶望してた意味がようやく理解できたわ……絶望的にヤバい科目が数学だけじゃなくて何個もあるなら、そりゃあんな感じになるよな……。


 教室がこんなにも静かなせいだろうか、遠くで鳴くカラスの声が妙に大きく聞こえたのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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