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第七話 見栄と始まり

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 恋愛において、ある程度の見栄は必要なことだ。

 自分をより良く見せたい、好きになって欲しい、そのためにカッコつけたり見栄を張ることは決して悪いことではないし、そう思ってもらうために努力することは、むしろ大切なことだろう。それだけでなく、他人から軽く見られたりしないためにも、無理のない範囲で、ある程度の見栄は張っておいた方がいい気がする。

 要は、見栄に限らず、良いイメージを相手に抱かせる努力が大事ということである。人間の印象は第一印象でほとんど決まると聞いたことがあるし、外見の他だと、その人の評判を聞いてどんな人物なのかを判断することが多いはずだ。

 しかし……悲しいかな、第一印象や評判が良い場合でも、それが全く当てにならない場合があるのだ。

 例えば、成績優秀、容姿端麗、人柄もよく男女問わず人気のある生徒会長、そんな完璧に見える人間の実態はというと、土下座で謝罪はするわ、脅迫はしてくるわ、挙げ句の果てには調子に乗りすぎてまた土下座謝罪することになるわ……それはそれはとんでもない正体を見せつけられてしまったわけで。とりあえず、そんな今までの流れを踏まえて言わせてもらいたいーー


「恥ずかしくないの?」


 邪神呼ばわりしたことを、何とか土下座謝罪で許してもらった天崎。何故かやり切った感のある表情で立ち上がった彼女に対して、俺の口から真っ先に出たのはそんな言葉だった。

 

「え? 何が?」

「何がってお前……そんな気軽に土下座するのは……」

「あはは、土下座して神さまに許してもらえるならいくらでもするよ。何なら靴も舐めるよ!」

「もういいわかった、俺が悪かったからこれ以上、俺の中のお前のイメージを壊すんじゃない」


 また余計なこと言って神さま怒らせても知らんぞ。

 あと、この短時間の様子から察するに、こいつは割と有言実行のタイプだろうから、ないとは思うけど、場合によったら本気で靴を舐めそうな気がして恐い。天崎の隣に浮いている神さまが、少し怯えた感じで天崎から距離を取ったのはどういうことなのかは、深く考えないでおこう。


「まあまあ、落ち着いて。これから同じ生徒会仲間として長い付き合いになる相手に見栄張っても仕方ないでしょ? ね?」

「ね? じゃねえよ。何勝手に生徒会に入ることになってんだこら。さっさと何で俺を巻き込んだのかきちんと説明をーー次、土下座したら即帰宅するからな」


 自然な流れで土下座ムーブに入ろうとするんじゃないよ。

 

「まったく、ちょっとしたお茶目くらい許してよ。わたしだってそんなぽんぽん土下座するわけないでしょ、もう」

「ここまで説得力のない台詞初めてだわ」

「失礼な! ちゃんと場所と相手は選んでるもん!」

「そもそも土下座するなって話なんだよ、わかれよ」

「…………この件に関してはまた後で話すとして、とりあえず高原くんのこと説明するね?」

「いやお前……うん、まあいいわ。説明頼む」


 こいつにとっての土下座がどんな物なのか非常に気になったが、これ以上掘り下げたらヤバい気がしたのでスルーすることにした。

 天崎は姿勢を正して椅子に座り直すと、こほん、と咳払いを一つ。俺を巻き込んだ理由を話し始めた。


「高原くんを巻き込んだ理由はね、さっきも言ったけど神さまが指名したからだよ」

「なるほど」

「うん」

「…………」

「…………」

「え、終わり? 指名した理由とかは?」

「知らないよ?」

「そこ一番大事なところじゃねーか! お前何も知らないのに俺を生徒会に入れようとしてたの!?」

「神社の巫女が邪しーー神さまに逆らえるわけないでしょ!? それに理由なんてどうでもいい! 1人で生徒会をしなくて済むなら! えへへ、仲間がいるって素敵だよね?」


 邪神はお前だと言ってやりたいような笑顔の天崎。

 こいつ……ただ道連れが欲しかっただけか! 

 ダメだ、天崎は話にならない。もう直接神さまに聞くしかなさそうだ。

 おそらく神さまも、自分が説明した方がいいと思ったらしい。申し訳なさそうな表情になり、持っているプラカードに文字が浮かび始めた。


『巻き込んじゃってごめんね高原くん〜。でも、私が高原くんを指名したのは本当のことなんだよ〜。きみも縁に問題がある子だから〜』

「えっ!?」


 まさかの事実だった。

 思わず立ち上がって呆然としていると、天崎が隣にやってきて優しく微笑んできた。


「仲間がいるって……素敵だよね!」

「やめろ! えっ!? ちょ、ちょっと待って下さいよ? 縁に問題ってことは、さっき天崎が言ってた一生独身ーーもとい童貞の可能性があるってことですか!?」

『だ、大丈夫だよ〜。たしかに問題はあるけど、日縁ちゃんとは違う形だから安心して〜。その、一生ど、どーてー、にはならないから〜』

「よ、よかった……」


 顔を赤くして恥ずかしそうしている神さまの言葉に、心の底から安心した。

 隣の天崎はものすごく残念そうな顔をしていた。気持ちはわからなくもないけど、ちょっとは隠せよ。


「はーい、せんせー。じゃあ、高原くんの縁にはどんな問題があって、どんな幸せな未来が待ってるんですかー」

「お前、そんな露骨にやさぐれなくても……」

「何よ! 未来が一生処女の可能性があるわたしに比べたら幸せでしょ!?」

「すまんかった」

「謝るなー! 謝るくらいなら生徒会に入ってよぉ! 問題があることに変わりはないんだからさぁ〜!」

「そうなんだろうけどさぁ……」


 涙目でポカポカ叩いて来る天崎に、神さまの方を指差してやる。


『ごめんね〜。約束があって高原くんの問題は教えられないんだよ〜。でも、一生独身にはならないから、安心していいよ〜』

「神さまから一生独身じゃない保証が出てるなら別にいいかなって」

「ちょっと神さま!? で、でもあれだよ? 独身じゃない=幸せってわけでもないよね? ね?」

「いやまあ、そう言われたらそうだけどな」

「だよね!?」


 天崎の言う通り、独身じゃないから幸せってわけでもないし、逆に独身でも幸せな例はいくらでもある。

 それにしてもさっきから天崎の圧がすごい。


「あのー神さま? そこの所はぶっちゃけどうなんでしょうか?」

『大丈夫、可愛くて性格も良い素敵な子と一緒になるから安心していいよ〜』

「……天崎、生徒会の話だけどーー」

「ダメ」

「いや、だって神さまがーー」

「ダメ」

「これ別に問題とか放置してもーー」

「ぜっっっっったいに、逃がさないからね!!」

「ちょ!? 離れろこら!」


 言葉の通り、俺を逃がさないためか全力で抱きついて来る天崎。天崎の柔らかい感触と、背丈の関係上、ちょうど下腹部に天崎の大きな双子山が押し付けられている。

 こ、これは非常よろしくない! 

 焦る俺を天崎の追加攻撃が襲った。

 天崎が俺を見上げてくる。涙目で縋るような顔の上目遣いだった。


「一人だけ幸せになんて……させない!」

「最低か!」

「うるさいよ! こんなの認めないもん! 同じ問題児なのにこんな格差とかおかしいよ!」

「いや、それはそうかもしれないけど!」

「自分だけ幸せならそれでいいの!? 高原くんのせいで、一人の女の子が一生処女になっちゃうんだよ!?」

「その言い方やめろ! ていうか普通に神さまの手伝いしたら何とかなるんだろ!? だったらーー」

「一人で生徒会活動なんてヤダ! 面倒だし、寂しすぎるもん!」

「たしかにな! それは俺も嫌だわ!」

「だったら手伝ってよぉ! わたしに出来ることなら何でもしてあげるからぁ!」

「わかった! わかったから離れろ! とんでもないこと口走るんじゃねえ!」


 こちとら色んな意味で限界ギリギリなんだよ!

 何とか天崎に離れてもらうことに成功する。

 天崎じゃないけど、生徒会活動なんて面倒なことはしたくないが、一生がかかった問題を解決しないままなのは怖すぎる。いくら、神さまが可愛くて性格も良い子と一緒になると言っていてもだ。というか、それが一番、信じられない。彼女いない歴=年齢で、一度もモテたことのない俺に、そんな未来があるとか……ねぇ? 問題を無視するにはリスクの方が高そうだった。それにーー


「いまわかったって言った? 言ったよね? 神さまも聞いたよね? 言質とったからね? あ、念のために録音しておきたいから、生徒会に入るって、言ってくれる?」


 天崎の事情を知ってしまった以上、それを無視するのは寝覚が悪いし、そして何より、天崎日縁という、外側は完璧に見えて、中身はとんでもないポンコツ風味の女の子を放って置けないと思ってしまった。なんかこいつ見てると、何故か心配になるんだよなぁ……何でだろ。


「ねえねえ、ほらほら、早く言ってよ? は〜や〜く〜」

「ええい、鬱陶しい! スマホを押し付けて来るな! そんなことしなくても大丈夫だから! ちょっとは信用しろ!」

「信じてるよ? でも念には念を入れるよ? ここが一生処女かどうかの別れ目だもん」

「わかった。わかったから、それ以上喋るな」


 この後、天崎は録音データという言質を手に入れ、俺は生徒会に入る書類を書いて生徒会役員になった。そして神さまは、何故か楽しそうな様子で俺たちを見ていたのだった。


「これから一緒に頑張ろうね高原くん。打倒! 一生童貞&一生処女!」

「そのスローガンは絶対に認めないからな!」


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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