第六十三話 私はバカです
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「こ、この度は大変ご迷惑をおかけして……ほ、本当にすみませんでした……っ」
謎の暴走からようやく落ち着いた山本さんは、本当に申し訳なさそうに深々と頭を下げてきた。
めちゃくちゃ落ち込んでるのが、声や態度からはっきり伝わってくる。
「うぅ……せ、先月もご迷惑をおかけしたばかりなのに、ま、また私はこんなこと……ど、どうやって償えばいいですか……!?」
「い、いやいや償いとかいらないから! 別に何か嫌なことされたとか、問題が起こったわけでもないし!」
一方的に全裸土下座されそうになっただけだ。うん、言葉にすると字面がとんでもないな。
もし、あの状況を誰かに見られたら間違いなくマズかったけど、幸い、テスト前で学校に残ってる生徒も少なかったおかげで、そんなことも起きなかったし。
事情を知らない誰かが見たら、抵抗する山本さんの服を俺が無理やり脱がそうとしてるみたいにしか思われなかっただろう。もし誰かに見られたら、放課後の人気のない教室でクラスメイトを襲おうとした男子生徒として、学校生活どころか最悪、人生が終わりかねない。
あれ? そう考えると結構な迷惑をかけられたような……? い、いや、まあ、結果的に何事もなかったわけだし別にいいか。山本さんも本気で申し訳ないと思って謝ってくれてるんだから。
「ただ、急に全裸土下座とか言い出してびっくりはしたけど……」
「お、お願いしますそのことは忘れてください!! ああぁぁぁぁぁぁぁ……ど、どうしてあんなこと言っちゃったの私……うぅ……恥ずかしくて死にたい……」
勢いよく顔をあげたかと思うと必死にお願いしてくる山本さん。涙目で顔を真っ赤にしていた。
うん、まあ、いったい何が原因で暴走したのかはわからないけど、クラスメイト相手に全裸土下座なんてとんでもないことをやらかしそうとしちゃったわけだし、そりゃそんな反応になるわな。
「ち、違うんですよ!? た、たまたま昨日読んだ漫画にそんなシーンがあったんです! そのインパクトがすごすぎて、きっとそれが頭に残っちゃってて、うっかりさっきテンパった時に出ちゃっただけなんです! け、決して普段から高原くんにぜ、ぜぜぜ全裸土下座するなんてち、ち、痴女みたいなこと考えてるわけじゃないですから!?」
「まだ何も聞いてないし、そんなこと、これっぽっちも思ってもないけど!? ……まあ、普段からどんな漫画読んでるのかは、ちょっと気になったけど」
「………………」
「うん、この話やめようか!」
それ以上赤くなる余地があったのかと思うくらい、さらに顔を紅潮させた山本さんが本格的に泣きそうな顔になったので慌てて話を打ち切った。
普段から何を読んでるとかプライバシーだもんね! そこを無遠慮に聞くなんてデリカシーがなさ過ぎだぞ俺! いやぁほんと申し訳ない! わかんないけど、きっとギャグマンガだろ! ギャグなら全裸で土下座とかありそうだもんね! よしこの話終わり! さっさと話題変えよう!
「そ、そう言えば! 山本さんは教室で何してたんだ? 見た感じ、テスト勉強してたわけでもなさそうだけど」
「――――」
そんな質問をした瞬間、顔を赤らめて恥ずかしがっていた山本さんが、突然、さっき教室に入った時にしていた、一切の感情を失った何もかもに絶望している表情になった。
「急にどうした!? え、もしかして、何かまずいこと聞いちゃった感じ!?」
「……い、いえ、そ、そんなことはないですよ?」
「いや絶対そんなことあるだろ!? 朝もそんな顔してたけど、いったい何があったの!?」
「……そ、そんな顔とは?」
「なんだろう……世の中の全てに絶望してる感じ?」
「あ、あー……そ、そんな顔してたんですね私……すみません、ただでさえ普段から根暗な私がそんな顔してたら見てて気分が暗くなっちゃいますよねごめんなさいすみませんこんな意志の弱いバカでアホでダメなバカ人間で本当にごめんなさい全裸土下座なんてとんでもなくエッチなことをしようとした私なんて痴女どころか変態ですよねどうぞ変態女とお呼びください」
「怖い怖い怖い! 急にアクセル全開で闇堕ちするのやめて!?」
暗い目になり無表情かつ早口でしゃべる姿が、とんでもなく怖かった。
バカって二回言ったなとか、全裸土下座をエッチなことって思ってるのかとか、色々ツッコミどころがあったけど流石にスルー。そんなどうでもいいことを今の山本さんにツッコむ勇気はないし、何よりもそんなことよりはるかに気になることがあった。
「本当に何があったんだ……? 今日の山本さんはちょっとおかしいぞ? さっきも話しかけたら、急に全裸土下座とか意味の分からないことしようとするし……」
「そ、そのことは忘れてくださいってお願いしたじゃないですか! あ、あんなこと言っちゃったのは、うっかり変なタイミングで出ちゃったため息で、高原くんに不快な思いをさせちゃってたらどうしよう!? って焦っちゃっただけですから!」
「は!? 何だその理由!?」
気にしいにもほどがあるっていうか、そんな焦るようなことでもないだろ!?
「だ、だって! 高原くんみたいなクラスカースト上位の人に、うわぁ、この変態女、話しかけたらため息つきやがったよ、顔もブスなら性格までブスとか終わってんな……みたいに思われちゃったら、次の日から怖くて学校に来れなくなっちゃうじゃないですか!!」
「誰がそんな酷いこと考えるか!? そもそも俺カースト上位じゃないし!」
「い、いやいや! ど、どう考えても上位じゃないですか!? い、いつもクラスで伏見さんや五位堂くんと仲良くしてますよね!?」
「確かにそうだけど、それはあいつらが幼馴染だからだよ! 逆にそれ以外の上位カースト連中と俺が絡んでるところ見たことあるか!? ないだろ!? クラスで人気があるか!? 一切ないだろ!? カーストの頂点に君臨してるゆーちゃんや竜也と一緒にいることが多いから、そんな風に見えてるだけなの!! 俺なんて二人のオマケみたいなものなの! だから俺単体のことなんて誰も気にしてないし見向きもしてないだろ!? 俺が一人の時、上位カースト連中と仲良くしてることが一度でもあったか? 答えはNO! 圧倒的にNO! 俺は悲しいくらい上位カーストではない! わかったら返事!!」
「は、はい! と、とってもよくわかりましたごめんなさい!!」
山本さんのありえない勘違いに、謎のテンションになって早口で捲し立ててしまう。
俺が言ったことをきちんと理解したらしく、慌てた様子でこくこくと何度も頷く山本さんに満足した気分になった。
まったく、俺がカースト上位だなんてそんなことありえないんだっての。あれ、何でだろう、正しい事実を伝えることができたのに、何故かすごく悲しくなってきたぞ? マズい、山本さんじゃなくて今度は俺が闇堕ちしそうだ……。
「……ていうか、そんな俺の悲しい感じなんて、隣の席なんだからいつも見えてただろうに、なんでカースト上位なんてとんでもない勘違いしたの?」
「み、みみみみみみみ見てません!? け、けけけけけけ決していつも高原くんのことを見てたりなんてしてませんから!?
「な、何そのオーバーなリアクション? え、まさかとは思うけど――」
「見てません! 今まではこれっぽっちも高原くんのことは視界に入れてませんでした! はい! で、ですからそんな勘違いをしてしまったのかもしれませんねそうですこれはもう本当に仕方ありません! 今後はこんな勘違いしないようにちゃんと高原くんのことを見ておきますね!」
「あ、は、はい、わかりました」
またもや早口で言う山本さんの圧に負けて、何も言えず敬語で頷いてしまう俺。
さっきとは違い、顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせながらものすごく焦っている様子なので、闇落ちした怖い感じではなかったけど、それでも迫力がすごい。なんというか、山本さんってテンションの落差がすごいというか、ものすごく感情が豊かだよな。
「あ、み、見ると言っても変な気持ちや邪な気持ちじゃなくてですね、純粋、そう! 穢れなきまっさらで純粋な気持ちですから安心してください――って違うんです! 間違えましたそうじゃないですよねそもそも勝手に俺のこと見るなって話ですよね許可なく無断で高原くんのこと見ようとしてごめんなさい!! げ、月額いくらお支払いすれば高原くんを見ることを許していただけますか!?」
「そんなふざけたサブスクがあるか!? 財布しまえ!」
スカートのポケットから財布を取り出し、お札を取り出そうとした山本さんを即座に止める。
きっと今、誰かが教室に入って来たら、完全に俺が山本さんからカツアゲしてると思うことだろう。
こんな短時間に二度も見られたらヤバい勘違いをされる状況に巻き込まれるとは夢にも思わなかった。
俺も竜也にネガティブだの変な想像をし過ぎだの言われるけど、山本さんは俺以上だな……あと本気度がすごい……さっきの全裸土下座の時も、本当にやろうとしてたし。
これが天崎だったら、5万でいいぞ、とかふざけたこと言えるんだけど、今そんなこと言ったら、山本さんは本当に5万渡してきそうな気がする。
「え、で、でも……」
「し・ま・え! どうしても何か支払いたいんだったら、朝とさっき教室で何であんな死んだ顔してたのか理由を教えてくれればそれでいいから!」
「……お、お金じゃダメですか?」
「そこまでして言いたくない事情なのか!?」
そこまでして隠そうとすることって相当だろ!? ヤバい、これもしかしたら下手に首ツッコまない方がいい感じのやつなのでは?
「で、でもそうですよね……さ、さっきからずっと高原くんも聞きたがってたみたいですし、わ、私が少し恥ずかしいのを、が、我慢すれば済む話ですよね……!」
今更になって、もしかするととんでもないことを聞かされるんじゃないかと心配になった俺を他所に、山本さんはポケットに財布をしまうと、覚悟を決めたよう俺のことを見つめてくると、震える声で言った。
「わ、私っ……バカなんです!!」
………………はい?
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