第六十二話 時には遊びに行った方がいいこともある
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「わたしはさっそく自由な放課後を満喫するつまりなんだけど、高原くんはこれからどうするの?」
生徒会が休みになったので、俺たちはそのまま解散する流れになった。
生徒会室の鍵を閉めながら、天崎がそんなことを聞いてくる。生徒会室前の廊下は俺たち以外誰もいないせいか、生徒会室の外だというのに素の状態で話しかけてきた。
「んー……とりあえず図書室でテスト勉強してから帰るかな」
「真面目〜別にそこまで切羽詰まるような成績じゃないんだから今日くらい休めばいいのに。ていうか休もうよ〜一緒に遊びに行こうよ〜テストまで、まだ一週間もあるんだから、一日くらいサボっても大丈夫だって〜」
「そうかもしれないけど、今回は余裕を持って勉強しておきたいんだよ。二年になって最初のテストだし、それに、さっき天崎が言ったみたいに、生徒会役員が赤点は流石にまずいからな」
「ほんとに真面目だなぁ。でも、そういうことなら了解。生徒会室の鍵もわたしが返しておくから、このまま図書室に行っちゃっていいよ」
「ありがとな。けど、なんか色々と悪いな。遊びに誘ってくれたり、鍵のこと任せたり」
「あはは、友だちなんだから、そんなこと気にしなくてもいいの! ほらほら、勉強するつもりなんだったら、早く行かないと図書室の席埋まっちゃうよ? うちの図書室って狭いし、そうなったら立ったまま勉強することになっちゃうぞ~」
「ははは、もしそうなったら素直に家に帰って勉強することにするわ。んじゃ、またなー」
「うん、またね。テスト勉強、頑張ってね~」
そうして笑顔の天崎に見送られながら、俺は図書室へ向かったのだった。
◆◆◆
まさか天崎の言った通りのことが起きるとは……。
図書室にやってきたが、時すでに遅し。いつも放課後は、ほとんど人がいない図書室は、テスト勉強をする生徒であふれかえっていた。当然、座席も机もすべて埋まっている。
まさか天崎が言ったように立ったまま勉強するわけにもいかないので、図書室で勉強するのを諦めた俺はそっと図書室の扉を閉めたのだった。
さあて、これからどうするかな。天崎に言ったみたいに素直に家に帰って勉強するのが一番なんだろうけど、家に帰ったらだらけるような気しかしないんだよなぁ……うちの教室が空いてたらそこでやるか? この肩透かしをくらった状態で家に帰っても、絶対だらけて勉強しない気しかしないし。勉強に関するやる気やモチベーションは、熱しにくく冷めやすいものなのだ。
ただ、天崎に勉強すると言って遊びの誘いを断った手前、今日はちゃんとテスト勉強しないと、嘘をついたみたいでなんだか気持ちが悪いので、俺は図書室に背を向けて自分の教室を目指して歩き始めた。
うーん、こんなことになるなら天崎と一緒に遊びに行けばよかったかも。余裕を持って勉強したいのは本心だけど、ぶっちゃけ、そこまでがっつり勉強しなくても赤点回避ぐらいはできそうだし。
そんな感じでさっきの天崎の誘いを断ったことに、少し後悔しながら歩いていると、あっという間に教室にたどり着く。図書室とうちの教室は別の校舎にあるが、同じ階にあるので渡り廊下を使えば、すぐに到着するような距離だった。
お、よかった、開いてる。これで閉まってたら、本格的に今日はもう勉強する気が起きなくなってたかもしれない。さぁて、面倒くさいけど勉強するか。とりあえず今日あった数学の小テストのやり直しでも――
なんて考えながら扉を開けて、固まってしまう。
静かな教室には一人の生徒が席に座っていた。
その人物とは今日俺が気にしていた隣の席の女子生徒こと山本さん。
他のクラスメイトが誰もいない教室で、彼女はたった一人、自分の席に座っていて、しかも朝のホームルームに見たのと同じように、この世の全てに絶望した顔をしていた。
山本さんがゆっくりと俺の方を見てくる。完全に目が死んでいた。
「あ……高原くん……どうしたんですか?」
いやテンション低っ!? 今にも死にそうな声なんだけど大丈夫!?
「え、えっと、テスト勉強しようと思って図書室に行ったんだけど、人でいっぱいだったから教室でやろうと思って……」
「そうなんですね……テスト勉強……はぁー……」
何か重苦しいため息と一緒にものすごい闇をまとい始めた!? 相変わらず顔が死んでるし!
「あ、ご、ごめんなさい! い、いまのため息は決して高原くんに対してやったものではないんです! わ、私が勝手に自分のダメすぎる部分を改めて実感しちゃって、そんな自分にほとほと嫌気が差しちゃって、それでうっかり口から出たと言いますか……ど、どどど土下座すれば許してくれますか!?」
「い、いらないいらない!! 別に気にしてないし、土下座とかしなくていいから!」
困惑していると、山本さんは慌ててさっきの自分の行動の説明をして、何故か土下座しようとしたので必死で止める俺。
なんか急に暴走モードになったな!? 天崎じゃないんだから、ぽんぽん土下座しようとするんじゃないよ! ほんと何があったの!? 暴走してても山本さんって、そんな感じのこと言う子じゃなかっただろ!?
唐突な暴走モードに引き続き困惑する俺を他所に、山本さんの暴走はどんどん加速していく。
「そ、そうですよねただの土下座じゃダメですよね!? 本当に、も、申し訳ない気持ちがあるなら、ぜ、ぜぜぜぜ、全裸で土下座しないと!! こ、この前読んだ漫画にもそう描いてありましたし!?」
「誰もそんなこと言ってないし、そんなバカみたいな話があるか!! ほんといったん落ち着け!!」
「わっ、わわわわわ私っ! ぬ、ぬぬぬぬぬ脱ぎましゅ!!」
「おいやめろバカ!? とにかく落ち着け!!」
「ご、ごご後生ですから放してください! わ、私は高原くんにぜ、ぜぜぜ、全裸土下座をしないといけないんですっっ!!」
涙目で顔を真っ赤にして、震える手でブレザーのボタンを外し始めた山本さんを問答無用で押さえると、結構な力で抵抗されてしまう。
なんでそこまで全裸土下座しようとするんだよ!? そもそも本当に申し訳ない気持ちがあるなら全裸土下座とか発想がヤバすぎるわ! 焼き土下座ならともかく! いや焼き土下座でも十分おかしいわ!! てか普段、どんな漫画読んでるんだ山本さん!?
結局この後、山本さんの暴走モードが落ち着くまでには割と時間がかかり、その間、俺は必死で山本さんを物理的に押さえ続けることになるのだった。
ただテスト勉強しようと思っただけなのに、何でこんなことになってるんだよ!? ちくしょう、こんなことになるなら天崎と一緒に遊びに行ってればよかった……。
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