第五十六話 二人三脚で動くのは難しい
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
周囲から浴びせられる多大な視線や、隣から感じるゆーちゃんの女の子らしさに精神を削られながら始まった二人三脚ドッジボールだったが、やってみるとかなり難易度が高い。
まず最初に、そもそも二人三脚の状態で逃げ回ることがめちゃくちゃ難しいというか、満足に歩いたり走ったりすることすらできない。普通に転びそうになるのは当たり前、ボールが飛んできても俺とゆーちゃんの避ける方向が同じじゃなかったらお互いにつんのめって倒れてしまう。
さっきまで競技をしていた3年生の先輩たちが、肩をがっしり組んで行動していた意味が痛いほど分かった。
次に、仮にボールを持てたとしても、上手く投げることができない。
二人三脚の状態でボールを投げるための助走なんて簡単にできるわけもなく、結果、腕の力だけで投げることになってしまう。当然、そんな投げ方だとスピードも精度も欠けるので、いくら相手が自分たちと同じ二人三脚状態とは言え、簡単に当てることはできない。
そして最後、さっきから相手チームがめちゃくちゃ俺のことを狙ってくる。理由は……まあうん、なんとなくというか、はっきりわかってるけど――
「アイドルトイチャツクヤツハシネェェェェ!!」
「あっぶねぇ!?」
何とか上半身を逸らして、相手チームの男子が投げたすさまじいスピードのボールをぎりぎりで躱す。腕の力だけで投げてるはずなのに、なんでそんな玉が投げられるんだよ!? ていうか、普通に俺の顔面狙ってきやがったなこいつ……!
顔面セーフのルールがあるのに、わざわざそこを狙ってきたってことは、得点より俺にダメージを与えることが目的で投げたんだろう。聞き間違いじゃなかったら死ねって言ってたし。
「ヨケルナァ……!」
「ウラヤマシィ……!」
「ソノミヲササゲヨォ……!」
「ダイショウヲシハラエェ……!」
恐い恐い恐い!! さっきからお前ら恐えよ!!
俺にヘッドショットを決めようとした男子生徒だけでなく、相手コートの男子生徒全員の口から、まるで呪いが込もったような声が漏れ出ている。試合が始まってからずっと、バスケの時と同じように、相手チームの男子生徒は全員、こんな感じで嫉妬に狂った状態になっていた。ペアを組んでる女子生徒に、自分たちがものすごく引いた目で見られてることに、あいつらきっと気づいてないんだろうな。
ゆーちゃんと組む時に、こんなことが起きるような気はしてたけど、まさかここまで、がっつり男子どもが豹変するなんて思いもしなかった。
まさか今日一日で、理性を失った化け物にこんな頻度で狙われるような目に遭うとは……いや、お前らの気持ちもわかるよ? けど、そこまで露骨に攻撃してくるか普通!? 俺に当たる分にはいいけど――いやそれもよくないんだけど! もしゆーちゃんに当たったらどうするつもりだお前ら!
さっきから俺めがけて飛んでくるボールは、間違っても女子に投げるような玉の速度じゃない。
万が一にもゆーちゃんに当たることだけは絶対に防がないといけなかった。
今のところは運良く避けられているけど、これから先、下手に動くとゆーちゃんにボールが当たってしまう可能性も十分にある。
いい加減、覚悟を決めろ俺! ゆーちゃんとくっつくのが恥ずかしいとか、そんなことをしたら周りからもっと注目されるんじゃないかとか、そういうことを四の五の言ってる場合じゃないぞ! ここからはゆーちゃんの身の安全を第一に行動するしかない! たとえそれが原因でメンタルが粉砕しようが、せっかくゴールデンウィークを挟んで落ち着いていた噂が再燃したとしても! まあ、ぶっちゃけ午前中のバスケのおかげで、噂に関しちゃまた盛り上がるような気がしてるから今更なんだけどな!!
「ひゃっ!?」
「ごめんなさいすみません許してくださいお願いします」
意を決して左腕を伸ばしてゆーちゃんと肩を組んだら、驚いたような声をあげられたので即謝罪する。いやいくら幼馴染だからって言っても、せめて一声かけてから触れろや。こういうところがデリカシーがないって言われるんだぞ俺!
「あのこれは違うんですよほらこうやって近づいてないと動きにくいし上手くボールも避けれないと言いますか、何かあった時にゆーちゃんをかばえないと言いますか、つまりはいわゆる善意による行動でしてやましい考えは全くないわけですごめんなさい、だからセクハラで訴えるのだけは勘弁してください!」
「そんなことしないよ!? ちょっとびっくりしちゃっただけだから気にしないで。うん、確かに、空ちゃんの言う通り、近づかないと動きにくいよね。で、でも私たちの身長差だったら肩を組むより、もっといい方法があると思うんだけど……試してみてもいいかな?」
「どうぞどうぞゆーちゃんのお望みのままに……! いきなり肩に触るなんてセクハラまがいのことをした俺に何も言う権利はないので……!」
けど、俺とゆーちゃんってそこまで身長差もないし、肩を組むのが一番だと思うんだけどな。もしゆーちゃんが、天崎くらい背が低かったら話は違うけど。一体どんな方法なんだろう?
「も、もう、気にしないでって言ってるでしょ。それじゃあ空ちゃん、いったん気を付けの姿勢になってくれる?」
「はい! 気を付け!」
ゆーちゃんの肩から手を離して、びしっと直立不動になる俺。
ゆーちゃんは少しだけ俺のことをじっと見てきたかと思うと、
「そ、それじゃあ、し、失礼します……!!」
「ほわぁっ!?」
なんと俺の左腕を手に取って、そのままぎゅっと抱きしめてしまった!
瞬間、周りから物凄い勢いで男子生徒の悲鳴と女子生徒の黄色い声が上がる。
ちょちょちょちょちょちょ!? な、ななななな何やってんのゆーちゃん!? これもう完全に腕組んでるよね!? やばいやばいやばいこれは絶対あかん感じの誤解が生まれてしまう!! もうこんなの彼氏彼女くらいの関係の男女しかしないようなやつだもん!!
あばばばばばばばばばばばゆーちゃんのアイドル生命がマッハでやばいことにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! ついでに俺のリアル生命もヤバいことになっちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅ!! だって相手の男子生徒の顔がヤバいことになってるもの! 能面みたいな無表情になってる!!
色んな意味で危険すぎるゆーちゃんの行動に頭がパニックになりながらも、この状況を続けるのは極めてよろしくないことはわかるので、腕をゆーちゃんから放そうとするが――
「んっ!」
柔らかい柔らかい柔らかい温かい温かい温かい!! ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ちょっとなんで力込めてくるの!? ものすごいゆーちゃんの感触がががががががががががが!?
逃がさないとばかりに抱き着く力を強くするゆーちゃん。
ただでさえ、さっきから左腕が物凄い感じの状態で包まれているのに、よりそれが強烈というか鮮明になってしまう。
「さ、さあっ空ちゃん! し、勝利目指して、い、一緒にが、頑張っていこうね!!」
ゆーちゃんが恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながらそんなことを言う。
まさかのこの状態で続行する気!? もう勝負どころじゃない雰囲気だよ!?
「高原くん」
ざわついてものすごくうるさい状況なのに、その声は不思議とはっきり聞こえた。
声がした方を見ると、そこにはボールを持ってこちらをじっと見ている天崎の姿。
「先ほどのボールはコートの外に出たので、これは高原くんのクラスのボールとなります」
会長モードで淡々とそう言うと、こっちに向かって山なりにボールを投げてくる。
あ、ありがてえ! この空気の中、よく言ってくれたな天崎! この件をネタにして、後でめちゃくちゃ俺をいじるつもりなんだろうけど、今は感謝しておくぞ!! それにしても相変わらず、会長モードの時のメンタル強いな……空気をぶち壊すというか、流れをぶった切ることに一切、抵抗とかないの――!?
「では、試合を再開してください」
え!? 何事!? 声の顔もいつも通りのはずなのに、なんかめちゃくちゃ恐い雰囲気というか、ものすごいプレッシャーが出てるんだけど!?
穴が空くほどというか、むしろ俺に穴を空けるつもりなんじゃないのかって突っ込みたくなるくらい、じーーーーーーーーーーーーっとものすごい圧を発しながら見てくる天崎。
そしてその行為は、試合が再開してからも続けられ、それどころか、何故かそれ以降の全ての試合でも、俺はそんな天崎に見られながら二人三脚ドッジボールをすることになったのだった。
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