第五十五話 二人三脚って意外と距離が近い
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
3年生の試合が終わり、思いの外早く、俺たちのクラスの試合がやってきた。
コート内に立つと、周りで観戦している生徒の人数が、想像以上に多く感じてしまう。そしてめちゃくちゃ見られてるのが物凄くわかる。
視線視線視線! バスケの時なんかとは比べ物にならないくらいの量の視線が突き刺さってくるぅ!! もう無理しんどい今すぐ家に帰りたい!
まだ試合も始まってないのに、すでに心が折れそうな俺だった。
「なんだか辛そうな顔だけど、大丈夫、空ちゃん?」
そんな情けない俺とは違い、周りの視線なんてまったく気にした様子もなく、それどころか俺を気遣う余裕すらあるゆーちゃん。そのメンタルの強さをちょっとでいいから分けて欲しい……!
やっぱり、こんなに注目されてるのって、間違いなくゆーちゃんと組んでるからだよな……あぁ……自分で選んだこととは言え、こんな見られるとか想像してなかったぞ!?
結局、俺がペア相手に選んだのはゆーちゃんだった。というか特別競技に出る面子が決まったあの日から、ずっとゆーちゃんと組もうと思ってたんだけど。
ほとんど話したことのない女子と組むなんて、ゆーちゃんと組んで目立つよりヘタレの俺にはきつい。人見知りってわけじゃないけど……ほら、うん、相手の女子に嫌そうな顔とかされたらめっちゃ傷つくし……幼馴染で仲のいいゆーちゃんだったらそんなことはないだろうと思ったから……。
そしてついさっき、今まで一緒に学校行事をしたことがない、ってゆーちゃんから聞いて、他の人とペアを組むという選択は俺の中で完全になくなった。一緒に楽しみたいっていうゆーちゃんの気持ちを大事にしたかったし、何より、俺もゆーちゃんと一緒がいいって思ったから。たとえその代償に、くっそ目立った上に、男子から嫉妬で追い回される可能性があったとしても。
冷静に考えて、俺みたいな、クラスじゃ特に目立つような存在でも人気がある存在でもない、ただの陰キャヘタレが、学校どころか全国区で人気のあるアイドルのゆーちゃんとペアを組みたいだなんて、いきなり言い出したらどうなるか……。
え、なんで急にそんなこと言い出したの? うわ、絶対に下心でしょ、陰キャきも……みたいなことを思われて今後の学校生活に支障が出る可能性間違いなしだろう。それでも、ゆーちゃんとペアを組みたいと思ったのだから、ここは頑張るしかない。たとえクラス内での評価が地に堕ちたとしてもだ……!
そんな感じで自分の中で一大決心をして、誰と誰がペアを組むか一緒に出場するクラスメイトたちと相談してる時に、ゆーちゃんとペアを組みたいって言ってみたら、まさかのあっさりOKで拍子抜け。
何故かクラスメイトたちから謎の生暖かい目で見られてしまった。そもそも俺とゆーちゃんでペアを組むものだと全員が思ってたらしい。いや、なんでだよ。
「いやだって……ねえ? 高原以外に誰が伏見さんと組めるの?」
「そうそう。普段のあんたら二人を見てて、そこに割って入ろうとか誰も思わないでしょ」
「んだんだ。少なくともうちのクラスは女子も男子も皆そんな感じで思ってるし、色々、応援してるから安心しとけ」
「そういうわけだから、頑張ってね伏見さん!」
疑問に思ったので素直に聞いてみると、そんな感じの答えが女子から返って来て、
「そうだぞヘタレ、お前以外誰が伏見さんと組むって言うんだ、羨ましい」
「そうだぞヘタレ、むしろ別の女子と組めると思うなよ、羨ましい」
「そうだぞヘタレ、毎日毎日、見せつけられるこっちの身にもなりやがれ、羨ましい」
「そうだぞヘタレ、応援してやるからとにかく頑張りやがれ、羨ましい」
男子は本音が隠しきれていなかった。
うん、まあ、何も問題がないならよかったんだけど、こいつら、いったい俺とゆーちゃんをどんな関係だと思ってるんだ。割って入るとかお前、そんな彼氏彼女か好き合ってる同士みたいな扱い、そんな気なんてまったく無いゆーちゃんに迷惑だろうが。
「み、皆さん……が、頑張ります!!」
そう言って顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていたゆーちゃんを見て、え、まさか本当にそんな感じなの!? って一瞬、どきっとしたが、そんな自意識過剰な考えは自分が傷つくだけなので即座に却下する。
きっと顔が赤いのはゆーちゃんが初心で、そんな感じの関係だと勘違いされて思わず照れたとか、多分そんな理由だろう。それに、変な勘違いするクラスの連中に気を遣ってか、訂正をして空気を微妙なものにせず、頑張るって答えるゆーちゃんはつくづくお人好しだ。
そんな経緯もあり、俺とゆーちゃんは無事にペアとなって今に至るわけだが……いやうん、色々と想像以上だわ! 周りからの注目度もそうだけど、何より一番、想像と違ったのはゆーちゃんとの距離!! 二人三脚とか初めてやるけど、こんなに近いのか!?
現在、俺とゆーちゃんは当然だが二人三脚の状態で、ゆーちゃんの右足は俺の左足と紐でがっちり結ばれており、二人の距離はほぼゼロ距離と言っても過言じゃないくらい近かった。お互いの腕とか体が普通に当たっている。
いやほんと近い! 体の左半分が、がっつりゆーちゃんに当たってるんだけど!? 何ならいい匂いが普通にするんだけど!? 制汗剤だけじゃない、女の子特有の甘い匂いというか、言わばゆーちゃんの匂いが!! じゃなく! いや今のは流石にキモすぎるぞ俺!?
ああああああああ!! ごめんゆーちゃん!! 幼馴染がこんな変態で本当に申し訳ないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
さっきから心配そうにこっちの顔をのぞき込んでるゆーちゃんに罪悪感がマッハになる俺。
これから試合が始まるというのに、こんな有様でまともに動けるんだろうか。めちゃくちゃゆーちゃんのことを意識してしまっている。
競技を決めた日、二人三脚くらいで異性を意識したりするか? なんて疑ってた俺をぶん殴ってやりたい。がっっっっっっっっっっつり意識するわこんなもん!!
まだ試合が始まってもいないのに、はからずも、この二人三脚ドッジボールが、異性交遊の促進に効果があることを身をもって実感する俺だった。
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