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第六話 積み重ねと呪い

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 恋愛とは、人間関係の積み重ねで出来上がっていくものである。

 出会い、仲良くなって、2人の時間や思い出を積み重ねていくことで恋愛関係に発展するのは、およそ一般的な恋愛の過程だろう。恋人になってからも同じで、やはり関係を積み重ねることで、より強い結びつきを作っていけるはずだ。この積み重ねの量や質によって、関係の強固さは変わってくるはずだし、更なる関係の発展にも積み重ねは必要不可欠だ。そして、これは恋愛だけに限らない。

 スポーツや勉強なんかでも努力の積み重ねは必須だし、やはりどんな分野でも基本的には長い期間、積み重ねをしている方が優秀なことが多い。ごく稀にいる天才とか、とんでもなく向いてないやつとか、そんな例外もいるが。

 とにかく積み重ねることは、その物事の質を向上させやすい一番の方法だと言えるだろう。歴史なんかも人間の営みの積み重ねであり、創業100年の老舗店! なんて言われると、それだけで凄そうに感じてしまうし、そんな店の商品には、ある種の信用が生まれてくる。それはやはり、100年という時間の積み重ねがあるからなんだろうと思う。

 しかし! しかしである。これが100年どころか500年以上の歴史を持っている由緒正しい神社だとして、その神社に伝わるあり得ないような伝承を簡単に信じられるかと言えば、それは少し難しいというか、普通に考えて「神さまにやれって言われた」とか、そんな入り方の話を誰が信じるんだって話なわけだけどーー


「ーーってことなんだよ! つまりね! わたしの一族は神さまに呪われてるんだよ!」


 至極真面目な様子で、しかし、切実な思いを訴えるように、生徒会室の机を両手で何度も叩きながら、天崎は叫ぶように言った。

「神さまにやれって言われた」から始まった今回の件についての理由説明は、要約するとこんな感じである。


 1、天崎神社は500年以上の歴史がある由緒正しい神社で、縁結びや良縁の神さまを祀っている。

 2、天崎の母方の家系が代々巫女として神社を守っており、天崎家の女性は全員が白髪赤眼である。そして神さまの姿を見ることができ、意思疎通ができる。

 3、天崎神社の巫女は代々、神さまの言うことに従って、神さまの手伝いをしなければならない。絶対服従である。もし、神さまの言葉を拒めば、縁結びの神さまの力で一生独身にされてしまう。そしてこれは500年前から続いている。


 これだけ聞いたら、邪神か何か? って思うが、神さま側の主張というか、補足説明も聞いてしまっているので、何とも言えない気持ちになっていた。

 コミカルな動きで机を叩き続けて主張を続ける天崎の後ろ、空中にふわふわと浮いている存在に目を向けてみる。

 天崎と同じ白髪赤眼の和服幼女こと、自称神さまが、わざとらしく頬を膨らませて遺憾の意を示していた。持っているプラカードに彼女の気持ちが、可愛い丸文字で現れている。


『違うよ〜わたしそんなことしてないよ〜ぷんぷんだよ〜』


 うーん……見た目はまったく邪神には見えないし、思えない。

 この幼女、捲し立てるように天崎が説明してる間、それに合わせて、プラカードに補足する情報を書いて教えてくれていた。ペンも何も使わずに、プラカードに文字が現れては消えを繰り返す光景は、なかなかにインパクトが強かった。

 そして、その神さま側の主張を含めると天崎の説明だが、1と2に関してはまったく変わらないが、3に関してはかなり見方が変わってしまうのである。


 神さま曰く、天崎の一族が神さまの手伝いをしているのは、天崎の遠い先祖が神さまにしたお願いが原因らしい。

 お願いの内容は教えてくれなかったが、その代償のせいで天崎の一族は「生まれつき縁の結びつきが薄くなってしまった」らしく、神さまが言うには『何もしなかったら、一生独りぼっちになっちゃうんだよ〜』とのこと。神さまはそれを何とかするために、自分の手伝いをしてもらう代わりに、報酬として良い縁を結んであげて、代々、天崎の巫女たちが独り身にならないようにしているらしい。

 あれ? これめちゃくちゃいい神様じゃね? いやでも、代償も神さまがしたならマッチポンプか? うーん……わからん。どっちが正しいのか、はたまたどっちも正しいのか、そもそも目の前の幼女は本当に神さまなのか、色々聞きたいことはあるが、とりあえずこう言いたい。


「俺、関係なくない?」


 天崎神社の神さま事情、そこにどうして俺を巻き込む必要があるのか。別に天崎の親戚とかでもないし、そもそも初対面だ。何で俺が天崎の手伝いをすることになったのか。そこが一番聞きたい。できたら、俺を解放して別の誰かを犠牲にして欲しい。

 そんな普通の疑問をぶつけてみると、天崎は動きをピタッと止めて、悪い顔になってほくそ笑んできた。


「ふっふっふっ……神さまのご指名なんだから、関係あるに決まってるでしょ。それを拒否したらどうなっちゃうと思う? わたしと同じ目に遭っちゃうよ? いいの? 一生独身ーーううん、童貞でも!」

「おいこら最後」

「童貞だよ童貞!? しかも一生童貞! うちの邪神のせいで、一生死ぬまで! 童貞でもいいの!?」

「童貞童貞連呼するんじゃないよ! さっきの土下座もそうだけど、天崎には羞恥心とかないのか!」

「ないよ!」

「えぇ……」


 胸を張って、清々しいくらいのドヤ顔で言う天崎。

 ここまではっきり、断言されたらもう何も言えない。というかこいつ、ついに邪神って言っちゃったよ。しかもご本人の前で。

 そんな、自分の巫女に邪神呼ばわりされてしまった神さまは、当然だがプラカードを振って抗議している。そらそうなるわ。


「それでどうなの? 一生童貞の業を背負って生きることになってもいいの? 嫌だよね? だったらやることはわかるよね? ね?」

「近い近い近い! わかったから体を乗り出してくるな! だいたい、一生独身と一生ど、童貞は意味が全然意味が違うだろ」

「ふっふ〜ん、違わないんだなぁこれが。恋愛的な意味の縁にはね、そういう目で見られるかどうかも含まれてるんだよ」

「……」

「エッチな目で見られるかどうかってことだよ。もう、女の子にこんなこと言わせるなんて、この変態さんめ〜」

「お前が勝手に言ったんだろうが! 別にわからないから黙ったわけじゃなくて、呆れてたんだよ」


 童貞の次はエッチ発言。何言ってんだこいつってなるのは当然だろう。

 また変な嘘ついてるんだろうと、チラッと神さまの方を見てみると、神さまは、恥ずかしそうに顔を赤くしながら、プラカードを見せてきた。


『今のお話は本当だよ〜。縁がないと、そんな目で見られないし、そんな場面に遭遇できなくなるんだよ〜』


 まじかよ。

 まさかの縁結びの神さま公認の事実だった。

 え、まじで? 生徒会に参加しなかったら、俺、一生童貞なの? そ、それは絶対に嫌だ!


「おやおや〜高原くん、どうしたのかな〜? そんな深刻な顔になっちゃって。も、し、か、し、て〜生徒会に入りたくなったのかな〜? いいんだよ? 生徒会に入る、その一言さえ言ってくれたら、今までのことは全部、水に流してあげるよ?」

 

 腹の立つ笑顔で、録音アプリを立ち上げたスマホを見せつけてくる天崎。

 こ、こいつ、自分が有利な状況だってわかったら、ものすごい勢いで調子に乗り出しやがった! 

 ムカつくので、全力で拒否してやろうかと思ったが、天崎の言っていることが真実なら、本当に一生独身かつ童貞という悲しすぎる未来になってしまう。しかも、自称神さまという不思議な存在も認めているので、信憑性はかなり高そうだ。

 ………………背に腹は変えられないか。


「はぁ……わかった。わかりましたよ。生徒会に入ーー」


『でも安心して〜そんな呪いかけてないから〜』


「らない!」

「えぇ!?」


 あっっぶねえぇぇぇ! 

 神さまのありがたい補足情報で、ギリギリ回避に成功する。

 何が一生童貞の呪いだよ、まったく……。ていうか天崎のやつ、躊躇なく土下座したり、脅してきたり、とんでもなく恐ろしい嘘ついたり……割と目的のためなら手段を選ばないタイプだな。可愛らしい見た目からは想像もできない。

 そんな、見た目は美少女、中身は邪神な天崎は、まさかのキャンセルに信じられないものを見る目になった。


「高原くん正気!? 冷静に考えて、一生童貞とか悲しすぎるよ!? 一生童貞として生きていくつもりなの!?」

「誰もそんな悲壮な決意はしてねえよ! 普通に考えて、そんな呪いあるわけないだろ」

「本当にあるんだよ! 信じてよ! うちの神さまはそれくらい平気でやるんだから!」

『そんなことしないよ〜』


 必死になってる所悪いけど、その背後で神さまが直々に否定してるんだよなぁ……かと言って、この自称神さま、他称邪神の言ってることをそのまま信じるのもちょっと……見た目と中身が伴ってない例が目の前にいるし。


「聞いてる!? ていうかさっきから、たまに視線が合わないんだけど、どこ見てるの!?」

「あ」


 天崎の話を聞きながら神さまのプラカードをちらちら見ていたのが悪かったらしい。俺の視線の先、すなわち、彼女の背後へと、勢いよく天崎が振り返る。

 当然だが、そこには天崎曰く、邪神こと和服幼女がふわふわ浮いているわけで……。


「ーーーー」


 後ろを向いたままの姿勢で固まってしまった天崎。角度的に顔は見えないが、それはそれは素晴らしい表情をしていることだろう。神さまが満面の笑顔で天崎を見ていることから、何となく察してしまう。彼女のプラカードに何の文字も浮かんでないのが恐い。

 本人の前であんだけ好き勝手言ってた天崎はどうするつもりなのか。そんなことを思っていたら、天崎はゆっくりと音もなくスムーズな動きで、椅子から立ち上がり、


「大っっっっっ変申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 非常に洗練された自然すぎる動きで、それはそれは綺麗な土下座をかました。

 それは一朝一夕ではできない、多くの経験の積み重ねがなければできないだろう見事な土下座であり、側から見ていた俺ですら、どんなことでも許してしまいそうな気持ちになってしまう。

 やっぱり積み重ねは強さと説得力を生むんだなぁ、と思う反面、その極地にたどり着くまでにどんだけ土下座する経験してきたんだと思ったら、とてつもなく悲しい気持ちになった。

 そんな、見事というしかない土下座の直撃を受けた神さまの回答はーー


『許さないよ』


 大変無慈悲なものであった。さっきまであった「〜」がないのが、めちゃくちゃ恐かった。

 とりあえずこの状況から考えるに、天崎にもこの幼女の姿が見えてること、そして、この態度から彼女が天崎神社の神さまだということは間違いないだろう。


「お許しくださいぃぃぃぃぃ!!」

『邪神だから許さないよ』


 土下座を続ける天崎と、その姿をニッコニコの笑顔で見下ろしている神さま。

 朝の騒動から放課後まで長かった一日だったが、どうやら長い一日はまだまだ終わらなさそうだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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