第四十九話 声援は力になる
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
ガチ勢だらけの試合はバスケ素人の俺にとって、それはそれはもう恐ろしいものだった。
ボールを持ってしまえばもの凄い勢いで奪いに来るし、相手のドリブルを止めようとすれば強引に体を捻じ込まれて抜かれる始末。
やだ、うちのバスケ部パワープレーヤー多すぎない? って言いたくなるくらい圧がすごかった。
ボール来るなボール来るなと心の底から念じながらコート内を無駄に駆け回り、経験者たちに蹂躙される俺の姿はさぞ情けないものだったに違いない。
ただそんな俺というお荷物を抱えてるというのに、今のところ試合自体は互角かそれ以上にやれてるのがすごい。
女子にモテたい欲かはたまた顧問への恐れかブーストのかかった現役バスケ部三人衆と、その三人と比べても遜色がないどころかそれ以上のレベルで動いている竜也が、俺という穴を十分すぎるほど埋めていた。
バスケ部連中もすごいけどそれに普通について行ける竜也はどうなってんの? 万能人間にもほどがあるだろ。もうこれ俺いなくてもよくない? ベンチウォーマーにさせてくれ。
しかし悲しいかなそんな俺の願いが届くはずもなく無慈悲にも試合は続いた。
そして現在、ようやく一試合目の前半が終わったところである。
球技大会ではどの競技も学年別で試合をするのだが、二年は四クラスあり、なおかつ総当たり形式のため試合数は三試合。そして一回の試合時間は、前半後半それぞれ10分でハーフタイムなしの計20分。
つまりこれから、時間にしておよそ60分ほど俺はバスケガチ勢と楽しくプレイしないといけないわけだ。
それにしても、まだ10分しか経ってないとかマジ?
日ごろのランニングが功を奏したのか体力的な疲れはあまりないが、相手選手からの圧や試合を見ている周りの生徒からの視線による精神的な疲れで、既に俺はヘトヘトだった。
はぁ……あと二試合と半分もあるのか……いや逆に考えよう、二試合と半分を頑張ればこの地獄が終わるんだと!
そんな感じで無理やり自分を鼓舞してコートに入り位置につくと、後半戦開始のホイッスルが鳴った。
前半と同じようにボールを目で追いながら、こっちにだけは飛んでくるなと願いつつコートを走り回る。
一試合目の相手チームは全員がバスケ部というガチ中のガチ。
だというのに流石の竜也クオリティ。後半戦開始早々、相手からボールを奪った竜也がそのままドリブルで三人抜いて華麗にシュートを決めた。いやエグイな。
「「「きゃー!! 五位堂くんナイスシュート!!」」」
周りで見ている生徒(女子)たちから黄色い声が上がる。
流石の金髪イケメンモテ男こと竜也、あんな風に竜也のことを応援する女子生徒の多いこと多いこと。前半戦の時からずっとこんな感じだった。
うちのクラスだけじゃなくて他のクラスの女子もいるっぽいし、竜也のモテっぷりは相変わらずすごい。そして、あんなに女子から見られ続けてるのに平気そうなのがなおさらすごい。
俺なら緊張で死んでしまうこと間違いなしだ。死因、視線集中による緊張過多。うーん、さすがにこの死因は嫌だな……。
そんなのんきなことを考えてる俺とは違い、竜也と同じくらい活躍してるはずなのに女子からの声援なんてまったくないバスケ部三人衆は、ものすごく羨ましそうな顔で竜也を見ていた。ハンカチがあったら、咥えてキーッ! とか言いそう。
「「「キーッ!!」」」
言いやがった。
けど残念だったなお前ら、同じチームに竜也がいるのに女子からモテるなんてことがあると思ったか。うちの竜也をなめるなよ? ダ〇ソンの掃除機も真っ青になるくらい女子の視線や気持ちを吸い取るからな。
哀れ竜也のモテ力の前に圧倒的敗北を喫した三人衆を他所に、試合と竜也への声援は続く。
「五位堂くん頑張ってー!!」
「いけいけ五位堂くーん!!」
女子からの声援なんて全く気にした様子のない竜也が、相手のパスしたボールを上手くはたき落として、奪い取ることに成功する。
「悔しい!!」
「妬ましい!!」
「マジで顧問にどやされるからそれ以上は勘弁してくれぇぇぇぇ!!」
「「それな!!」」」
もうお前ら三人でトリオ組んでコントでもやれよ。
息ぴったりすぎる面白い三人の様子に内心つっこんでいると、ここでまさかの事態。
「ほい空太パス」
「は!?」
今度はどんなスーパープレイを見せてくれるんだ? なんて完全に観戦気分で油断してたら、何故か竜也から俺にボールが回ってきた。
味方からのパスをスルーするわけにもいかないのでキャッチすると、途端にガチ勢(推定身長二メートル越え)がものすごい圧をかけながらボールを奪おうと接近してくる。
いや怖い怖い怖い!! いくらなんでもガタイが良すぎるだろバスケ部!!
「空ちゃーん!! 頑張ってー!!」
身の危険を感じ即座にパスできそうな味方を探していると、まさかの声援がコートに響いた。
競技中でうるさいくらいなのにハッキリ聞き取れたのは自分のことを呼ばれているからだろうか、それとも彼女が普通の人より声量も肺活量も間違いなくあるだろう歌って踊れる人気アイドルだからなんだろうか――じゃなくてゆーちゃんんんんんんんんん!? なんで急にそういうことするの!? 超絶イケメンプレイのできる竜也と違って、俺なんて応援されても特に何もできないんだから!! 気持ちは嬉しいけど、めっちゃ恥ずかしいんだけど!!
「ウオォォォォォォォォォ!!」
まさかの幼馴染からの声援に顔が熱くなりそうになるのを感じた瞬間、ボールを奪いに向かってきているガチ勢が突然の咆哮、そして鬼のような形相になった。
「アイドルゥ……オウエン……ユルスマジィ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
血涙を流して追い回してくる大男からドリブルで必死に逃げ回る。
どうやらさっきのゆーちゃんの応援は相手チームにもがっつり聞こえていたらしい。理性を失った化け物みたいになっていた。
圧!! 圧がすごい!! 捕まったら殺されるんじゃないかってくらいの圧なんだけど!! やばいやばいやばい何とかしてさっさとボールを手放さないと命に関わる気がする!! だ、誰かパスできそうなやつは――
「頑張れー」
「頑張れー」
「頑張れー」
「「それなー」」
なんでだよ!? お前ら露骨にやる気なさすぎじゃね!? 助けろよ!! そんなんだからモテないんだぞ!! モテない俺が言うことじゃないけど!!
「タカハラソラタユルスマジィ……!!」
「アイドルニアイサレシモノハシネェ……!!」
「モテルオトコニジヒハナイィ……!!」
「モハヤノガレラレヌゾォ……!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? バスケってこういう競技じゃねえだろぉぉぉぉぉぉ!? 竜也ぁぁぁぁぁぁパスだぁぁぁぁぁ!!」
気づけば相手チーム全員が理性を失った化け物になって俺を捕まえようとしていた。
まさかこんな形で、ゆーちゃんの凄まじい人気を実感することになるとは思いもしなかった。できれば、こんな命の危機と一緒に感じたくなかったけどな!
結局この後すぐ、全員が俺をマークというかロックオンしたおかげで完全フリーになった竜也にボールをパスしたが、嫉妬に狂った相手チームはボールになんて目もくれず執拗に俺を追い回し続けたのだった。
いやお前らちゃんとバスケしろよ!?
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